<米中新時代(1/2)>「競争的共存」で衝突回避なるか=将来の“世界覇権”にらみ攻防激化

<米中新時代(1/2)>「競争的共存」で衝突回避なるか=将来の“世界覇権”にらみ攻防激化

東西冷戦が終結した後、「唯一の超大国」として君臨してきた米国と「中華民族の偉大な復興」スローガンを掲げる中国。経済、軍事両面で将来の覇権を賭けた攻防が激化している。経済の相互利益の拡大を通じ、厳しい対立を回避できるかどうかが今後を占う鍵となる。資料写真。

東西冷戦が終結した後、「唯一の超大国」として君臨してきた米国と「中華民族の偉大な復興」スローガンを掲げる中国。経済、軍事両面で将来の覇権を賭けた攻防が激化している。経済の相互利益の拡大を通じ、厳しい対立を回避できるかどうかが今後を占う鍵となる。

国際通貨基金(IMF)によると、中国の国内総生産(GDP)は2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、世界一になった。世界銀行は実質GDPでも10年以内に拮抗すると予想。消費市場としても実質世界一であり、多くの国にとって貿易相手国のトップを占める。米国、欧州、韓国、東南アジア諸国なども中国のパワーを無視できない。

◆AI・ITでも覇を競う

人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)など次世代産業を左右するビッグデータ分野で、米国と中国が覇を競っている。インターネットの閲覧や買い物履歴など経済のデジタル化が進行。ビッグデータは消費者の嗜好分析やマクロ予測など経済活動の基礎となる宝の山。「その質と量が世界経済の帰すうを決める」とまで言われている。

米国はグーグル、マイクロソフト、アップル、アマゾン、フェイスブックなどのネット大手が世界中で日々、膨大なデータを蓄積。一方中国でも、ネット通販最大手・アリババ集団、検索大手・百度(バイドゥ)、インターネット大手・テンセントなどが米国企業を追い、米中は、ビッグデータで優位を築く争いを繰り広げる。

世界最大14億人の人口を有する中国では、アリババの電子決済サービス「アリペイ」とテンセントの「ウィーチャットペイ」のユーザー数は計十数億人。アリペイは毎秒数千件もの決済情報をサーバーに蓄積する。データを集めれば、それだけ人工知能(AI)の性能を高められる。米中では「ビッグデータは現代の石油になる」とまで言われている。

また、米国帰りのITエンジニアを中心に、スタートアップ企業も続々生まれ、企業価値が10億ドル超の世界の未公開企業「ユニコーン」222社中、59社は中国企業が占める。中国は外資が中国での利益を中国内で技術先端分野に投資すれば、17年1月に遡及して投資分に課税しないことを決定した。
 
中国に対抗して米国は、IT企業が金融業に本格進出できるように銀行と商業の法律上の壁を取り払うことを検討中。またIT企業などが海外に留保する巨額の利益を米国に持ち帰る際の税率を下げることで、IT企業の収益を大幅に増やしている。

米国は、中国が個人のデータ情報を国民監視や治安維持の道具に使っていると批判。一部中国企業の米IT企業買収を阻止し始めた。中国側は「グーグルなど米国企業もブラックボックスであり、膨大なデータを米政府も活用している」と応酬。アジア、中近東、中南米などの途上国では、米中IT企業の激しい戦いが展開されている。

◆「人類運命共同体」で警戒解く?

習近平主席は、「建国百周年を迎える2049年までに超大国となる」目標をアピール。覇権国家・米国と激しく衝突するリスクがある。習主席は「人類運命共同体」理念を昨秋に掲げ、「核心的利益の抑制」「軍拡抑制」方針を示して米国の警戒をかわそうとしている。習氏をよく知る宮本雄三元駐中国大使は「人の耳目を欺くために方便としてこの概念を打ち出したとは思えず、真剣に追求したいと思っている。サラリーマン社長だった江沢民・胡錦濤と異なりオーナー社長の2代目(太子党)なので、中国をいかに尊敬される国にするか考えている」と期待する。

一方で、宮本氏は「人民解放軍を強くする」とも言っている点を問題視。その役割と「人類運命共同体」の理念を支える原則を説明すべきだと主張する。「軍拡抑制などを具体化してルールを決め、ルールの実施が担保される仕組みを考える必要がある。一刻も早く整理し説明しないと米国安全保障専門家(軍事当局)の出番となる。このままでは米国防総省は中国を“敵国”とみなし、軍事衝突の危険が高まってしまう」と警告している。

実際トランプ米政権は軍事予算を積極的に拡大。今年2月初めに、今後5〜10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR)」を公表。オバマ前政権の核軍縮方針を転換し、核兵器の抑止力を強化した。トランプ大統領は「米国はこの10年間で核の保有数や役割を減らした。他の核保有国は備蓄を増やし、他国を脅かす新兵器を開発した」と中露や北朝鮮を念頭にこう批判した。19会計年度(18年10月〜)の国防予案は6861億ドル(約74兆円)で前年度比13%増。11年度以降で最大規模となった。
 
中国は16年の軍事費で2位。米国の3分の1の規模だが、1990年比で約10倍に増え、軍事大国になった。一つの弾道ミサイルに複数の核弾頭を載せて、複数の都市を同時に攻撃する多弾頭弾も持つとされる。

◆踏み出した「新型大国関係」

米国と中国は世界1、2位の経済・軍事大国として対峙しているが、冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に経済相互依存が存在するためである。昨年11月に北京で開催されたトランプ米大統領と中国の習近平国家主席のトップ会談で、懸案の「北朝鮮非核化」で一致したほか、米中貿易不均衡是正のため2500億ドル(約28兆円)以上の商談が成立。中国も悲願の「新型大国関係」を内外にアピールした。トランプ大統領は首脳会談の冒頭「米中は世界の問題を解決する能力がある。ウィンウィン関係を築く」と明言したが、これは習近平主席にとって待望していた言葉である。

習政権の有力ブレーンである胡鞍鋼・清華大学教授は、習氏が国家主席に就任した2012年以降「米中間で交わした合意は七百件を超え、早晩九百件以上になる」と指摘。両国が世界を牽引する「2トップ」として「新型大国関係」に事実上踏み出したと分析している。胡教授は「世界1、2の大国が仲良くしなければ世界に“激震”が起こる。中国と米国の間に大きな太平洋があり、両国がステークホルダー(利益共有者)になることができる」と力説。「米中協力の数は数知れない。経済分野はもちろん、米国の共同研究先のトップは中国で両国は切っても切れない仲。互いに利益を共有しており、協力すればさらに大きな成果が期待できる」と指摘。米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に緊密な経済相互依存が存在するためという。

◆米中はゼロサム関係ではない

米中関係に詳しい呉心伯・復旦大学国際関係学院副院長兼アメリカ研究センター所長は「中国は米国との対立は望まず、競争と協力のバランスをとり共存、衝突は回避できる」と指摘。「米中はゼロサム(一方の利益が他方の損失になること)関係ではなく相互依存関係にあり、ウィンウィンの関係だ。双方は経済貿易や北朝鮮の核ミサイル開発問題で連携できる」と強調している。

米中の実情に詳しい松尾文夫・元共同通信ワシントン支局長によると、米中間には「相互確証破壊」(二つの核保有国の双方が、相手方から核先制攻撃を受けても、相手方の人口と経済に耐えがたい損害を確実に与えるだけの核報復能力を温存できる状態)が成立しており、核戦争ができない間柄にあるという。同氏は「これで結ばれた米中関係は日米間よりも深い」と見ている。

毎年、米中交互に開催されてきた米中戦略・経済対話は、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が経済や安全保障分野の懸案、国際的な課題について意見交換する大規模会議。毎年閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス数百人が出席。トランプ政権になっても枠組みを拡充して引き継がれた。米国との間で、日本にはこのような定期的な戦略的大規模対話はない。米国では中国語を幼児に習わせる家庭が急増しており、トランプ氏の孫も中国語を学んでいる。(八牧浩行)
『<米中新時代2/2>貿易制限措置応酬も交渉優先、「取引」成立か―米で対中強硬派台頭、中国は冷静対応』に続く

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