テンセントの投資戦略を分析、楽天への投資は“純投資”か、日本市場の投資価値とは?

テンセントの投資戦略を分析、楽天への投資は“純投資”か、日本市場の投資価値とは?

テンセントの楽天への投資が議論の的だ。日米の政府が情報漏れを警戒、監視を強めるべきという。写真はテンセントの店舗。

テンセント(騰訊)の楽天への投資が議論の的だ。日米の政府が情報漏れを警戒、監視を強めるべきという。楽天の三木谷社長は、“純投資”であるとして、これをきっぱり否定した。テンセントは事業会社であるとともに、中国を代表する投資機構の1つである。ここでは、テンセントの投資戦略について、中国ネットの記事から分析しよう。議論の参考となるはずである。

■テンセントの収益構成…主要4部門+投資

テンセントは1998年11月、馬化騰(ポニー・マー)ら5人の若者により、深センで設立された。ゲームとコミュニケーションツールを看板事業として発展、今やアリババを抜き、株式時価総額の中国トップ、世界7位(2021年4月末)の巨大企業である。

2020年の売り上げは4821億元、前年比28%増、利益は1598億元、前年比71%増だった。部門別の売り上げと構成比は以下の通り。

ゲーム…1561億元、32.3%

SNS…1081億元、22.4%

広告…823億元、17.0%

金融・企業サービス…1281億元、27.0%

ゲームの構成比は年々減少している。2017年は41%だった。その結果、現在では、主要4部門のバランスが取れている。さらに決算書には、投資による収入が695億元(約1兆1800億円)ある。

■投資部門を率いる“最強の軍師”

2020年1月、テンセント総裁・劉熾平は、テンセントの投資先は800社を超え、そのうち70社が上場を果たし、ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上のベンチャー)は160社以上、と明らかにした。

そして2020年は168件、478億元(約8100億円)の新規投資を行った。これにより、投資企業は国内外1000社、上場は100社となり、ダブルで大台に乗せた。

劉熾平は1973年、北京生まれの香港人。米国ノースウエスタン大学経営大学院で修士を、ミシガン大学の電子工程、スタンフォード大学の電子工程でそれぞれ学位を取った。その後香港で、マッキンゼー&カンパニー、ゴールドマンサックスで勤務する。ゴールドマンサックスでは、アジアの電気通信、メディア、ハイテク部門の投資責任者を務めた。ゴールドマンサックス在籍中の2005年、劉熾平はテンセントの香港市場上場を手掛ける。このとき馬化騰は彼の才能を高く評価、スカウトした。ポジションは、戦略、投資、M&A、広報を担当する首席戦略投資官だった。以後、馬化騰の“最強の軍師”と呼ばれる。

■“神秘的部門”の戦略

劉熾平は2008年、騰訊投資を立ち上げ、投資業務を本格化させた。10人でスタートし、現在は70人、北京、上海、深セン、香港にオフィスを持つ。その大成功によりテンセント社内の“神秘的部門”とされている。投資理念は以下の通り。

1.戦略は“不変”、方向は“変”…戦略的に投資先を選定する。ITスタートアップ企業の多くは短期収益が望めない。テンセントのエコシステムにアクセスすることで、間接的な企業価値上昇を図る。

2.長期の投資価値を重視…初期投資、晩期投資の区別なく、将来大きな価値を見込めるかを重視。

3.優秀な創業者をサポート…持ち株比率は10〜30%にとどめ、創業者に意思決定をゆだねる。ただし、SNSやコンテンツ作成など、テンセントの“核心領域”では、買収合併も排除しない。

4.世界的視点…海外投資を活発化。

5.リターン重視…年間利回り目標30%。高すぎる買い物はしない。

■主要投資先(ゲーム以外)

“核心領域”ゲーム関連会社への出資では、世界的に業界支配を強める明確な意思が見て取れる。ここではゲーム以外の主要投資先を見てみよう。

中国国内

京東(JD)…総合通販、自社物流に強み。

?多多…共同購入型総合通販。

美団点評…フードデリバリー、シェアサイクル等、生活総合サービス。

知乎…Q&Aアプリ、3月末、米国市場へ上場。

Bilibili…オンライン視聴、動画共有。アリババも出資。ソニーと提携。

滴滴…配車アプリトップ。2021年上場か。

捜狗…検索エンジン。

快手…ショートビデオ2位、TikTokのライバル。

58同城…不動産、求職サイト等、生活総合サービス。

虎牙直播…オンライン視聴。

喜馬?雅FM…音声コンテンツ。

貝殻…オンライン不動産売買。

同程芸龍…オンライン旅行。

猿輔導…オンライン教育。

丁香園…オンライン医療、健康科学。

蔚来(NIO)…EV。

途虎養車…オンライン自動車整備。

海外

テスラ…2017年、5%取得。

スナップチャット…2017年、12%取得。

Reddit(レディット)…2019年、3億ドル出資。

スポティファイ…2018年、上場子会社テンセント・ミュージックと株式持合い。

ユニバーサルミュージックグループ…2019年、10%取得。

Go-Jek…インドネシのア配車アプリ。2018年、12億ドル出資。

See…シンガポールのネット通販Shopeeの運営会社、39.8%出資。

■東南アジア市場優先か

小売事業はテンセントにとって“準”核心領域といえるだろう。それでは楽天への出資3.65%はどう捉えるべきだろうか。成長市場の東南アジアで、アリババと激しく争うSeeへは40%近く出資している。今月、インドネシアでは、Go-Jekと、アリババ出資のネット通販Tokopediaの合併が発表された。市場は激動している。最優先課題は、東南アジアでの勢力圏構築だろう。

成長性に乏しい日本市場、さらに技術的アドバンテージがあるわけでもない楽天に、高い戦略的重要性があるとは思えない。むしろ楽天の海外進出を、封じた感がしないでもない。残念ながら、日米政府が心配するほど、楽天と日本市場の投資価値は高くない、というのが実情ではないだろうか。

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