<直言!日本と世界の未来>2大経済大国・米中は世界全体の発展へ協調を―立石信雄オムロン元会長

<直言!日本と世界の未来>2大経済大国・米中は世界全体の発展へ協調を―立石信雄オムロン元会長

2大経済大国の米中は、世界経済の安定と発展へ協調する責任があると考える。ところがトランプ大統領と習近平国家主席は制裁と報復の応酬を続け、「貿易戦争」の終着点が見えない。グローバル化により発展した日本の企業関係者の一人として憂慮せざるを得ない。写真はNY。

2大経済大国の米国と中国は、世界経済の安定と発展へ協調する責任があると考える。ところがトランプ米大統領と中国の習近平国家主席は制裁と報復の応酬を続け、「貿易戦争」の終着点が見えない。グローバル化とともに発展の道を歩んできた日本の企業関係者の一人として憂慮せざるを得ない。
 
米国は中国の知的財産権侵害を理由とする第3弾の制裁措置を発動。2000億ドルの輸入品に10月24日から10%の追加関税を課し、2019年から税率を25%に引き上げる。制裁措置の対象はこれで2500億ドルに膨らみ、中国からの輸入品の半分に高関税を課す異常事態となる。

米国の強硬策に中国も報復措置で応じ、歩み寄りの兆しはみられない。貿易戦争の激化に伴い、中国では株価が下落、米国では企業のコストアップや物価上昇、海外からの直接投資の停滞が懸念されている。このままでは両国ばかりか、世界の経済にも打撃を与えかねない。米国の金利上昇や新興国の資金流出などで世界経済にマイナスの影響を与えている。 

何より重要なのは米国の自制だと思う。今回発表した制裁措置の対象には、食料品や家具のように知財保護との関係が曖昧な品目も含まれる。米国は国際ルールに抵触する一方的な制裁措置を撤回すべきだ。中国も悪質な知財の侵害や露骨な産業保護を改めなければならない。むやみに報復措置を発動するのではなく、摩擦の緩和に協力できる分野を探ってほしい。

各国の首脳や閣僚が国際的な課題を議論する国連総会の一般討論演説(9月25日)でトランプ大統領は「グローバリズムを拒絶する」と宣言し、「私たちは破綻した悪い貿易協定の再交渉を進めている」「国益に沿った形で自国の移民政策を決める権利がある」と強調したという。こうした「米国第一」を重視する姿勢に対し、同盟国である欧州や中東諸国の首脳が強く反論する異例の展開となったとようだが、「世界の盟主」米国の豹変には戸惑わざるを得ない。

私もかつて海外の取引先開拓のため諸国を飛び回っていた。米国へ本格的な進出をしたころ、シカゴ・シアーズタワーの53階にオフィスを構えていた。シアーズタワーは高さ500メートル、113階建ての当時世界一の高さを誇っていたビルで、部屋はちょうどその中間にあたる。夜遅くまで仕事をしていると静寂そのもの。こういう時にホールにあるトイレに座っていると、「キリキリキリ。キリキリキリ」とビルの軋む音がする。ミシガン湖からの強烈な風に煽られて一生懸命こらえているのであろう。その音がまるでビルの泣き声に聞こえ、不気味たった。しかし米国では多くの方々に助けられ、こうした不安から逃れることができた。

このように長年にわたり、私以上に多くの厳しい経験や心細い思いを抱きながら、日本のビジネスマンは開拓の努力をし、やっと今日の地歩を固めてきた。グローバル化が進展する中、多くの米国ビジネスマンの協力を得て、日本企業の海外進出は活発化したことを想起する。

私はかつて数十回にわたり中国の大学で講演を行ってきたが、印象深かったのは、中国人の高い学習意欲と教育に対する情熱である。最近の中国の大学は、国家の発展に向け、研究・教育体制の充実はもちろん、国内外を問わず産業界との連携とベンチャー企業の育成に大変積極的だ。しかも中国人の若者は基本的に米国を中心とした一流大学(大学院)に留学し、多くが首席を取り、留学後帰国せず、その地で事業を起こして成功したり、帰国し中国の発展に貢献するケースが目立つという。
 
米中の貿易戦争には覇権争いが絡む。新旧の大国の衝突は避けられないという「ツキジデスの罠」(世界の覇権を目指す新興大国は既存の覇権大国に挑戦し、既存の大国がそれに対抗した結果、軍事的な争いに発展しがちな現象。古代アテナイの歴史家ツキジデスが唱えた)に陥ることを警戒する向きもある。米中は産業・投資や教育分野などで緊密な相互依存関係にあり、深刻な事態は回避できよう。両国は世界全体の安定と発展に向け、対話の窓口を閉ざさず、建設的な貿易不均衡の是正策を見いだしてほしい。
<直言篇63>

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