日中にとってコロナは変革のチャンス、変われなければ国が危機に―「新型コロナVS中国14億人」著者

日中にとってコロナは変革のチャンス、変われなければ国が危機に―「新型コロナVS中国14億人」著者

中国の新型コロナウイルスとの壮絶な闘いをまとめ、「新型コロナVS中国14億人」を出版したジャーナリスト・浦上早苗氏にインタビューした。

「新型コロナVS中国14億人」(小学館新書)が6月3日に出版された。著者は中国情報に詳しいジャーナリストの浦上早苗氏だ。浦上氏は同書の中で中国の最先端技術を駆使した取り組みを紹介。「私たちは見えないところで起こっている中国の進化から、眼を背けるべきではない。日本が『コロナ後』の世界でどうポジションを築くかを考える上でも」と説いている。このほどレコードチャイナのインタビューに応じ、中国の新型コロナウイルス対応の実態を語った。
◆同書の反響はいかがですか?

まだ発売数日なので多くの人から感想を聞けているわけではないですが、「感染症対策だけでなく、考え方の違いやスピード感など、さまざまな角度から日本と中国の違いを考えさせられる」「1つ1つのステージを、日本と比較しながら読むことができる」との言葉をいただいています。

本の帯から「テクノロジー本」との印象を受ける人が多いようですが、中国のカルチャーと企業の取り組み、そして日中の間でジレンマに陥る人々の生活を描いた内容です。私自身は日本を考えるためのコンテンツとも思っています。

◆同書では中国のコロナ対応についてかなり深くまで切り込んでいますね。中国で一応の収束を見てから間もないですが、なぜ短期間にこれほど取材できたのでしょうか?

日本で感染者が出たと発表された1月16日から、中国メディアを注視していました。春節(旧正月)を控え私も中国人と食事をすることが多かったのですが、新型コロナの話題を出すと、当時は中国の人も「武漢の話だから」と他人事でした。しかしその後、事態が急展開し2月末までは朝から晩まで新型コロナの中国の状況を調べ、主だった事象を日本語に訳してツイートしていました。

かなり危機感があったので、私は1月27日以降、会食などもほぼキャンセルして自宅にいました。起きて中国ニュースをチェックし、寝る前にもチェックする、そんな生活でした。だから、〇月〇日に何が起きた、というのはほとんど暗記しています(笑)。

中国人には随時取材していましたが、書籍の出版が決まった3月下旬、さまざまなルートで現地の日本人にコンタクトし、集中的に取材しました。日本の読者に説得力を持って読んでもらうためには、日本人の視点も不可欠だと思ったからです。幸い、コンタクトした人全員が「何らかの記録を残したい」「日本では報道されていない、自分が経験したことを伝えたい」と考えており、快く取材に応じてくださり、画像や映像もたくさん提供していただきました。

◆取材中に一番印象に残ったエピソードは何ですか?

色々な人から聞いたことが、「中国人は国をあてにしない」という言葉です。ある中国人に「日本政府は何でもお金をくれてすばらしいですね」と言われました。確かに経済補償などは、中国は日本に比べて少ないです。一方で、「国をあてにしない」から、早期から企業や個人のグループが国民のためにさまざまなサービスを開発し、生み出しました。厳しい言い方ですが、日本は政府は「日本人の民度の高さ」に頼りすぎ、国民は政府頼みのようにも感じます。本書にも書きましたが、日本企業の駐在員は、「本社が政府の勧告でしか判断できない」と愚痴をこぼしていました。

もう1つは、中国の大規模なPCR検査体制ですね。締め切り後で本には入れられなかったのですが、書籍に登場する中国・広東省在住の谷村さん(仮名)が5月下旬、「熱が出たので念のためPCR検査受けます」と話していて、「念のために受けられるんだ」と驚きました。日本では検査体制に課題があるため、私は4月下旬に38度台の熱が4日続きましたが、ただ家で寝ているだけでした。結局その後も10日ほど微熱が続きました。不安でしたが、どうしようもありませんでした。

◆中国の新型コロナウイルス対策の核心と言えるものは何ですか?

鍾南山氏の受け売りですが、「徹底的な外出制限・外出自粛」でしょうか。2月に内モンゴル自治区に住む中国人を取材し、「新型コロナの疑いがあるときはどういう手順になるの?」と聞いたら、「分かりません」と言われました。その理由は「家から出なければ安全なので、ニュースをあまり見なくなった」というものでした。日本人は怖いと言いながら出勤したり、買い物に出かけたりする、そうせざるを得ない人が多かったので、中国がこの数年で進めて来たキャッシュレス化や出前アプリが、こういう形で役に立つんだなあとも何度も思いました。日本でも4月に緊急事態宣言が出ましたが、飲食店、宿泊業界は3月から既に客足に影響が出ていました。経済への影響を考えて様子見が続いたわけですが、影響を最小限にとどめるために、初期段階で「短期決戦」を選んだほうがよかったのではないかと今も思います。

中国の感染源の追跡もすさまじいものがありますが、クラスターが発生したときに「彼氏」「部下」など感染者の人間関係まで公表されてしまうのを見ると、それは自分だったら嫌だなと思いましたね(笑)。クラスターの相関図がドラマの登場人物相関図みたいに見えて、いろいろ想像してしまうこともありました。

◆中国では「海外の国は中国の経験に学ぶべき」という声もあったようですが、体制や国情が異なると難しいですよね。中国の対策を取り入れることが難しい最大のポイントはどこだとお考えでしょうか?

先にも述べましたが、(中国の対策は)プライバシーが赤裸々に出てしまうことですね。本書でも紹介しましたが、当局が「〇〇スーパーの野菜売り場で15秒(感染者の)近くにいて感染した」とか、「隣人とマスクをつけずに2分間おしゃべりして感染した」と発表するので、日本には「おてんとうさまが見ている」という言葉がありますが、中国はカメラやスマホのGPSにチェックされているんだと改めて感じました。あそこまで公表されると、怖くて家でじっとするしかないです。

また、感染の可能性を隠した人、マスクを高額転売した人、このあたりはすぐに逮捕されて、判決も既に出ています。日本のECサイトが医療物資の転売をなかなか規制しなかった時にはいらいらしましたが、中国でコロナ関連の逮捕が相次いでいるのを見ると、議論や法整備を経ないのは問題だと強く思いました。中国は最初の対応が悪くて国際的な非難を受けたこともあり、途中からはやりすぎ感がちょくちょく見られました。

◆日本よりも早く感染拡大に歯止めをかけた中国を取材した経験から、今後日本に住む人々の生活にはどのような変化が起こると考えますか?

先日、武漢全市民の検査が終わり、無症状感染者300人が確認されました。おそらく日本にも隠れ感染者が相当数いて、検査体制とワクチンがないことには、地雷原の上で生活するようなものだと思います。

私は今回のコロナウイルスは、国や企業、個人のこれまでの取り組みや対応力を測る「中間テスト」だと思っています。日本と中国だけでなく、どの国でもその国の良い面が感染を抑え、悪い面が感染を拡大させました。企業や個人も同じです。早く変化に対応できたケースもあれば、時も思考も止まったままのケースもあると思います。中間テストは抜き打ちのように行われましたが、「期末テスト」に相当する第2波は秋冬に来ると言われ、今回よりは時間が与えられています。

中国EC大手のアリババや京東商城は2003年のSARSの逆風を乗り越え、追い風に変えました。第2波を防御するだけではなく、そこで変革、飛躍しなければならない。中国にとっても日本にとっても、変わるための巨大なチャンスであり、変われなかったら国としての危機に瀕すると考えています。(取材/毛利)

関連記事(外部サイト)