<コラム・莫邦富の情報潮干狩り>美談をでっち上げ、日本企業と行政を手玉にとる中国人ブロガー

<コラム・莫邦富の情報潮干狩り>美談をでっち上げ、日本企業と行政を手玉にとる中国人ブロガー

ギンザシックス最上階のTHE GRAND GINZA。モダンでスタイリッシュな雰囲気のフロア内にフレンチレストランなどが併設されており、ウエディング式場としても人気がある。写真は中国のSNSより。

ギンザシックス(GINZA SIX)の最上階にあるTHE GRAND GINZA(ザ・グラン銀座)。モダンでスタイリッシュな雰囲気のフロア内に、フレンチレストラン、バー、多目的ホールが併設されており、ウエディング式場としても人気がある。

■「小野醤在日本」の動画が物議
しばらく前、2人の中国人女性がこのTHE GRAND GINZAを訪れた。メインの女性は小野ちゃんを意味する小野醤(中国語本名は李暁歓)という。彼女は中国版TikTok(ティックトック)である抖音(ドウイン)のブロガーで、160万人余りのフォロワーを持っている。

やがて「小野醤在日本」というニックネームで抖音に2本の動画が投稿された。中身は大まかに言うとだいたい以下のような内容だ。

小野醤が女性友達とともにアフタヌーンティーを楽しもうとしてTHE GRAND GINZAを訪れた。しかし、席まで案内された後、まだ注文していない食事(アフタヌーンティーセット)が提供され、不思議に思い、周囲をよく観察してみたら、ようやく他人の結婚披露宴の会場に誤って入ってしまったことに気づき、どうしようと心配しながら、飲食をした。最後にはレストラン側に事情を知らないまま会場に入って飲食したことを認め、食事代を払おうとしたが、レストラン側は食事代を受け取らないばかりか、逆に小野醤たちに迷惑をかけたとして謝った。それでは申し訳ないと思った小野醤と友達はグリーティングカードを買ってきて、新郎新婦へのお祝いの手紙と3万円のお祝い金を添えて新婦に渡すようにレストラン側に頼んだという。

動画は礼儀正しい日本社会、その社会に負けないような中国人女性の振る舞いを描き出し、心温まる美しい話となった。その動画がアップされるやいなや多くのアクセスを受け、話題になった。

しかし、日本社会の事情を知る「陽子」という女性がすぐに疑問を出した。

「日本の結婚式の招待客はすべて名前が確認されなければならないのに、従業員はどうして確認せずに席を手配したのだろうか」

この疑問に対して、小野醤は非を認めるどころか、逆に「嫉妬を買ってしまった。絶対ああいうやつに点数を稼がせない」と言い放った。

そこへ「中日一博君」というニックネームの男性がTHE GRAND GINZAに電話をかけ、マネジャーに事実関係を確認した。そこで判明した事実は以下である。

まず、小野醤たちは2日に分けてレストランを利用した。レストラン側が案内したところは結婚披露宴が行われる会場とは無関係の普通の座席だった。出されたアフタヌーンティーセットはすべて小野醤たちが自分で注文したもので、もちろんその飲食代も払っている。動画に出てくる結婚披露宴のシーンは新婦がお色直しをして入場したとき小野醤たちが盗撮して勝手にネットにアップしたものだ。新婦に渡すようにと頼まれた封筒には、手紙は入っていたが、現金は一切なかった、という。

しかも、翌日にレストランにやってきた小野醤たちは、昨日座っていたのと同じ席を求めたが、たまたまその他のお客さんが利用していたので、すぐにその席は用意できなかった。そのため、小野醤たちがレストラン側とちょっと揉めてしまい、夜になるまで待っていても構わないから、どうしてもあの席を希望すると小野醤たちが喧嘩腰になったほどだ。行動におかしなことがあると判断したレストラン側は小野醤たちのことをはっきりと覚えていた。

つまり動画にある内容は自作自演したもので、2日目に前日と同じ席を求めたのも話作りに背景の一致を保つためだ。一生懸命かつ好意的に対応したレストラン側も新婚夫婦も、小野醤たちから見れば、動画に無料で出演したボランティア俳優に過ぎなった。

真相がネットで暴露され、狼狽した小野醤は自らの行動を反省するのではなく、まず、レストランを貸し切り、疑問を呈したブロガーたちを全員集めて口止めする作戦を考えた。「自分はあのレストランのVIPだ。あのレストランを貸し切りにすれば、レストラン側も文句はないだろう」と言い放った。このような懐柔作戦を考えると同時に、彼女の行動に批判的なコメントや動画アップを続けるブロガーたちに法的措置を取ると威嚇した。それでも批判の声を抑えることができなかったのを見て、「女の私にどうしてモラルのことばかり求めるのか?こんな動画を作っているブロガーはいくらでもいるのに、どうして私だけネット暴力を受けなければならないのか」と訳の分からない論理で自己弁解し始めた。

それでも小野醤に対する批判の嵐は静まらない。真実を知った人々は小野醤に自己批判と動画の削除を求めた。小野醤は弁護士を連れてレストラン側に事情釈明に行き、インターネットにアップされた例のでっち上げの動画は削除しなくていいというレストラン側の了解を得たと対外的に説明し、それで逃げきれると思ったようだ。しかし、若い在日中国人を主としたブロガーたちは批判の砲火を緩めなかった。四面楚歌の状態に陥った小野醤は最終的には仕方なく動画を削除し、インターネットにお詫びの動画をアップした(数日後、削除した)。しかし、そのお詫びの内容は核心問題に触れず、ただ編集にちょっと力を入れすぎたといった軽い自己批判だけだった。レストランで他人(結婚披露宴の関係者たち)を対象に盗撮を行った行為、その盗撮した動画を勝手にインターネットにアップした行為の違法性問題にはまったく触れていない。

■なぜ動画作成にここまで力を?
なぜ小野醤たちはでっち上げまでして、こうした動画作成に力を入れるのか。多くの日本人はたぶん理解できずにいると思う。小野醤たちがよく利用している抖音と言えば、中国企業が開発し中国を発祥とするショートムービーアプリで、TikTokはトランプ米大統領が米国企業への売却を強く求めたことでも知られるものだ。TikTokは日本でも若者を中心に大人気だが、中国における抖音人気は、日本のレベルをはるかに超えている。9月15日、抖音を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)は抖音の1日当たりアクティブユーザー数が8月に延べ6億人を超えたと発表した。年初時点の4億人から利用者を大きく伸ばしたという。

バイトダンス中国の張楠最高経営責任者(CEO)はこの1年で2200万人超のクリエーターに417億元(約6500億円)の収入をもたらしたと説明し、今後1年でこれを倍増するため15億ドル(約1580億円)を投じる考えを示した。

抖音はトラフィック数に重きを置くような上層設計になっており、人気の高いコンテンツほどより多くの視聴が得られる。30万人のフォロワーを確保できたら、抖音から手応えのある収入が得られるという。「月収にして100万円もらえるのはざらですよ。小野醤ぐらいの人気ブロガーになると、さらにその数倍の収入は得られるのではないか。企業の広告ひとつもらえれば、数百万円は入手できる」と内情を教えてくれる人がいる。

そのため、抖音ブロガーには手段を選ばずにフォロワーを獲得しようとしている傾向が強く見られる。

日本人の恋人同士の片方を装って情報を発信する在日中国人「夏木与卷毛的日常」、熊本のイオンの商品処分を震災民の生活支援という日本美化情報にでっち上げてさらに拡散する「林萍在日本」などがその典型例だ。

捏造してまで日本を美化する情報を拡散する事例があまりにも多かったため、こうした人間を中国語では「日吹(日本吹聴者)」と呼ぶ傾向がインターネットに現れている。こういう人たちが制作・拡散した日本美化の情報は情報の受け手側から逆に反感を買ってしまい、日本を評価する情報の全体に不信感をもたらしてしまう。一種の「悪貨は良貨を駆逐する」現象がすでに現れている。

小野醤を起用した観光キャンペーンでは、某航空会社と九州のとある地方自治体が小野醤の自作自演に基本的な原則を無視してまで協力したことは、逆にその動画を見た人々の反感を大きく買ってしまった。私のところに、「アプリの美顔機能を駆使して38歳の人間をまるで女子大生のように若く加工して地方を宣伝したが、その動画を見て、逆にその宣伝された地方にまで不信感を持つようになった」「動画に出ている友達が新設した会社に偽装就職して日本在留ビザを入手した人間をあの航空会社はよく起用しているね。ブロガーに対するボディーチェックはしないのか」といった告発の情報が多数、送られている。中には、小野醤の所持している外国人在留カードは偽造した嫌いがあるという告発も来ている。小野醤にこうした事実関係を確認しようとしたが、彼女は私の取材のリクエストを無視して返事をくれないままでいる。

■「自媒体」にルールが必要
中国語では、SNSなど個人性の強いアプリやサイトを使って情報を発信するツールを「自媒体(個人情報発信者)」と呼ぶ。在来のメディア社会では、長年の運営を通して一連のルールが定められている。フリーランスの記者でもルールを守らないと社会の制裁を受ける。こうしたルールに照らしてみれば、小野醤の情報発信は間違いなくやらせ報道とでっち上げになる。そのやらせ報道ないしでっち上げに地方自治体の長やスポンサーである航空会社の関係者が進んで参与することは在来メディアの世界では、まずあり得ない。そもそも企画の段階で却下されてしまう可能性が大だ。仮にやらせ報道が世に出ていたら、それも間違いなく社会の制裁を受ける。

1992年秋に日本放送協会(NHK)が「NHKスペシャル」として放送した2回シリーズのドキュメンタリー番組『奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン』はその典型例だ。金銭を渡して住民に雨乞いをさせたり、取材スタッフに高山病のまねをさせるなど、番組制作にあたって数々のやらせ行為があったことがスクープされてから、社会から厳しい制裁を受けた。

ニューメディアと呼ばれるネットの情報発信業界では、無数の「自媒体」が活躍している。こうした「自媒体」にもルール制定が必要だ。小野醤のような悪質なブロガーに対しては、在日中国人社会の自浄力で駆逐するだけではなく、こうした悪質なブロガーが生まれにくいネット環境、ネット秩序を法律的にも、世論的にも整備しなければならない。(莫邦富)

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