日本の教育は中国より遅れている?算数の教科書に見る「解答」

日本の教育は中国より遅れている?算数の教科書に見る「解答」

日中の算数の教科書の最後のページを比べてみると、日本の教科書には20以下の数の足し算と引き算が、中国の教科書には二桁の数字同士の足し算と引き算や筆算や3つの数の足し引き混合の計算が載せられている。

「悪いけど、取り寄せるだけ無駄だと思う。ゴミになっちゃうだけだよ」。
海外に在住の父兄の皆さんならきっとご存知であろうが、日本の小学校の教科書を無償で海外在住の日本人の子弟に送ってくれるという非常にありがたい制度があることを、僕もごく最近になって知った。
この制度については文部科学省のサイトや各国の日本大使館・領事館のサイト、また海外子女教育振興財団のサイトに詳しいので、是非そちらをご参考いただきたい。
とはいえ問い合わせをしたところ、「教科書が税関で差し押さえられることがあることから当財団から中国への発送は致しておりません。日本で受け取ることができるご住所がありましたらそちらに発送はさせていただきます。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます」とのこと。
それでさっそく日本にいる妹に助けを仰ぐと、冒頭で書いたように速攻で諭されてしまった。
結果的に僕ら「親の気持ちは分かる」ということで快諾してもらったものの、台湾人と結婚し娘二人を育て上げ世に送り出した妹の話には、確かに説得力がある。
第一に、台湾や中国といった中華圏の子どもの詰め込み教育はパンパなく、特に理数は中国の教育で日本の教育を代替できるから、そのうえ日本の教科書まで教えようとしたら、ただでさえ宿題漬けの子どもがかわいそうなのだという。
これは最近の「日本の小中の理数、国際平均上回る−1位はシンガポール | 日本経済新聞」などの記事をご覧になられた方ならお分かりだろう。国際学力テスト「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」にて上位を占めるシンガポール・香港・台湾というのは、いわゆる中華圏の国々また地域である。
TIMSSに不参加の中国の理数「詰め込み教育」について言えば、中国では幼稚園で既に九九が登場したりする。娘が僕の横で暗唱していたから、これは冗談ではない。前のコラムでもご紹介した、「三字経」や「唐詩」の暗唱の延長としてなのだろう。後々のことを考えるなら九九のほう生活に密着しているから、暗記のし甲斐もありそうだ。
さて4月となり、日本の教科書が日本からはるばる中国の拙宅に届いた。小学校1年生の娘が好奇心丸出しで小包を開ける。そして昼休みに家に帰ってくると(中国は日本のような給食制度がない)、毎日のように算数(中国語では「数学」なのだが、以下「算数」とさせていただく)の教科書を指を使ったり鉛筆でチェックしたりして(小学校1年の子どもにしては)どんどんと解いていく。
だが断っておくが、我が娘は別に算数が好きというわけではない。
もし中国人もしくは中華圏で同年代のお子さんをお持ちの日本人の親御さんであればすぐにお分かりかと思うが、娘は単に自己防衛でこれをしている。つまり日本の算数の教科書は中国のそれより簡単なので、とにかくこれにかじりついていれば他のことをするように親から言われないで済むと思ってやっているだけである。
子どもというのは正直なので、この時点ですでに「解答」は明白である。いや率直な話、日本の算数の教科書の前半部分というのは、娘が幼稚園の時にやっていた「宿題」の延長レベルのような感じがしないでもない。
だが僕も日本人だから、ここまで読んで日本人の読者の皆さん(特に同年代のお子さんをお持ちの日本人の親御さん)がこの「解答」を容易には受け入れがたい、というのもよく分かる。
それで、別の「解答」をご紹介したい。先日、中国人の妻から娘の算数の宿題を見るように言われた時のことだ。ドリルには下記のような式があり、娘によれば先生からやり方をまだ教わっていないとのことだった。
37+19+18=○+○=
76-57-13=○-○=
算数(数学)の心得のある親御さんならすぐお分かりになろうが、これは中国語で言うところの「脱式計算」の練習(順番に計算する練習)である。それでこんな風に書いて見せる。
37+19+18=37+37=74
76-57-13=76-56-1-13=20-1-13=19-13=6
こうすれば日中共に小学校1年生にやらせようとする計算のレベルはそれなり同じになるのだが、日本の算数の教科書は10−3+2とか9−3−3−3とか60+40とか100−70といった計算止まりなため、かえってがっかりさせられてしまう。
というか、別コラムにも書いた脱ゆとりな日本が10−3+2で、ゆとり教育めいたものが始まった中国が37+19+18=37+37=74というのは、あんまりな差ではなかろうか。
だが、これでもまだ「解答」を出したくない日本人の父兄の皆さんもおられるかもしれないので、ご自身の目で確かめられるよう、日中の算数の教科書の最後のページを比べてみることにする。
小学校1年生の日本の算数の教科書(「あたらしいさんすう1の2」東京書籍)の最後のページには「1ねんのふくしゅう・けいさんめいじんになろう」とあり、20以下の数の足し算と引き算が載せられている。これはつまり、ずるっこで手だけでなく足の指も使えば、すべての計算が可能だという意味である。
対する中国の算数の教科書(「数学一年級下冊」青島出版社)はどうか。「総合練習」ページには二桁の数字同士の足し算と引き算のみならず、筆算(タテ書きの計算)や3つの数の足し引き混合の計算が載せられている。
もっとも、こうした冷徹な「解答」に、ダメージ軽減のための「クッション」を当てることもできよう。日本は多くのノーベル賞受賞者を輩出しているとか、日本の大学の世界ランクはまあ相応であるとか、持てるクッションをとにかく総動員して天下泰平を決め込むことも可能だ。
その一方で「日本の中学3年生は、中国の小学4年生レベル! 『日本の「中国人」社会』 | J-CAST BOOKウォッチ」にあるように、「読みながら気分が滅入ってきた。日本は遠からず、中国に抜かれるに違いないと思ったからだ」と本音を隠さない人もいる。この書評のテーマにもある「日本の中学3年生は、中国の小学4年生レベル」こそが、算数(数学)の日中格差の究極の「解答」に他ならない。
では、小学校1年生の日中の算数の教科書から垣間見える「解答」とは何か。
先に引用した書評にもあるのだが、「まず中国語をしっかり覚えさせるために、小学校4年ぐらいまでは、子どもを中国の祖父母に預ける。その後、日本に呼び戻し、新たに日本語をみっちり学ばせ、日本の中学受験に備える」というのが、日本で子どもを就学させようとする中国人の親御さんらにとっての一つの「解答」となる。
同様に、バイリンガル教育プラス算数教育のために、小学校4年ぐらいまでは中国を含む中華圏にとどまり、その後日本に帰ってから新たに日本語をみっちり学ばせるというのが、中華圏に赴任中の日本人の親御さんらにとっての一つの「解答」となろう。
つまり前のコラムにも書かせていただいたが、「もしあなたが中国語を勉強しているのであれば、子どもを連れて中国においでになられるといい。就学の問題があるだろうから、一番理想的なのは中国で産んで、または産んですぐ中国に来て、就学前まで中国にとどまったらいい。可能であれば中国で就学させ、少なくとも小学校の間は中国にいるといい」。
そんなわけで我が家では、日本の小学校の教科書はゴミにはならなかった。その算数の教科書は不出来な娘に自信を持たせ、親である僕ら(特に中国人の僕の妻)に日本での就学で後れを取ることはないとの安心感を与え、なにより算数の問題を日本語で出すことにより娘が嫌がる日本語の勉強を自然な仕方で行うのに大いに役立っている。
では娘と共に中国に長期滞在中の僕らにとって、日本の国語の教科書は日本語を学ぶ上でどうなのだろう。その「解答」は、次回コラムでご紹介させていただきたい。

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