中国の預金準備率引き下げに市場が驚いた理由

中国の預金準備率引き下げに市場が驚いた理由

中国人民銀行は9日、預金準備率を0.5%ポイント引き下げ、約1兆元の流動性を放出すると発表した。これは一見、普通の金融関連ニュースだが、実は意味のある情報だ。資料写真。

中国の中央銀行の中国人民銀行は9日、預金準備率を0.5%ポイント引き下げ、約1兆元の流動性を放出すると発表した。これは一見、普通の金融関連ニュースで、ざっと見てすぐにスルーしてしまいがちだが、実は意味のある情報だ。この措置は金融緩和を意味するため、この1週間あまりで国内外の多くの経済関連メディアが報道した。

今回の預金準備率引き下げにについて、「予想外」と分析した報道が少なくなかった。つまり、中国の中央銀行と政府が今回の措置について、どういう意図で実施したのか分からないということだ。ただ、中国の公開報道を見ると、もちろん全部ではないが、ある程度は見えてくる。ここでは、中国の預金準備率引き下げの理由について述べたい。

■「カネ余り」なのに、刺激策?引き下げの意図は何か

今回の預金準備率引き下げが「予想外」というコメントが少なくなかったのはなぜだろうか。

それを説明する前に、預金準備率の引き上げについて簡単に述べておく。

準備預金とは、銀行の預金・貸出業務の健全性、預金者の預金のタイムリーな現金化を担保するために、各商業銀行が中央銀行に預金することを法律で義務付けられている一定額の資金のことで、リスク予防措置の一つとされている。

預金準備率が高いほど、各銀行が中央銀行に預金する資金が多くなり、貸出しに使える資金が少なくなる。逆に預金準備率が低いほど、銀行が貸出しに回す資金が多くなることを意味する。つまり、今回、中国政府が預金準備率の引き下げに踏み切ったということは、良好なパフォーマンスを呈していた中国経済が悪くなっていることを意味する。そのため、「予想外」という見方が少なくなかった。

昨年後半から、世界的な緩和政策の影響を受けて、大口商品の価格上昇が始まった。今年になって、米国政府は財政刺激を大いに行い、それに欧米諸国のワクチン接種率の上昇も相まって経済回復が始まった。その影響で大口商品の価格がものすごい勢いで上昇した。それにより、世界的なインフレが起こり、中国は輸入インフレの脅威にさらされている。

経済学的にいえば、インフレになっているということは、市場は「カネ余り」になっているため、中央銀行には資金を回収するために引き下げ策を講じる必要がある。

今回の預金準備率引き下げは経済の理屈に反したものだったため、ロイター通信(中国語版)の12日付の記事は、今回の預金準備率引き下げは「市場をびっくりさせた」と述べた。中国政府の今回の措置は、これまで見たことがないため、誰もが首をかしげるもので、専門家の間で意見が分かれた。

■引き下げの裏側には中国経済の減速?

前出のロイター通信の記事の見出しは「中国の予想外の引き下げは逆に悲観的な予想をかき立てる」というものだった。中国人民銀行が同時に発表した6月の金融データが予想を上回るものだったにもかかわらず、穏健な金融政策の方向性は変わっていないと強調したが、一部の専門家は、その後発表される他のマクロデータは中国経済の回復があまり楽観できるものでないことを示している可能性があり、さらに言えば、大きなリスクイベントの懸念があることが、中央銀行が先手を打った主因ではないかと懸念する。

ロイター通信は、「私が懸念しているのは、今回の政策操作のペースや目的、タイミング、政策発表といった全般的な技術的処理からみると、市場では今回の政策に関する憶測が多いため、悲観的な方向に変わっていくことだ」という、ある政策ウォッチャーの話を伝えた。

同政策ウォッチャーは、「市場は経済成長の見通しが予想以上に悪化したのではないかと推測するだろう。そうでなれば、引き下げ政策の着手ペースがこんなに早く、かつ断固したものであるはずがない。景気の見通しが好転しなければ、大きなリスクイベントが『後追い』してくる恐れがあるかもしれない。この政策は、市場を安定させるために、あらかじめ流動性を蓄えておくためのものだ」と指摘した。

多くの中国人研究者も同様の懸念を抱いている。金融研究院の管清友院長も「微博(ウェイボー)」の中で、全面的な引き下げは中国の政策決定層が経済の下振れに対する懸念が深刻になっていることを物語っているとの見方を示した。

しかしその後の推移を見ると、上述の分析は必ずしもそうでないことが証明された。中国国家統計局が15日に発表したデータによると、今年の第2四半期(4〜6月期)、中国の国内総生産(GDP)は前年同期比7.9%増加し、予想を下回ったものの、予想(8.2%)との差は大きくなく、完全に許容範囲内であり、マクロデータのような突然の悪化は見られなかった。さらに言えば、今年前半の輸出などの指標は予想を上回る強い伸びを示し、経済成長を力強く支えた。

一部の識者は「政策決定者の景気下振れ懸念が深刻になっている」と主張するが、その懸念の根拠はいったい何だろうか。

■「お上しか知らない?」現在の中国経済の問題点

「政策決定者は、民衆が知らないことを知っているに違いない。だからそうなっているのだ。」政府の行働が自分には理解できないとき、中国人はよくこう言う。

市場経済志向の政策をとる資本主義国の場合、経済に関する情報が不透明ということはあり得ないことだが、中国の市場経済は国が発展のレールを敷くもので、経済活動における国の役割は大きい。

中国政府は社会の安定を重視しており、経済社会が混乱することを嫌う。だから、毎年3月に行われる全人代(全国人民代表大会)で公表される「国民経済社会発展計画(計画報告)」には、よく「市場の期待を導く」という言葉が書かれている。これは、政府が現在直面する困難を乗り越え、安心して経済活動ができるような環境を整えることだ。

だから、中国人このように言うのは、中国のこうした国情を踏まえてのことだ。

では、預金準備率引き下げを中国政府に決断させた困難とは一体どんなものか。

「財新網(財新ネット)」が14日に発表した「市場が軽視していたのは、一部の都市での消費のマイナス成長を政府が目にしたこと」と題する記事はすぐに広く転載された。

記事は、中国政府が預金準備率を引き上げたことについて、「一部の省・市の経済減速の加速に大きな関わりがある」とし、一部の都市の消費の伸びにばらつきがあると指摘したうえで、現在の中国経済の発展のばらつきは「過去数十年でなかったもの」としている。

この「財新網(財新ネット)」の記事は預金準備率の引き下げの原因の一つだ。もちろん、それだけではないだろうが、「地域間のバランスのとれた発展」を謳う中国政府にとって、経済成長、「成長のエンジン」である消費の伸びのアンバランスは無視できない大きな問題だ。

今回の引き下げの目的について、中央財経大学国際金融研究センターの張啓迪・客員研究員は12日の「新浪財経」の記事で、「中央銀行(中国人民銀行)は2011年末から持続的に預金準備率を引き下げており、大きな金融機関の預金準備率は21.5%から12%に、中小の金融機関のそれは19.5%から9%に引き下げられており、今回の預金準備率の引き下げは中長期的な引き下げの一部分だ」と述べ、さらに、「2021年以降、経済が持続的に回復しており、とりわけ、第1四半期(1〜4月期)の経済データが良好だったが、経済回復に陰りが見え始めている」とも述べ、今後経済が減速する可能性があり、その影響を緩和するためだと指摘した。

最悪のことを想定した「ボトムライン思考」を堅持することは、現在の中国政府のスタンスだ。経済減速が深刻になる前に手を打つことは、この考え方に基づいたものだ。今回の預金準備率引き下げは「今後の経済減速の影響を緩和する」ためのものという張啓迪氏の指摘は、現在の中国政府の姿勢を考えると的を射たものといえる。

全人代の文書には、「バラマキ」政策はしないと言明する一方で、「緩和と引き締め」の手段を状況に応じてうまく使っていくと書かれている。つまり、経済減速と加熱を未然に防ぐというものだ。今回の預金準備率引き上げは大規模な金融緩和政策の始まりではなく、現在見られている問題が深刻化しないための調整政策の一環であるといえる。

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