米政府、ファーウェイなど中国禁輸リスト企業への輸出を米社に認可=「二重基準」と日本企業反発

岸田政権は米中対立の中で、米国から要請された「経済安全保障」を重視し、大臣ポストまで設けて順守する姿勢を示している。ところが肝心の米国企業が、事実上の禁輸リストに指定されているファーウェイ(華為技術)など中国企業向け輸出について、米商務省の許可を得ている事実が明らかになった。対中輸出を止められている日本企業や経済界の間で「ダブルスタンダード(二重基準)であり、日米が長年堅持してきた市場経済と自由貿易の原則にも反する」(日本の電機業界)との反発が広がっている。

ロイター通信(10月21日)によると中国の通信機器大手、ファーウェイと半導体メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の事実上の禁輸リストに指定されているにもかかわらず、米国内の両社のサプライヤーがかなりの額の製品・技術の輸出許可を取得していたことが、明らかになった。

それによると、昨年11月から今年4月までの期間に、ファーウェイ向けの計610億ドル(約7兆円)の製品・技術の販売について計113件の輸出許可が付与され、SMICには420億ドル近い製品・技術を販売するために188件の許可が与えられた。許可は4年間有効となるのが一般的である。SMICの米サプライヤーによる輸出許可申請の90%強が承認され、ファーウェイの米サプライヤーによる申請は89%に許可が下りたという。

日本の貿易総額の4分の1が中国向け。2020年には前年比20%増で過去最高を記録した。中国は15年間連続で最大の貿易相手国になっている。ところが日本企業によるファーウェイ向けなどの1兆円規模の汎用品輸出が日米当局の規制により停止されている。

◆岸田首相「国益優先でしたたかに対応」

10月25日朝のNHK『日曜討論』やフジテレビ『日曜報道』で国民民主党の玉木雄一郎代表が「米インテル社は巨額のファーウェイ向け輸出の許可を商務省から得て実施している」と明かし、「米国が戦略的に米国ファーストでやっている」と問題提起。「日本企業は汎用の部品を申請しても認められない。ソニーや東芝が輸出したらどうなるか。米国は現実を見ながら国益をかけてしたたかにやっている。(日本も米国にただ追従することなく)国益優先で対応する必要がある」と強調した。

これに対し岸田首相も『日曜討論』で「様々な国が国益をかけてしたたかに動いている。重要な指摘だと思う。後れを取ってはならない」と呼応。国益優先にしたたかに対応する方針を示した。

米中関係は悪化していると報道されているものの、コロナ禍にもかかわらず2020年後半以降、米中貿易は拡大している。米国主要都市と上海など中国主要都市間の就航便は活発化している。脱炭素で、日本も中国も脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀中頃までに行うと宣言しているが、米企業はそのライセンスを前面に、中国企業への売り込みに血道をあげている。米の金融業界は中国で日本より多くのビジネス上の特権を拡大している。米中間の官民や軍同士の対話・交流は頻繁に行われている。中国に行くと米国人や米ブランドショップが目立ち、GMなどアメリカ車の多さに驚く。

今後米中の先端技術を中心とした対決は熾烈となるのは必至である。一方で、米国内では最近の経済安全保障に名を借りた対中強硬策への批判も経済金融界を中心に根強い。トランプ政権以来の保護主義政策は結果的に世界最大の消費市場・中国でのビジネスチャンスを奪い、米国の経済力を衰退させる。「結果的に軍事予算に回せるカネがかえって少なくなる」と懸念する安全保障関係者もいる。また相互依存が深まる米中経済のデカップリング(切り離し)は失敗に終わった。日本の経済界は「日本は米国に巻き込まれた『悪い夢』から早く目覚め、米中を巻き込んだ経済貿易のルールつくりに少しでも多く関与すべきである」(経団連幹部)と提言している。

◆米中、大国同士のしたたかさ

米中間には大国同士のしたたかさがあり、随所で「ダブルスタンダード」を感じる。広東省の仏山市で、東京をデザインした街並みが昨年出現したが、クレームがあったため改修させられた。今年は遼寧省大連市で、京都の街並みの商店街を日本企業が造ったが、開業1週間で営業停止に追い込まれた。一方、北京市郊外の「ユニバーサル北京リゾート」に「ユニバーサル・スタジオ北京」が、9月20日に開業し大盛況となっており、営業停止の声はかからない。上海や香港のディズニーランドも相変わらず大人気で、多くの中国人で賑わっている。

日本の国益は自由で開かれた経済秩序の維持に多くを依存しており、わずかでも委縮すると日本経済全体の低迷が加速される。「経済安全保障と自由な経済秩序との関係は、もっと深く議論される必要がある」と指摘する声が強い。重要技術の対中移転問題などへの警戒感が高まっているのは確かだが、「経済安全保障を追求したら日本経済が弱体化したということでは本末転倒」(大手輸出企業)と危惧する声も。日本が長年堅持してきた市場経済と自由貿易の原則にも反する。

◆対中分離は「極めて非現実的」―経済安保相

新たに経済安保相に任命された小林鷹之氏は「日中間の貿易や投資のつながりは極めて深い」とし、対中分離は「極めて非現実的」と見る。中国と連携・分離する分野を見極めた上で、日本の産業や技術の保護などについて独自の戦略を展開するよう強調。日本の経済・技術力の維持に向け、米中間のバランスを模索している。省庁間の連携や経済界などとの意思疎通も大きな課題となろう。

こうした中、サリバン米大統領補佐官と中国の楊潔チ共産党政治局員がスイス・チューリヒで会談。年内にオンライン形式で初のバイデン大統領と習国家主席による首脳会談を行うことで合意した。米中対立が続く状況を適切にコントロールしたい両国の思惑が一致したためだ。米国は気候変動や北朝鮮の問題でも中国の協力を求めており、米国からの働きかけが目立つ。

◆米経済界、対中規制緩和を要求

さらに米国国内の事情も大きく関係している。対中貿易規制の長期化により米国内でクリスマス商戦を前に物価が上昇、消費者の不満が高まっている。中国との投資や貿易取引が多大な米金融経済界や農業界から米中対立の緩和を求めるロビー活動も活発化している。

こうした実態を勘案すると、米中対立は融和へ大きく舵を切ることになろう。日本企業は中国で年間5,000億ドル(約55兆円)の売り上げがある。利益が深く融合し、交流が密切な日中両国は、連携をさらに強化する必要がある。8月に開催された日中シンポジウム「『米中新冷戦』と日本の生き方」(国際アジア共同体学会主催)では「新冷戦到来という米中対立の罠に陥らないために、日本は対米自立・戦略的自主性を確立すべきだ」との意見が大勢を占めた。

◆日本国民の55%、米中「どちらにもつくべきでない」

日本と中国は長い歴史を共有する隣国であり、中国は日本にとって米国を超える最大の貿易相手国である。先に発表された日中世論調査結果によると、米中対立の中での日本の立ち位置について、日本国民の55%が米中の「どちらにもつかず世界の発展に努力すべき」と回答した点は注目される。政府は「全方位外交」「近隣外交」を志向すべきだとの国民の意思が示されたと考える。

米中両大国の狭間にある日本が、「米国か中国かの二者択一」を迫られる状況を避けるためにも、これまで以上にバランスの取れたかじ取りが必要となる。中国に対し毅然とふるまう一方、米国に対しては経済的安全保障と地政学的観点に基づく「価値観・民主主義外交」の押し付けにただ追従せず「戦略的自主性」を堅持することが今の日本に求められている。(八牧浩行)

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