顕微鏡の下の涙 その一滴に込められた思いがアートに

顕微鏡の下の涙 その一滴に込められた思いがアートに

Maurice Mikkers氏提供

雪の結晶が一つ一つ違うように、人の涙もその原因や気持ちが異なるため、顕微鏡を覗き込めば、みな違った姿を見せてくれる。

科学者は、涙は成分がそれぞれ異なり、油脂、抗体、酵素などの物質が塩水の中に溶け込んでいる状態だという。これらの物質と、涙を流した人の体との関係はいかなるものだろうか。オランダの写真家であるモーリス・ミッケルス氏がその答えを追いかけている。

同氏は、そのひとつひとつに唯一無二の美しさがあり、それを追求することが彼の努力の方向性だという。

2007年まで医薬実験室のアナリストをしていた同氏は、その後ハーグ皇室芸術学院でインタラクティブ・メディアの設計に携わった。芸術と科学を融合し、顕微鏡を使って見い出せる美しい世界とそのストーリーを追求し始めたのである。

2014年にミッケルス氏は、不注意にもテーブルの脚に足をぶつけて、激しい痛みに涙を流したという。しかしその時、ひらめいた彼は自分の涙をスポイトで吸い取って顕微鏡で拡大し、その画像を研究してみたという。

それからというもの、ミッケルス氏は自分の涙を観察するだけではなく、いろいろな人々の涙を集めた。父親を病気で亡くして泣いている親友や、職場でハラスメントを受けている妹や、様々な人々から涙の提供を受けている。

これは科学の研究とは言えないし、以前同氏が携わってきた医学の実験でもない。
「私は、かつて薬品や食品の結晶についての仕事に携わってきましたが、涙がこんなに美しいものだとはついぞ知りませんでした」

「こんなことをやっているのは、実は対話を始めたいと思っているからです」ミッケルス氏はそれぞれの涙の違いを探求していくなかで、重要なのは涙の背景にある「ストーリー」なのだと気がついたという。「人々は公衆の面前で泣いたりすることに慣れていません。他の人に見られたくないと思っているからです。しかし「涙の不思議な世界」を通したら、我々は他者に心の扉を開くことができるのではないでしょうか」

現在の科学では、涙は3種に分類できるという。目を見開いて60秒じっと扇風機を見続けると、涙が自然に出てくるが、これを「基礎涙」という。煙などの刺激を受けて出て来るものは「反射涙」といい、興奮、悲しみ、喜びなどで流れる「感情涙」もある。

高倍率の顕微鏡で覗いた高度な結晶の涙は、異なる状況でそれぞれ違うパターンの涙の結晶ができる。その形は一つとして同じものはなく、ミッケルス氏を驚かせた。

「涙一滴には水分、脂質、ブドウ糖、尿素、ナトリウム、カリウム、油分、塩分、ミネラルなどの成分が含まれます。」と彼は語る。「私たちの体は皆違いがあり、加えて異なる理由、さまざまな事情が重なれば、出る涙の成分も同じものはないわけです」と続けた。

2015年3月から、同氏は友人を次々に招いて涙を流してもらってきたが、とりわけ難しいのは、泣かせるのに意外に時間がかかる点である。また涙の結晶になるには5分から30分間の時間がかかるという。

集めた涙を顕微鏡で撮影し、同氏は Facebook でそれらの写真を「不思議なる涙の世界」というタイトルで公開し始めた。

*関連映像:涙が結晶化する過程の動画

このシリーズは、ソーシャルメディア上で話題になり、有名な「TED」にも招待され、多くの人に紹介された。同氏は、「イノベーションは皆と分かち合うべきもので、涙も流すことに価値があるのだと伝えました」と話した。

2017年、ミッケルス氏は涙を集めるキットを開発。これを使ってさらに多くの人の涙を集め、データーベースを作ろうと考えた。涙の相似性や違い等を帰納的に分析している。同氏は涙の「フラクタル」をさぐるため、その解読方法を模索中だという。

「私がこのように涙の観察に熱中しているのは、涙とそしてそれの背景にある独特のストーリーに非常に関連が強いと考えているからです」

大紀元のインタビューに対し、ミッケルス氏はこのように答えた。「人は誰も、人生の中でつらいことや悲しいこと、失敗等に必ず直面するものです。それを分かち合ったりすることで、もっと細やかな観察ができるのではないでしょうか。さらにお互いをよく知ることができるのではないでしょうか。」

彼はまた、「涙を顕微鏡で観察すると言うのは、一つ一つその違いを見ることであり、私たちにその都度異なる驚きや新しい体験をもたらしてくれることなんです。もっと深く調べて探索し、これらが一体この先にどんな領域に辿り着くのかを知りたいと思っています」と語った。

顕微鏡で涙を観察するということに魅せられたのは、彼ひとりだけではない。米国ロサンゼルス在住の女性写真家ローズ・リン・フィッシャー(Rose-Lynn Fisher)氏も、その涙の魅力に惹きつけられた一人である。2008年に家族が亡くなり、悲しみのどん底にいて、常に泣いていたが、あるとき「自分の涙を見てみたらどんな形なのだろう?涙は毎回違いがあるものなのかしら」などと急におかしなことを思いついたという。

彼女は涙の水分が蒸発した後の結晶を撮影するようになった。それはまるで、数百万年かけた地球の侵食の効果によく似ている。彼女の感動は並々ならぬもので、彼女は100種類もの涙の結晶のサンプルを顕微鏡で観察して撮影し、それを『涙の地形』(The Topography of Tears)と題した写真集として出版した。

ミッケルス氏とフィッシャー氏の探索は、あたかも故・江本勝博士を思わせる。彼は各種の水を零下5度のアイスボックスに入れて凍らせ、そしてその溶解する瞬間を顕微鏡で撮影した。

122枚の写真を収めた『水は答えを知っている』という写真集は、音楽が水の結晶に影響を及ぼすのか?などの奇想を我々に思わせる。また「無機物は本当に生命がないのだろうか?」とまで考えさせる。

2500年前のアジアでは、釈迦牟尼はこう語った。「一粒の砂に三千大千世界がある」と。
また200年前の英国の詩人、ウィリアム・ブレイクは、このような深い詩を書いている。「一粒の砂にはひとつの世界を、一輪の野花に天国見ゆる。この掌に無限あり、一刹那の中に永遠あり」と。

どうやら、「一粒の砂に三千大千世界」に留まらず、一滴の涙、水玉の中にも深い世界があるようだ。

(大紀元日本ウェブ編集部)

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