国際教養大・濱本良一教授寄稿「尖閣接近 中国が対日攻勢強めた」

国際教養大・濱本良一教授寄稿「尖閣接近 中国が対日攻勢強めた」

領海侵入した中国海警局の公船(海上保安庁提供)

 沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺に展開する中国海警局の公船が接近の頻度を高めている。従来は公船が姿を見せない空白期間が毎月1週間程度から半月近くあったのだが、5月以降は毎日張り付くようになった。中国側が対日攻勢をレベルアップした可能性が強い。

 海上保安庁の調べでは、中国の公船「海警」が今年5月は、31日間連続で尖閣の周辺海域に展開した。このうち領海に侵入したのは4回だった。日本の元号が「平成」から「令和」に代替わりしたことに歩調を合わせた動きでもあった。

 6月は29日間接近し、領海侵入は2回だった。7月の接近は28日間で、残る3日間は台風5号が接近して海上が荒れて姿を消したもので、基本的には常時展開態勢だったと見られる。領海侵入は3回だった。

 8月に入っても初日から連日、尖閣周辺海域に4隻の中国海警が遊弋(ゆうよく)した。大型台風9号の接近を前に、6日午前に領海侵入した後に一旦撤退したが、台風が過ぎ去った12日午後に再び接近し、接続水域を遊弋している。

 周知のように領海は陸地から12カイリ=約22キロ以内であり、領海に接する外側の12カイリは接続水域と呼ばれる。領海に準じた扱いで、外国の不審船が進入した場合は、該当国の海上保安当局が退去警告を与える権限が国連海洋法条約で認められている。

 中国公船の尖閣領海侵入は2008年12月8日が最初で、この日は日中民間人会議の最終報告書が公表された日であり、東シナ海での海底ガス油田の日中共同開発合意(同年6月)を不満とする保守派の揺さぶりとみられた。さらに日本政府が12年9月に尖閣諸島を民間の所有者から購入し、国有化したことに強く反発した中国側は、公船を頻繁に尖閣周辺に送り込み、領海侵犯を繰り返すようになって現在に至っている。

 中国の海上保安当局である海警局は、武装警察の指揮下にあり、昨年1月から党中央と中央軍事委員会の集中統一指導を受ける正式な軍機関となった。折しも海警局は昨年末にトップである局長(武装警察部隊海警総隊司令官)が王仲才氏(少将)に代わり、人事面でも刷新されている。

 中国の対尖閣接近強化の背景には、(1)日米が昨年9月の首脳会談で再確認したインド太平洋地域での協力強化への反発(2)同じ時期に南シナ海で行われた米空母と海自護衛艦「かが」などによる日米対潜水艦訓練への対抗(3)やはり同時期の東シナ海での初の日米空域軍事演習実施への対抗(4)海警局内の新体制の発足に伴う戦略強化−などが考えられよう。いずれにせよ日中首脳・政府間の関係が急速に改善している中で、起きている点は要注意である。

 中国国防省は7月下旬、国防白書を4年ぶりに発表し、東シナ海や南シナ海の島嶼(とうしょ)に対する警戒・防衛の重要性を強調した。尖閣諸島(中国名・釣魚島)については「中国固有の領土である」と断定し「(尖閣に対する)巡視航行を実施し、法に基づいて国家主権を行使する」と宣言した。前回の同白書では尖閣に一切触れておらず、今回の接近レベルアップと白書は軌を一にしている。

 安倍晋三首相は6月末の大阪での習近平国家主席との日中首脳会談で、尖閣周辺での中国公船の活動の自粛を要請したが、外務省によれば、習氏から具体的な回答はなかった。中国の最高指導者が来日した際には退去するとみられた中国公船は尖閣周辺に居座り続けた。こと尖閣に関する限り、列強の対中侵攻を指す「百年の恥辱」を晴らすとの意識が対日外交の底流を流れているだけに、今後も長期戦となることを覚悟しなければならない。安倍政権は引き続き毅然(きぜん)とした対応を取り続けることが重要だろう。

 はまもと・りょういち 1952年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。読売新聞中国総局長などを経て、2012年から現職。

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