「脱炭素」で得するのは中国だけ? EVの原材料は中国頼り、550万人の雇用も崩壊

『脱炭素』で富み栄えるのは中国だけか 脱炭素化に必要な材料や技術で中国が優位

記事まとめ

  • 『脱炭素』で国が貧しくなっては本末転倒で、富み栄えるのは中国ばかりだという
  • 脱炭素化技術に必須のレアアースは、中国が世界の総生産量の58%を占めると推測される
  • また、太陽光パネルの大半は中国製で、日本は国費で中国支援しているようなものらしい

「脱炭素」で得するのは中国だけ? EVの原材料は中国頼り、550万人の雇用も崩壊

「脱炭素」で得するのは中国だけ? EVの原材料は中国頼り、550万人の雇用も崩壊

習近平国家主席

 カーボンニュートラル。聞こえはいいが、それで国が貧しくなっては本末転倒である。電気自動車、太陽光パネル、風力発電。「脱炭素」という世界的な潮流に追随して、富み栄えるのは中国ばかり。ならば、日出づる国から昇った技術力という“日”が傾く先は――。

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 日本の政治家がイマイチ盛り上がりに欠ける衆院選に現(うつつ)を抜かしている間隙を縫って、かの国は着々と外堀を埋めようとしている。

 8月に中国が核弾頭を搭載することのできる極超音速ミサイルの発射実験を行ったとイギリスのフィナンシャル・タイムズが10月16日付で伝えた。さらに、先月18日には、中国とロシアの艦艇10隻が津軽海峡を通過、日本を半周するような航路をとり、22日に鹿児島県の大隅海峡を東シナ海へと抜けた。

「中国とロシアが緊密に連携しながら、海峡を通過することは珍しい。日本が10月にアメリカ、イギリスなどの空母と共同訓練を行ったことへの示威行動と思われます」(防衛省担当記者)

 沖縄県の尖閣諸島では相変わらず、中国海警局の船舶が連日のように航行している。日本への軍事的圧力を強める中国。しかし、日本が警戒すべきはそれだけではない。経済でも覇権を握ろうと歩を進めているのだ。

 舞台は「脱炭素」。国際エネルギー機関(IEA)は先月、世界全体で二酸化炭素排出ゼロにするには、年間4兆ドル(約450兆円)の投資が必要だ、と明らかにしている。その巨大市場を巡る神経戦がすでに始まっているのだ。


■欧米の要請を中国は拒否


 例えば先月30日、ローマで開かれたG20サミットで中国の習近平国家主席は、

「中国は2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせ、60年までに実質ゼロにする」

 とこれまでも掲げていたいわゆる「3060目標」を改めて表明した。50年までの実質ゼロを標榜するアメリカなどが目標の前倒しを中国に求める中で、それを拒絶した格好である。

「二酸化炭素削減は、世界の排出量の約3割を占める中国が協力しなければ解決できません」

 と、『EV(電気自動車)推進の罠』(ワニブックス)の共著者で元内閣官房参与の加藤康子・産業遺産情報センター長が指摘する。

「欧米は中国に削減目標の上方修正を求めていますが、建国100年にあたる2049年までに“中華民族の偉大なる復興”を成し遂げ、強い製造業を作る国家目標『中国製造2025』があるため、中国は応じません。経済を優先する中国に国際社会の枠組みの中でルールを守らせることは難しくなっているのです」

「中国製造2025」は15年に習近平政権により発表された産業政策。製造業強化に向け、10の分野が掲げられており、5Gなどの次世代情報技術やロボット産業などのほか、省エネ・新エネ自動車も含まれている。

 中国は世界的な「脱炭素」の先陣を切れないのか。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が解説する。

「中国はTPPに加盟申請するなど、国際社会での地位向上を狙っています。『3060目標』を打ち出したのは、そうした目的があったためでしょうが、5年に1度の党大会を来年に控えているという事情もあります。これまで党大会の前年は国民の不満を解消するために、経済を意図的に加速させてきました。しかし、今年は国民の不満を緩和するために、不動産価格の抑制と環境対応をせざるを得なくなっています」

 ただでさえ、いまの中国は「電力不足」という危機に襲われているのだ。


■自動車産業の大転換


「中国では全電力の6割を石炭火力に依存しています。その石炭価格が高騰。また政権の温暖化対策目標を実現するために、各地で計画停電や電力の供給制限が実施されています。工場が稼働できなかったりする地域もあり、経済成長率も鈍化しています」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 かたや日本は、菅義偉政権で「2050年カーボンニュートラル」を宣言。中国より10年も早い目標を設定し、35年には新車販売をすべて電動車にするとして、「脱ガソリン車」の意向を鮮明に。小泉進次郎前環境相も意欲的だった。

 先の加藤氏によれば、

「日本政府は自動車産業界に電気自動車(EV)への転換を促していますが、最初からガソリン車やディーゼル車を禁止するような政策は、技術の選択肢を自ら狭め、日本の強みを失うことになりかねません」

 強み、すなわち日本特有の技術力が失われる可能性があるという。

「日本は世界で自動車のエンジンを設計できる数少ない国で、EV化はこれまで研究・開発してきた世界一のエンジンなどの内燃機関や、日本の厳しい排ガス規制に対応して作ったガソリン車の部品など多くの技術を奪います。EV車になれば自動車部品の数は圧倒的に少なくなるものの、エンジンとトランスミッション(変速機)が、バッテリーとモーターに変わり、EV車製造のコストの約4割はリチウムイオン電池となります。国内で電池を製造できればよいのですが、原材料は中国に握られている。もし中国製の電池頼みになれば、日本の自動車産業は中国にその心臓部を牛耳られることになります」(同)

 EV車への転換へ“ハンドル”を切ることは自動車産業の大転換を意味するのだ。加藤氏が続ける。

「自動車産業は550万人が従事する70兆円の総合産業。部品のみならず組立、販売や物流など、多岐にわたり国民経済を支えています。EV化はその雇用も破壊しかねないのです」


■材料、技術ともに世界をリードする中国


 2013年には、車載用リチウムイオン電池の世界シェアはパナソニックなどの日本企業だけで50%を超えていたが、ここ数年で中国、韓国勢に猛追され、現在のトップシェアは中国のリチウムイオン電池メーカーのCATLである。

 シグマ・キャピタル株式会社チーフエコノミストの田代秀敏氏によれば、

「環境政策では日本に比べ、中国は資源・技術の両面で優位性があります。脱炭素化技術に必須のレアアースは、中国が世界の総生産量の58%を占めると、米国政府機関は見積もっています。また、リチウムイオン電池に使用されるコバルトというレアメタルは、コンゴ民主共和国が生産量の約6割、埋蔵量の約半分を占めます。そのコンゴの対外債務の6割が中国からの借金ですが、その返済延期に即時合意するなど、中国はコンゴと密接な外交関係を結び、同国でのコバルト権益を確保しています。他にもBYDという中国のEV企業が衝撃に強いリチウムイオン電池を独自開発するなど技術的にも優位に立っています」

 その中国の狙いは、

「既存のガソリン車やハイブリッド車の産業に参入しても勝ち目がないことは中国もわかっています。しかし、EV車という新しい産業なら違う。どの国も横一線にスタートし、今では中国が生産でも使用でもトップシェアをとっています。そして脱炭素への世界的な環境政策の変化が、中国のEV車が世界に進出するチャンスを与えているのです」(同)


■「国費で中国を支援」


 自分の都合で好き勝手に石炭をバンバン燃やしながら、その一方でグリーン分野での金儲けの備えにも抜かりがない。また、自動車以外でも再エネに関わる事業は中国に首根っこを押さえられている。太陽光発電だ。

「政府が3年ぶりに改訂したエネルギー基本計画では太陽光を中心に再生可能エネルギーを36〜38%とこれまでの2倍の水準に引き上げ、主電源にすると位置づけています。しかし、太陽光パネルの大半は中国製で、その原材料の多くは新疆ウイグル自治区で生産されています。日本は太陽光など再エネ事業者に多額の補助金を出していますから、国費で中国製パネルを支援しているようなものなのです」(前出・加藤氏)

 風力発電機でも、シェアの上位は海外勢に占められている。すなわち、日本が「脱炭素」に邁進するほど、中国を潤し、かの国から聞こえてくるのは高笑いなのだ。

 先の永濱氏が指摘する。

「私は現状の急激な『脱炭素』の流れには懐疑的です。世界中が脱炭素に急激に舵を切ったせいで、産油国に資金が流れにくくなることで石油などの化石燃料の増産が見込めず、価格が高騰しています。このままでは、開発途上国が化石燃料を輸入できず、世界的な格差の拡大にもつながります。また、日本でもガソリン代が高止まりしているように、今の生活をも直撃します。国際社会としても『脱炭素』に切りすぎた舵を少し戻す必要があるかもしれません」

 加藤氏はこう訴える。

「政府が優れた内燃機関を開発してきた日本の自動車メーカーのために闘わなければ、中国の後押しをすることになります。なぜ日本の製造業が弱体化する環境政策に飛びつき、国の重要産業を守ろうとしないのか。岸田文雄総理には国民経済を守る“ジャパン・ファースト”の政策を発信していただきたいと思います」

 巨大なカネが動く“グリーン”市場に日本が参入すれば、中国を肥え太らせることになる。

 習近平が仕掛けた巧妙で甘い罠。選挙を戦い抜いた岸田総理は胆力を見せつけ、抗うことができるか。“落日”を迎えるか否か、はそこにかかっている。

「週刊新潮」2021年11月11日号 掲載

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