尖閣周辺で中国公船100日連続確認の異常事態 中国「外交部」幹部“トンデモ発言”の読み方

尖閣周辺で中国公船100日連続確認の異常事態 中国「外交部」幹部“トンデモ発言”の読み方

20年5月29日「尖閣周辺で中国船が挑発行為(国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省)」

 全国紙やNHKなど主要メディアは7月22日、尖閣諸島の周辺で中国当局の船が100日連続で確認されたと報じた。これは2012年9月に尖閣を国有化して以来、過去最長の連続日数という。

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■日本の抗議を中国は無視


 記事の中から、共同通信が配信した「尖閣周辺で中国船4隻確認 100日連続、最長更新」を引用させていただく。

《沖縄県・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で22日、中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは100日連続。2012年9月の尖閣諸島国有化以降で、最長の連続日数を更新した》(註:全角数字を半角数字にするなど、デイリー新潮の表記法に合わせた。以下同)。

 もちろん日本政府は抗議したが、中国は聞く耳を持たなかった。中国共産党の機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網」(日本語版)は23日、「日本が中国による釣魚島海域での巡航に抗議、中国外交部『抗議は受け入れない』」を配信した。

 この記事で外交部、つまり日本で言う外務省の《汪文斌報道官》は、記者から「なぜ中国は尖閣諸島の海域を巡航するのか」と質問されると、以下のように答えた。

《釣魚島及びその附属島嶼は古来中国固有の領土だ。中国海警局の船による釣魚島海域での巡航と法執行は中国側の固有の権利だ。我々は日本側のいわゆる「抗議」は受け入れない》

 これには立腹される向きがほとんどだろう。だが、「なぜ中国は、これほど取りつく島もないのか」と素朴な疑問を抱いている方も少なくないはずだ。


■中国の思惑とは?


「今年7月6日に中国外交部が開いた記者会見の発言内容を見れば、尖閣に対する中国の思惑は読み解けます」

 こう指摘するのはジャーナリストの篠原常一郎氏だが、その解説を深く理解していただくためにも、まずは篠原氏の経歴からご説明したい。

 篠原氏は1960年に東京で生まれ、18歳で日本共産党に入党した。同い年の小池晃参議院議員(60)と駿台予備校で出会い、「民青千代田地区浪人班」で共に活動したというエピソードの持ち主でもある。

 その後、立教大学文学部の教育学科を卒業。公立小学校の非常勤講師を務めるが、すぐに共産党の専従職員となった。

 1995年から2003年まで党の国会議員事務局に所属し、議員秘書を務める。だが党幹部の不正を暴こうとしたことから、04年に党を除籍された。

 その後、「古是三春」のペンネームで軍事評論家としてデビュー。特に旧共産圏諸国の軍事事情に精通しており、解説記事などで注目を集めた。

 09年からは旧民主党議員の政策秘書を務めた。同年8月の総選挙で民主党政権が誕生したため、篠原氏はいきなり与党議員のスタッフとなったわけだ。


■中国が切り出した“密約”


 そして10年9月、尖閣諸島で中国漁船衝突事件が発生する。旧民主党の指示を受け、篠原氏は北京に飛び、中国政府と交渉にあたった。

 当然ながら篠原氏が日本共産党に所属していたことと、中国の軍事事情に精通、党・軍関係者とのパイプがあったことが理由だった。

「中国船が日本の巡視艇2隻を破損させたことなどから、海上保安庁は船長を公務執行妨害の容疑で逮捕しました。最終的には中国側も認めましたが、船長は酒に酔っていました。また私たちは、船長が過去にも問題操船を行っていたことも把握していました。船長の逮捕は当たり前のことでしたが、中国は当初から激しく日本を非難したのです」(篠原氏)

 中国は当時の丹羽宇一郎大使を呼びだして抗議、船長と船員の釈放を求めた。それに対して日本政府は船員を帰国させ、漁船も返還したものの、船長は勾留を延長し、起訴する方針を固めた。

 すると中国は報復措置に踏み切った。在中国トヨタの販売促進費用を賄賂と断定して罰金を科し、中国本土にいたフジタの社員を「許可なく軍事管理区域を撮影した」として身柄を拘束。さらに、レアアースの輸出を事実上停止した。

「中国側は私たちにも強硬な姿勢を変えず、いきなり『なぜ密約を違えたのだ』と糾弾してきたのです。最初は何のことか分からず、戸惑いました。その時、同席していた外務省担当者の、しれっとした表情は、今でも忘れられません」(同・篠原氏)


■“警察権の行使”


 結論から言えば、橋本龍太郎(1937〜2006)政権の時、日本政府と中国政府は『尖閣周辺で相手国の逮捕者を出した場合、起訴せず、48時間以内に相手国へ引き渡す』という密約を結んでいた。

「現在のように尖閣問題で中国が強硬姿勢を打ち出す前で、主に漁船の違法操業による拿捕を念頭に置いた約束でした。1978年の日中平和友好条約を結んだ際の“尖閣棚上げ論”と同種の取り決めと言っていいでしょう。外務省は旧民主党に、この密約を教えていなかったのです」(同・篠原氏)

 密約に従ったかは不明だが、自民党が与党だった時代、政府が起訴せず釈放したケースがある。2004年3月、尖閣諸島への中国人不法上陸事件が発生した時だ。

 沖縄県警は7人を逮捕したが、最終的に送致は見送った。その日の夕方に開かれた首相会見で、当時の小泉純一郎首相は、以下のように説明した。

「問題が日中関係に悪影響を与えないように、大局的に判断しなければいけない。そういう基本方針に沿って関係当局に指示しておりますので、その指示に従って適切に対処していかなければならないと思っております」

 以上の経緯を踏まえ、篠原氏は今年7月6日に開かれた中国外交部の記者会見に注目する。


■中国は「密約は破棄」と宣言


 共同通信が記事を配信しており、加盟社が掲載した。ここでは沖縄タイムス(電子版)が7日に配信した「尖閣『中国固有の領土』/外務省高官 パトロール正当化」からご紹介する。

《中国外務省の趙立堅副報道局長は6日の記者会見で、尖閣諸島について「中国の固有の領土だ。釣魚島(尖閣の中国名)の海域でパトロールし法執行することは中国の固有の権利だ」と主張し、正当化した》

「注目すべきは『法執行することは中国の国有の権利だ』と言明したことです。これまでに何度も中国は『尖閣諸島は中国の領土だ』と発言してきましたが、尖閣諸島で警察権を行使することを自国の権利と断言したのは初めてのはずです。『過去の密約は反故とし、今後はこちらも日本人の逮捕、起訴を辞さない』と宣言したと解釈すべきでしょう」(同・篠原氏)

 共同通信の記事によれば、報道局長の発言は《石垣市議会が6月、尖閣の住所地の字名を変更する議案を可決した》ことが大きく影響していると指摘している。

 これは市議会が、尖閣諸島の字名を「登野城(とのしろ)」から「登野城尖閣」に変更する議案を賛成多数で可決したことを指している。メディアの取材に市は「市内に同じ字名の地域があり、事務的なミスを防ぐため」と説明していたが、中国の猛反発が報道されていた。


■台湾へのプレッシャー


 だが、篠原氏は「そもそも中国にとって尖閣諸島=釣魚島は対日というより、対台湾の問題です」と分析。日本に対する圧力という見方を否定する。

「中国が台湾に軍事侵攻を行うとして、尖閣諸島が重要な中継地になるのは、地図を見れば一目瞭然です。中国の意図を読み解くためには、6月30日に国会にあたる全人代が『香港国家安全維持法案』を全会一致で可決したことに注目すべきです。香港で反逆や破壊行為を禁止する法律が制定されたことと、7月6日に外交部の報道局長が尖閣諸島における警察権に言及したことは、同じ内容と言っていいでしょう。いずれも中国が『1つの中国』を実現するため勝手に決めた“タイムスケジュール”に沿った行動であり、台湾に対する強烈なプレッシャーと読み解くべきなのです」

週刊新潮WEB取材班

2020年7月29日 掲載

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