中国が「クリミア併合」方式で尖閣、沖縄を支配する未来 ?元陸自最高幹部が警鐘

 古代中国の軍事思想家・孫子が説いた理想の兵法は、「戦わずして人の兵を屈する」である。現代の中国がその教えを実践に移せば、日本の領土を奪うことも朝飯前なのか。「気付いた時には負けている」という最悪のシナリオについて、元陸自最高幹部が警鐘を鳴らす。(「週刊新潮」2020年12月17日号掲載の内容です)

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〈20XX年12月、東京・秋葉原。いまやメイド喫茶が立ち並ぶ「オタクの街」だが、珍しい電気機器を扱う商店もまだ数多く残っている。その電気街では、数カ月前からとある商品が大量に売れ出していた。小型ドローンと、数万円もする高出力電波妨害器である。買っていくのは、中国からの留学生と思しき若者たち。

 翌年1月、沖縄県与那国島。台湾の東方約110キロ、日本の最西端に位置する人口約1700名のこの島は、シュモクザメに出会えるダイビングツアーで冬も観光客が多いが、この冬は特に中国人留学生の団体旅行客が増えていた。泊まる宿はたいてい、数年前から島に移住している中国人の“民泊”。彼らはダイビングには目もくれず、連日、怪しい機器を手に自衛隊駐屯地や空港・港湾の周りをうろつくのだった。また、島では数カ月前から、町長や町議会議長について真偽不明のスキャンダル情報がSNSを通じて盛んに拡散されていた。

 2月、東京・総理官邸。米宇宙軍から衝撃的な情報が日本政府にもたらされる。中国から多数のミサイルが宇宙空間に向けて発射され、比較的低い高度にある情報収集衛星が破壊された。さらに、中国の衛星が高高度にある日本の通信衛星をロボットアームで拘束、そのまま大気圏に突入し燃焼した、との情報である。

 ほぼ同時に官邸には、人工衛星機能停止の報告が次々と上がってきた。米国のGPS衛星も損害を受け、民間の航空機、船舶は運航ができなくなり、もちろんカーナビも使用不能になった上、自衛隊の衛星通信までもが不通となる。

 そんな中、中国政府の報道官が「本日未明、中国人民解放軍は祖国統一のため、台湾に対し軍事作戦を開始した。これは中国の国内問題であり、他国の干渉は許されない」と発表。国際社会は大混乱に陥った――〉

 これは、筆者がイメージした中国による「ハイブリッド戦」前哨戦のシナリオである。続きは後ほど紹介するとして、まずは中国をめぐる国際情勢について簡単に触れておきたい。

 沖縄県の尖閣諸島においては、ほぼ連日、中国海警局の船が接続水域に侵入し、今年10月には連続57時間以上も日本の領海内に留まって、あろうことか日本の漁船を追い回した。この時、付近では中国海軍のフリゲート艦とミサイル艇も即応態勢を取っていたという。もちろん日本の海上保安庁、海上自衛隊もしっかりと対応しているが、今も緊張した日々が続いている。

 緊張しているのは尖閣だけではない。中国と台湾の関係も、6月の「香港国家安全維持法」施行を機に急激に緊張の度を高めている。今や台湾住民の8割が自分を「中国人ではなく台湾人」だと考え、「中国に侵攻された時は戦う」と答えるなど独立意識が向上している。そんな中、中国の習近平・国家主席は、香港の次は台湾を狙って、“一国二制度”の終焉を図ろうとしている。

 中国はこれまで幾度となく台湾への武力侵攻をほのめかしてきた。習主席は10月にも「祖国の神聖な領土を分裂させるいかなる勢力も絶対に許さない。中国人民は必ず正面から痛撃を与える」と台湾を威嚇した。同じ10月、中国軍制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席も、「受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への態勢転換を加速する」と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。中国国営の新華社通信も、これを「戦争準備の動きを強化する」と伝えている。

■「いつ沖縄を返してくれる?」


 仮に、アメリカのバイデン新政権が台湾への介入度を低下させ、「台湾を攻めても米国は出てこない」と習主席が誤信した場合、中台で戦端が開かれる可能性は十分にある。

 それでも、中国と台湾の話だから日本は関係ない、と読者は思われるかもしれない。しかし、もし中台が戦争になった場合、日本にとっても対岸の火事ではなく、大きな火の粉が降り注ぐことになる。中国が台湾と戦いつつ、米国の来援を阻止するためには、沖縄県の与那国島、石垣島、宮古島が軍事的な標的になり得る。というのも、米軍が台湾周辺に戦力を展開するには、これら先島(さきしま)諸島にある自衛隊施設・空港・港湾が極めて重要な意味を持つからだ。

 そもそも中国では「尖閣のみならず、琉球全体が元々は日本の領土ではない」という声がしばしば上がっている。深層心理には、あわよくば取ってやるという気持ちもあるのだろう。筆者の台湾の友人でさえ、「日本はいつ沖縄を返してくれるのか?」と平然と聞いてきたことがある。

 とはいえ、中国が先島諸島に直接武力攻撃を仕掛ければ、直ちに日米同盟を発動させることになり、台湾正面以外にも戦火を広げることになる。こういった二正面作戦は、戦略的には避けるべきものである。従って中国は、「ハイブリッド戦」によって先島諸島の政治経済機能を混乱させ、空港・港湾・火力発電所・通信施設などの重要インフラを無力化する方法を取るだろう。

「ハイブリッド戦」とは、軍事的威圧手段と、情報操作や政治工作、経済的圧迫などの非軍事的手段を組み合わせて、戦争目的を達成するものである。その代表的な事例が、2014年のロシアによるクリミア併合だ。ロシアは、国境線に戦車や野戦砲部隊などを展開してウクライナを軍事的に威圧しつつ、フェイクニュースなどの宣伝戦やサイバー攻撃、経済的脅迫などを組み合わせて住民心理を恐怖に陥れるとともに、特殊部隊や民兵を送り込んで官公庁などを占拠。その上で住民投票を強要し、形式的には“合法的に”、ウクライナの領土であったクリミア半島を自国に併合した。

 尖閣どころか、沖縄そのものが中国に奪われる――。荒唐無稽と思われるだろうが、10年前にクリミアがロシア領になると考えていたウクライナ人はいまい。

 筆者は14年2月3日、陸上幕僚長としてロシア地上軍司令官から公式招待を受け、モスクワに赴いた。だが翌朝、司令部を訪問した私を迎えたのは司令官“代理”の地上軍ナンバー2で、「地上軍司令官は、ソチに行っており会えない」と言う(2月7日からソチ五輪が開催)。「公式招待した本人が不在とは、国際儀礼に悖(もと)る」との怒りを抑えつつ、予定どおりの日程を終え帰国した。

 そして、ソチ五輪閉会4日後の2月27日、ロシアはクリミア侵攻を開始したのだ。その報道を見た瞬間、私はロシアに欺かれていたことに気付くとともに、平和の祭典を他国侵攻の隠れ蓑にする卑劣さ、自分の公式訪問が作戦に利用されていたことへの悔しさを覚え、更にはロシアの強(したた)かさに学ばされるという極めて気分の悪い複雑な思いに陥った。

 台湾の主要紙が、「中国軍がロシアのクリミア併合を模範として、台湾に親中政権を樹立しようと画策している」と報じたこともある。中国がロシアによるハイブリッド戦の応用を考えているのは間違いない。その具体的な手法について、冒頭のシナリオの続きを紹介しよう。


■「死か退去か」


〈中国による台湾侵攻作戦の開始前夜。与那国島の沖合に、数十隻の中国漁船団が現れた。やがて一隻、また一隻とボートが島の砂浜へ達着し、漁民とは思えない黒ずくめの不審な者たちが重そうな荷物を抱えながら上陸。迎えに出ていた学生風の若者たちと、人知れず夜の暗闇へと消えていった。

 また、島の近傍に停泊中の南米船籍コンテナ船には、円形のレーダーを島に向けた大型車両が搭載されていたが、島から肉眼では見えず、気に掛ける島民はいなかった。一方、陸自・与那国沿岸監視隊の隊員は夕刻にはこの船の存在に気が付いていた。監視隊の無線通信が雑音で通話できなくなり、原因を探していたところ、コンテナ船上の電磁波戦装置と見られる機材から発信されている強力な電波にたどり着き、対応を検討していた。

 翌朝、与那国島、石垣島及び宮古島一帯で活動中の自衛隊、警察、海保、消防の通信が不通となり、住民の携帯電話も「圏外」となった。3島では早朝、爆発音に気付いた関係職員が、海底(通信)ケーブル陸揚げ局を確認したところ、何者かに破壊されていた。

 その頃、各所から混乱の報告を受けていた与那国町長室に、警察官の制服を着て流暢な日本語を話す男たちが闖入し町長を拘束。島民全員に外出禁止令を出すよう要求した。すでに島の主要地点でも、県警風の集団が島民らに帰宅を促し統制を始めていた。町長は、駐在所の警察官が殺害されている写真を見せられ、やむを得ず全島防災無線で「自宅退避」を指示した。

 与那国沿岸監視隊は前日深夜、警戒員を配置していたものの、寝込みを襲われて官舎地域を包囲された。隊員は、家族を官舎に残して与那国駐屯地内へ連行されていった。隊員家族を人質に取られた隊長は、苦渋の判断の末、当直勤務についていた隊員たちにも武装解除を命じ、全隊員が拘束状態に置かれた。また島に2名しかいない警察官の遺体が駐在所で島民により発見され、島は大パニックに陥りつつあった。

 東京や那覇所在の各政府機関は、3島の出先機関と連絡を取ろうとするも通じない。情報を得ようとSNS上を検索すると、そこでは3島の島民を名乗る大量のアカウントが、「破廉恥で汚職に塗れた町長、市長らをリコールして再選挙を要望する」という趣旨の投稿を繰り返していた。同時に、「町長らに対する不満で暴動が発生し、空港や港湾が閉鎖された」との真偽不明の情報も飛び交っていた。

 与那国島に現れた武装集団は、中国に同調する者を除き、島民全員に島外への強制退去を指示。抵抗する者は「死か退去か」を迫られた。また、「近々、島が戦場となり大規模なミサイル攻撃を受ける」とのデマがどこからともなく流れ、やむなく島民の多くが漁船や停泊中のフェリーに分乗して沖縄本島へ向かった。

 翌日、残ったわずか数十名の島民で住民投票が行われ、「中国への帰属が島民の意思により決定された」と北京発のニュースが流れた。中国の報道官は、島を中国の施政下におくため国際法に基づく手続きを直ちに進めると宣言。「島民の悲願だった与那国島の中国帰属が決まり、琉球諸島の中国への復帰に向けた歴史的な転換点となる」と語った。

 日本政府は中国と国連に対して、これは事実上の不法占拠であり、国際法に反する蛮行を断じて認めることはできないと抗議したが、中国は聞き入れなかった。また国連安保理も、すでに台湾侵攻をめぐって中国が拒否権を発動し、機能不全に陥っていた。

 その間も、与那国島には中国の貨物船が続々と入港し、軍用車両が次々に陸揚げされていった。海保の巡視船が阻止を試みるも、中国船は「すでに与那国島の帰属は中国に変わった」と一方的に通知し、数的に上回る中国海警局の警備艇に守られて入港を続けた。結果として、与那国島における戦力集中競争に最初の利を得たのは中国であり、防空部隊、電磁波作戦部隊、長距離地対艦ロケット部隊など、守りを固めるために必要な部隊が続々と上陸し、布陣を取り終えていた。

 ここに至って、ようやく自衛隊に防衛出動が下令され、日本政府として絶対に譲れない国土奪還作戦が開始されることになる。また、米ホワイトハウス報道官も「日米安全保障条約第5条に基づき、日本防衛に参戦するための政治的手続きに入った」ことを発表した。

 ところが、中国メディアは連日、与那国島からの中継報道を頻繁に行う。古くからの島民だという夫婦がカメラに向かって、「やっと中国に復帰できた」と嬉しさを表現し、平和裏の移譲を印象付けていた。しかし、古くからの島民にしては、夫婦の日本語には島特有のなまりが全くなかった。

 さらに北京発の報道は「日米の攻撃は住民投票の結果を無視した、国際法に反する行為」「島には平和な暮らしがあり、島を捨てた人々よりも島に住み続ける住民の民意を尊重すべきだ」などと叫ぶ“自称島民”の映像を繰り返し流し、防衛と称して先制攻撃を企てた日本こそが国際法で裁かれるべきだとの主張を続けていた。

 やがて日本メディアの中にも、「島の奪還に自衛隊を出せば、中国が東京をミサイル攻撃する恐れ」「米軍の台湾防衛と一体化すれば憲法違反」「武力ではなく話し合いで解決すべし」といった論調が現れ始める――〉

 以上がシナリオの顛末である。まさに戦わずして領土を取られ、気が付いた時には負けているというハイブリッド戦の最悪の結末だ。得意とする世論戦、心理戦、法律戦を展開して中国が自国の正当性を喧伝し、既成事実化を図る。これが現実にならないと断言できるだろうか。日本の対応が後手に回れば、中国は台湾をめぐる対米作戦を有利に進めるため、与那国島を足掛かりに石垣島、宮古島にまで侵攻する可能性がある。

 むろん自衛隊もこうした最悪のシナリオは想定済みである。悪夢の実現を阻止するために、筆者が陸幕長を拝命していた2014年から、自衛隊は先島諸島を含む南西諸島の防衛力強化を進めている。いわゆる「南西シフト」だ。政府は13年、国防の基本方針を56年ぶりに見直し、「国家安全保障戦略」を定めるとともに、向こう約10年にわたる防衛力整備の指針を示した「防衛計画の大綱」を策定した。この大綱の焦点は対中防衛の強化であり、南西諸島防衛を確実にするため、自衛隊は大改革に全力を挙げることとなった。

 陸自としては、1、南西諸島に部隊を配備して戦力の空白を解消し、「隙を作らない」態勢を築く。2、情勢が緊迫した段階で実力ある部隊を南西諸島に戦略集中し、「島に手を出すな」との抑止態勢を完成する。3、万一やむを得ず島嶼の占拠を許した場合は「断固として取り返す」ため、奪回専門部隊(水陸機動団)を創設する。この3本柱を確立し、今現在も改革の途上である。

■敵基地攻撃能力を


 この方針の検討当時、鹿児島から台湾までの約1200キロに及ぶ南西諸島地域に配備されている陸自部隊は、那覇所在の第15旅団(約2500名)のみだった。その後、16年には与那国島に、監視レーダーで24時間365日、周辺の海と空を見張る与那国沿岸監視隊(約150名)が駐屯を開始。また奄美大島には19年に、警備隊、地対空ミサイル部隊及び地対艦ミサイル部隊(計約550名)が、そして宮古島にも19年以降、逐次同様の部隊(計約700名)が駐屯し、抑止態勢を強化した。残る石垣島には、数年後に同様の部隊が駐屯すべく準備中であり、これが完成すれば、奄美〜沖縄〜先島諸島を「南西の壁」「ミサイルの壁」として、南西諸島における我が国の強い防衛意志がさらに明確になるはずだ。

 余談になるが、この改革においては戦車100両、野戦砲100門の削減が「防衛計画の大綱」に定められた。この削減により、ゆくゆくは本州の戦車部隊は全て廃止され、筆者を戦車小隊長から育ててくれた岡山県の戦車部隊もなくなり、最終的に戦車の配置は北海道と九州のみとなる。筆者の自衛官人生の主軸は戦車部隊であり、自己の魂を削られるに等しい改革であるが、それを呑んででも南西諸島防衛強化の断行が必要と決心したのである。

 しかし、日本の防衛はそれでも充分とは言えない。中国の脅威は通常戦力やハイブリッド戦に留まらない。シナリオでも触れたように、中国は宇宙においても米国を脅かし、米国及び日本の人工衛星を攻撃できる力を持つに至っている。危機を感じた米国は19年12月、宇宙軍を創設するとともに、今年6月には国防宇宙戦略を策定し、中国との宇宙戦争に備え始めた。

 また射程500〜5500キロまでの弾道・巡航ミサイルの戦力比は、中国が1800発以上を保有するのに対し、米国は“0発”である。中国は、洋上の米空母や米空軍の根拠地であるグアムを攻撃できる能力を保有している。有事において日本防衛のために駆け付けてくれる米軍打撃力の主体である空母が、いざという時に日本や台湾の近海に近づけない状況にまで米中の戦力バランスが悪化しつつあり、米国は戦略の練り直しを迫られている。

 さらなる問題は、新兵器、極超音速滑空体(HGV)の出現である。HGVはマッハ5以上の極超音速で飛翔し、大気圏突入後はレーダーで捉えにくい低高度、変則的な軌道で目標に着弾する。中国も、HGVを搭載する「DF-17」(射程2500〜4千キロ)を配備予定と言われている。この新兵器に対する迎撃手段は、現時点ではどの国も保有しておらず、大きな課題となっている。防御がどうしても困難な兵器には、憲法でも保有を許されるとするカウンターパンチ力、すなわち敵基地攻撃能力を持つことにより、相手に撃たせない抑止力を確保することも速やかに検討すべきだろう。

 世界にとって今世紀最大の課題は、中国にどう向き合っていくのかという点にある。コロナ禍及び香港統治で見えた情報隠蔽体質、独裁体制は、中国共産党の本質と言えるだろう。自由、民主主義、法の支配という価値観のいずれも共有できず信頼できない国、中国。米軍を追い越すため大軍拡に突き進む軍事大国、中国。一方で、経済的には切りたくても切れない隣国、中国。

 しかし、自国の防衛を米国に大きく頼りながら、経済的には中国とうまくやっていくという「政経分離」がいつまで通用するだろうか。サプライチェーンの見直しはもちろん、米国と連携し、中国とは一線を画していく賢明な付き合い方を模索すべき時期である。

岩田清文(いわたきよふみ)
元陸上幕僚長。1957年、徳島県生まれ。元陸上自衛官(防大23期)。第7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監などを経て、2013年、第34代陸上幕僚長に就任。16年に退官。

2021年1月3日 掲載

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