<W解説>韓国の次期大統領と日本でも大人気の「BTS(防弾少年団)」に対する「軍特恵」論争

<W解説>韓国の次期大統領と日本でも大人気の「BTS(防弾少年団)」に対する「軍特恵」論争

「BTS(防弾少年団)」(画像提供:wowkorea)

韓国が誇る世界的なアイドルグループ「BTS(防弾少年団)」。7人メンバーで構成され、その歌唱と舞台パフォーマンスは世界のファンを魅了している。日本にも大勢のファンがいて、特にことしは「ビルボード1位」を記録した。1963年、日本の故坂本九さんが「上を向いて歩こう」の英語版「SUKIYAKI」で達成した大記録を57年ぶりに塗り替えた訳だ。

しかし、この「ビルボード1位」が韓国で「軍特恵」の論争を巻き起こしている。今まで国際スポーツ大会や純粋芸術のコンクールで受賞し「国威宣揚」をした男性には「軍特恵」が与えられていたように、「ビルボード1位」の国威宣揚に対しても、そのようなご褒美が必要だという論理があるからだ。

軍隊の入隊延期が可能な年齢ギリギリのメンバーがいて、この論争はさらに「増幅」してきている。興味深いのは、今までの経緯を見る限り、彼らは自ら「軍特恵」を求めたことがない。むしろ韓国の政治家たちがそのような「軍特恵」を言い出していることである。

昨今、韓国の次期大統領として相応しい、もしくは期待している候補として「世論調査1位」に急浮上しているユン・ソクヨル(尹錫悦)検察総長。検察改革や政権与党関係者への捜査への指揮権発動を巡ってチュ・ミエ(秋美愛)法相と対立中である。

法相自身や身内は遵法精神の点で「ネロナムブル(自ロ他不:自分がやればロマンス、他人がやれば不倫)」や「二重基準」「言行不一致」が取り沙汰されている。「タマネギ男」と呼ばれていた前任のチョ・グク元法相と比較され、「タマネギ女」と呼ばれている。

彼女に対する最大の疑惑は、息子の兵役時における「軍特恵」である。さすがに「入隊の特恵」ではないが、兵役服務中に有利な配属、処遇、待遇を不公正な形で被るとの「軍特恵」だった。

疑惑は大きく二つ。一つは配属審査の際に秋氏もしくはその秘書官が軍に圧力をかけ、不正な請託として、息子をカトゥーサ(在韓米軍通訳兵:Korean Augmentation Troops to United States Army)として配属させたというものだ。

そもそも韓国の兵役は陸軍に服務するイメージが強いのだろうが、希望によっては海軍・海兵隊、空軍、警察等を選択出来る。警察の場合、義務警察・戦闘警察として日本のデモ対応に当たる機動隊に相当するものだ。

そんな中で英語に長けた若者はカトゥーサ(在韓米軍通訳兵)を望む。一般的な陸軍の場合、比較的僻地での勤務を科される上に体力的にキツイ陸上戦闘員に配属される確率が高いからだ。またカトゥーサは服務期間が長期になってしまう空軍・海軍よりも有利で、都市部やその近郊に基地があって自由や利便性の点で優れている。

また英語の技能を活かす事が出来て除隊後の就職・留学にも有利になり得る。それ故に厳しい試験やくじ引き等を通して選抜されるのだが、有力政治家秋氏の息子のカトゥーサ配属決定に不公正な圧力介入が有ったのではと言われていたのだ。

もう一つは、兵役服務中に秋氏の息子が休暇後に基地に復帰(復営)せず、「脱走(脱営)」扱いになりかけたものの、秋氏の秘書官が軍の直属上官に電話で圧力をかけ、病気休暇へと事後的に処理されたとの疑惑だ。息子は結局58日間も証拠書類等が存在しない不透明な休暇を得ていた事だ。

ちなみにほぼ同時期、執行猶予こそついたものの、休暇明けの兵士が復営に17分遅刻しただけで懲役6か月が言い渡された。またある兵士は休暇明けに40時間ほど逃げようとしたものの、諦めて出頭していた。その兵士は、軍法裁判で懲役1年という厳罰が科され、前科者とされてしまっていた。

ところが秋氏の息子は、電話一本で「脱走」から「病気休暇」へと扱いが一変したのだ。しかも、診断書等の事前申請・提出が一切なかった。一説では休暇後に復帰が出来なかった理由が、「ゲーム三昧」だったとも言われている。

いずれも当時の同僚や上官等の関係者が証言したにも拘らず、何故か不自然な形で不起訴処分となった。尹総長と秋長官の対立が、与野党間の対立にまで発展してしまった結果、真相究明よりは政争の道具となってしまった為、今後の展開は不透明な状況だ。

ちなみに、現在の保守系の野党が与党だった時代、当時、首都圏「京畿道」の知事だった有力政治家のナム・ギョンピル(南景弼)氏の長男の事件を思い出す。2014年、南氏の長男もまた兵役についていた。

その際、有力政治家の息子という事で、師団長以下の将校らが彼に部隊内で特別待遇を与えて自由奔放な生活を送らせていたため、後輩の新兵らに性的暴力を始めとした暴行事件を繰り返していた事が隠蔽し切れず発覚した。ところが懲役8か月、執行猶予2年という、軍法としては微罪扱いで済まされてしまったのだ。

ちなみにその後、息子は2017年に麻薬の密輸、所持、使用で逮捕されたのだが、再び執行猶予で済まされていた。しかし、これにより南氏は「保守系の大統領」候補者レースからは脱落し、「過去の人」となった。

恐らく当時の南氏は将来の大統領選挙出馬時に、息子に兵役逃れをさせる他候補らと異なり、自分は息子を軍隊で服務させたと言う事をアピールしたかったはずだ。結果的には親不孝の息子のせいで、政治生命を失う事になったのだ。

この南氏の事件直後、知人の陸軍将校と会食したことがある。彼は建前としては上流層(日本で言う所の上流国民)の兵役逃れは許せないし、間違っている行為だと言っていた。しかし、実際にそういった連中の息子が自分の部隊に配属されたら、絶対に面倒な事が生じて、自分のキャリアや人生設計に必ず支障が生じるとも言っていた。

また、政治家であれ、財閥であれ、高官であれ、兵役逃れをするなら、自分のあまり知らない所で、検証不可能な形で(証拠を残さず)キレイにやってもらいたいものだとこぼしていたのを思い出す。

いずれにせよ、こうした上級国民やその息子が兵役に就く際は、必ず多かれ、少なかれ「軍特恵」が本人らの圧力によるものか、周囲の「忖度」によるものかの違いこそあれ、免れ得ないのだと実感した。

なお昨年、日本では元農水次官が息子を殺害したという事件があった。このニュースが韓国で報道されると、多くの韓国人が「日本は次官のような高官になった人物の息子にも『(就職)特恵』が無い、公正な社会だなぁ」と称賛していた。

こうした称賛が日本に対して送られないような韓国になり、「軍特恵」が死語になるような公正な社会になってほしい。韓国人のそのような願望が、「タマネギ女」秋氏と対立中のユン・ソクヨル(尹錫悦)検察総長の「次期大統領候補1位」の結果として現れたはずだ。

韓国だけでなく、東アジアの一員として日本も共に誇れるほど世界的なアーティストになった「BTS(防弾少年団)」。彼らの軍隊入隊をめぐる論争は、2年後、日本のパートナーとして相応しい韓国の次期大統領を産むかもしれない。

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