北朝鮮「湧き水」ビジネスを舞台に繰り広げられた詐欺事件

北朝鮮「湧き水」ビジネスを舞台に繰り広げられた詐欺事件

北朝鮮産の天然水(本文とは関係ありません)

北朝鮮を訪れた外国人観光客が利用する商店では、複数のブランドのミネラルウォーターが販売されている。中でもいちばん高級なのが江西(カンソ)薬水だ。

首都・平壌の郊外にある江西郡で産出される天然の鉱泉水で、消化器に良いとされ、北朝鮮の宝物56号に指定されている。韓国にも2003年から輸入販売されていたが、南北関係の悪化を受け、2008年に輸入が中断した。

この江西薬水以外にも、北朝鮮には様々な名水が存在する。そのひとつが、平安北道(ピョンアンブクト)東倉(トンチャン)郡大洞里(テドンリ)の湧き水だ。この水を不当な高値で販売し、利益を着服していた療養所の所長が解任されたと、平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

薬水閣東倉療養所は、湧き水を10リットル600北朝鮮ウォン(約10円)という国定価格で販売することになっていたが、急性腎盂腎炎、慢性胃炎、胃潰瘍、慢性胃潰瘍に効能がある弱酸性成分の水だという国家科学院の検査結果が昨年発表され、人気が急上昇。

これをビジネスチャンスと見たのだろう。療養所のクォン所長は運営資金を賄うため、郡内の他の村の住民や他の地方からやってきた人に、国定価格より13倍も高い10リットル8000北朝鮮ウォン(約130円)で販売することにした。

国からの予算が配分されず、自力更生を求められている北朝鮮の機関、工場、企業所は様々な形で収入を確保している。有給設備をトンジュ(金主、新興富裕層)に貸し出したり、運送業を営むために車両の登録をする人に名義貸しを行なったりなど、手法は様々だ。

ところが、いつまで経っても療養所の財政状況は好転せず、従業員への配給すら行われず、不満の声が高まった。また、他の村の住民からも「自分の故郷で湧いている水に600ウォンも払わされることも気に入らないのに、8000ウォンという大金をなぜ払わなければならないのか」「儲けは本当に国庫に入っているのか」といった不満と疑問の声が上がるようになった。

やがて、クォン所長に対する信訴(不正行為の告発)が行われた。これを受けて、平安北道人民委員会(道庁)の検閲課(監査班)による監査が行われた。その結果、クォン所長は水を売った収益で、少数の従業員に対して食用油1本と豚肉500グラムを1回配給しただけだったことが判明した。

儲けのほとんどは所長の懐に入っていたということだ。結局、所長は解任され、一般労働者に格下げとなった。また、朝鮮労働党平安北道委員会にもこの件が報告され、湧き水の販売は現在中止されている。

北朝鮮や韓国の人なら、朝鮮王朝時代末期の平壌で、大同江の水を自分のものだと主張し、商人に高値で水を売りつけ大儲けした稀代の詐欺師、金先達(キム・ソンダル)を知っているだろう。まさに、それを想起させるような事件と言える。

金正恩総書記は、幹部の不正行為の摘発キャンペーンを繰り広げ、摘発された人々に対し銃殺を含めた過酷な刑罰を下している。クォン所長が比較的軽微な処罰で済まされたのは、着服額が少なかったためか、地方政府の上層部に強力なコネがあったためか、詳細は不明である。

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