火災に巻き込まれた兵士を救出…金正恩「感動ショー」に冷淡な視線

火災に巻き込まれた兵士を救出…金正恩「感動ショー」に冷淡な視線

北朝鮮空軍追撃襲撃機連隊を視察した金正恩氏(2020年4月12日付朝鮮中央通信より)

消防インフラが貧弱な北朝鮮では、火災が発生しても消防隊が出動することはほとんどなく、住民が自主的に消火活動を行うか、すべてが燃え尽きるまで為す術もなく見守るしかない。

昨年6月に両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)で起きたマンション火災では、住民は最初から消防車の出動に期待せず、焼損した場合に責任を問われかねない金日成主席、金正日総書記の肖像画を運び出したものの、家財道具までに手が回らず、結局すべてが灰になってしまった。

また、昨年8月に恵山で起きた火災では、消防車が出動しなかったことで鎮火が遅れ、9人が死亡、30人が負傷する大惨事となった。当初は責任逃れに汲々としていた当局だが、世論が悪化するや、人民委員長(市長)と安全部長(警察署長)が被害者に対して謝罪する異例の事態となった。

そしてこんどは、警備強化のために国境地域に派遣されている朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第7軍団の駐屯地で火災が発生したが、当局の対応は全く違ったものだったと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

火災が起きたのは今月6日の午前2時ごろのこと。両江道の金亨稷(キムヒョンジク)郡の第7軍団の兵舎から火の手が上がった。兵士らは寝床につく前に、オンドル(床暖房)の焚口に薪をくべておいたのだが、何らかの理由でそこから燃え広がったようだ。

兵士らは火事が起きたことにも気づかず眠りこけていたが、火の手が兵舎の中に広がってようやく1人が目を覚まし、大声で火災発生を知らせた。この兵士ともう2人は脱出に成功し、軽い火傷で済んだ。しかし、6人は顔の見分けがつかないほどひどい火傷を負い、別の6人は窒息した状態で救出された。

部隊の指揮部はすぐに上部に報告し、それが金正恩総書記にまで届いた。そして「1人も死なせてはならない、15人の兵士たちを無条件で救え」と、軍用ヘリに出動命令を下した。

緊急出動したヘリは金亨稷郡のマジョン中学校の校庭に着陸、15人を乗せて約300キロ離れた平壌の病院に向かった。15人のその後の容態について、情報筋は触れていない。

一部始終を見守った兵士の中には、涙を流す者もいた一方で、ヘリに同乗したカメラマンが搬送作業の様子を撮影するのを見て「どうせ(金正恩氏の)偉大性宣伝に利用するのだろう」と、冷ややかな反応を示す者もいたという。

また、火災の後で「火災に遭った兵士たちのことで、元帥様(金正恩氏)が胸を痛めていらっしゃる」との噂が流れたが、何者かが意図的に流したものと受け止められているという。

情報筋は「経済封鎖(制裁)とコロナ禍による民心の離反を意識した金正恩氏の『兵士愛』と『人民愛』を強調し、内部の結束を高めようという意図に見える」と説明した。

そもそもの話、現在の生活苦を生み出したのは、核とミサイル開発に固執して国際社会の制裁を招き、コロナ対策として極端な国境封鎖を行なっている金正恩氏自身だ。北朝鮮国民の中には、そのことに気づいている人も多い上に、この手のプロパガンダを信用しない国民がほとんどだ。

ちなみに2017年に、軍事境界線上にある板門店を通じて亡命する過程で銃撃を受け、瀕死の重傷を負った元北朝鮮軍兵士のオ・チョンソン氏は、韓国軍のヘリで約70キロ離れた亜州大学病院に緊急搬送され、一命をとりとめた。密かに韓国発の情報に触れている北朝鮮国民の中にも、このエピソードを知る人は少なくないだろう。

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