飢える一般国民をしり目に…金正恩「赤い貴族」の醜悪な内紛

飢える一般国民をしり目に…金正恩「赤い貴族」の醜悪な内紛

朝鮮労働党第8回大会、最終日の金正恩氏(2021年1月13日付朝鮮中央通信)

封建時代の身分制度を打破し、皆が平等な社会主義体制を打ち立てたはずの北朝鮮。しかし、現実は全く異なり、むしろ前近代より強化されたと言っても過言ではない身分制度に国民一人ひとりが縛り付けられている。

「成分」と呼ばれる身分の低い者は、軍、大学、朝鮮労働党に入ることが制限されるなど、社会的不利益を受ける一方で、金日成氏と抗日パルチザンを共にしていた人物やその子孫は、様々な面で優遇され「赤い貴族」とも呼ばれる。

そんな抗日パルチザンの革命第一世代の最後の一人、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の元帥を務めた故李乙雪(リ・ウルソル)氏一家で揉め事が起きた。それも、国家保衛省(秘密警察)が捜査に乗り出すほどというから、ただ事ではない。デイリーNKの北朝鮮国内の情報筋が伝えた。

李乙雪氏が生前に受け取った数々の勲章や1号贈り物(最高指導者から受け取った贈り物)は、2015年の逝去後に、宗孫(家督を受け継いだ者)が相続した。

ただ、宗孫は長男がなるはずだが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に出演した脱北者のキム・ジュウォンさんは、李乙雪氏に息子はおらず、娘が4人いると述べており、この宗孫と李乙雪氏の関係性は不明だ。ちなみに、韓国統一省のデータベースによると、李乙雪氏の三女の夫は、外務次官を務めた朴明国(パク・ミョングク)氏だ。

宗孫が受け継いだ1号贈り物の中には、「金正日」と名前が刻まれた「尊銜(お名前)時計」があったが、これが忽然と姿を消した。最高指導者の肖像画を守るために命を投げ出したことが美談とされるお国柄で、逆に最高指導者の名前の入ったものが紛失することは、極めて重大な政治事件。大騒ぎになったことは言うまでもない。

いとこが家を訪れた後で、時計がなくなったことから、このいとこに疑いがかけられたが、取り調べにも知らぬ存ぜぬと繰り返すばかり。事件は結局、国家保衛省が捜査することになった。

国家保衛省の指示を受けた区域の保衛部は、このいとこの家で家宅捜索を行なったが、時計の発見には至らなかった。しかし、追及を続けた結果、ようやく「自分が盗んだ」との自白を引き出すに至った。

時計が隠されていたのは、金日成氏の肖像画の裏だ。いくら保衛部とは言え、肖像画には手を出さないだろうとの考えから、裏にテープで貼り付けていたのだという。

時計を盗んだ動機についていとこは、恨みから宗孫を貶めるためだと述べた。

「同じ李乙雪の子孫の自分は、国から何一つ恩恵を受けていないのに、宗孫は贈り物を受け継ぎ、党の手厚い保護を受け、鼻高々の様子が気に入らなかった」
「暮らしが楽ではなく、何度か無心したが、助けの手を差し伸べてくれるどころか相手にすらしてくれず、怒りのあまり犯行を罪を犯した」(いとこの供述より)

この人物と李乙雪氏との関係性は不明だが、かつては何不自由なく暮らせた赤い貴族の中にも、生活に困る者が出始めていると伝えられている。

いとこには労働鍛錬刑(懲役)1年の刑が下され、時計は宗孫の手元に戻った。

事件のことは、中央党(朝鮮労働党中央委員会)の通報資料(学習資料)にも掲載されたが、金氏一家の権威の毀損につながることもあり、被害者の名前は記載されなかった。しかし、幹部の間ではあっという間に噂が広がってしまった。

今回のことは、赤い貴族ことパルチザンの子孫ののコミュニティでもショックを持って受け止められ、李乙雪氏の子孫を批判する声が上がっている。

「李乙雪同志は名誉を守られつつ亡くなったのに、その子孫はなぜあのザマなのか」
「革命の元老と持ち上げられる抗日パルチザンの家柄なのに、こんな不名誉な事件を起こすなんて恥ずかしい」

また、単なる親戚同士の諍いに、国家保衛省まで巻き込んだことにも、非難が集中している。

中央党は、パルチザンの子孫の1号贈り物のリストと実物を照らし合わせ、保管状態を確認する作業を進めている。一般国民が食糧難で餓死の恐怖と闘い、生きるために命をかけて脱北する者さえいるような状況で、浮き世離れした赤い貴族はこんなことで大騒動を繰り広げているのだ。

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