北朝鮮の秘密警察が組織ぐるみ「携帯電話マフィア」の内幕

北朝鮮の秘密警察が組織ぐるみ「携帯電話マフィア」の内幕

携帯電話で通話する北朝鮮の女性

北朝鮮の秘密警察、国家保衛省は12月10日、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に住むチェ氏(30代)を逮捕した。北朝鮮では違法とされている中国キャリアの携帯電話を販売していた容疑だ。だが、彼は末端の小売業者に過ぎず、元締めは別のところにいた。

国家保衛省を含めた連合指揮部は、両江道をはじめとする国境地帯の4つの道で、大々的な取り締まりを行っている。当局が好ましくないと考えるものは、すべて国境の向こうから入ってくるためだ。

その結果、チェ氏の逮捕に至ったわけだが、話はややこしい方向に進んでいく。実はチェ氏、地元の恵山市保衛部の情報員(スパイ)だったのだ。つまり、保衛部の「身内」の犯行だったということになるが、話はそれで終わらない。

チェ氏に携帯電話を卸していたのは、恵山市保衛部反探課(スパイ取り締まり部署)のキム氏。なんと、携帯電話を取り締まる側が、携帯電話の販売にも関わっていたということなのだ。

取り調べでチェ氏は、昨年8月から逮捕直前までの1年数カ月の間、キム氏から32台もの携帯電話を受け取っていたと自白した。1台あたりの価格は8000元(約14万5000円)から2万元(約36万1000円)、合計で30万元(約542万円)ものカネがチェ氏からキム氏に渡っていた。

一方のキム氏は、チェ氏を情報員として雇ったに過ぎず、今回の事件とは何の関係もないとしらを切っている。また、恵山市保衛部の幹部も、キム氏をかばうような動きを見せているとのことだ。今のところ、国家保衛省はキム氏に対する捜査に正式に乗り出していないが、そうなった場合、幹部にも累が及びかねないとの判断からと思われる。

事件の全体像をまとめると、概ね次のような話になるだろう。

両江道保衛局も、その傘下の市、郡の保衛部も深刻な財政難に苦しめられている。昨年1月からの国境封鎖で、密輸が困難となり、状況がより深刻となった。

その打開のために保衛部は、末端の保衛員に、月に数千元から数万元の上納金のノルマを課した。そこで、中国キャリアの携帯電話を仕入れて情報員に売らせることにした。携帯電話の取り締まりは行うものの、それはユーザーからワイロを納めさせるネタとして利用するためだ。

国家保衛省から取り締まりの強化を指示されたときは、スケープゴートとして、おとなしくワイロを納めない者などを逮捕。拷問にかけて処刑し、ワイロ回収のための「見せしめ」とする。

昨年から携帯電話への取り締まりが強化され、多くのユーザーが逮捕されたが、それでも依然としてユーザーが存在していたのは、他ならぬ地元の保衛部が販売に関わっていたからだろう。

今回の事件をめぐり、市民の間では様々な話が飛び交っている。「元帥様(金正恩総書記)の不正腐敗剔抉(てっけつ)の意思が強いため、厳罰を受けるだろう」と見る人もいれば、「仲間なのだから大目に見るだろう」と見る人もいる。

いずれにせよ、地元の保衛部に取り締まりを任せている限りは、中国キャリアの携帯電話ユーザーの根絶はできないと見た中央が、地元にしがらみのない国家保衛省の取り締まり班を派遣した作戦は成功を収めた形だ。

しかし、実は国家保衛省も、このような形で得られた利益を地方の保衛部から受け取っている同じ穴のムジナなのだ。捜査を突き詰めれば、国家保衛省自身にも類が及んでしまう結果をもたらしかねない。

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