北朝鮮の秘密警察に「ハンマーで処刑」された女性経営者の罪状

北朝鮮の秘密警察に「ハンマーで処刑」された女性経営者の罪状

金正恩(キム・ジョンウン)氏

かつての社会主義国で共通して見られた現象の一つが、物資の中間搾取、横流し、横領だ。不足する食糧や物資を手に入れるため、或いは売り払って利益を得るために、国から供給された物資や工場で生産された製品を、担当者が自分のものにしてしまう。それが深刻なモノ不足に拍車をかけていた。

世界で唯一、未だに社会主義計画経済を公式に維持している北朝鮮では、現在でもこれらの現象が深刻だ。国営企業の給与水準が、かつて配給システムが曲がりなりにも機能していたころから上がっておらず、権限や立場を利用して不正行為を行わないと生活ができないからだ。

政府は、幹部によるこのような不正行為に対して厳しい取り締まりを行っている。今年に入って開催された朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議で、「不正腐敗行為」を批判された高官が解任されたが、これに前後して朝鮮人民軍(北朝鮮軍)でも、大々的な物資の横流し、横領に対する取り締まりが行われている。

そんな中、軍に対する物資供給の担当者が、国から供給された物資を横領していたことが判明し、処罰されたと、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

逮捕されたのは、安州(アンジュ)市軍人商店の物資供給所で所長を努めていた50代の女性だ。

軍人商店とは文字通り、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将兵やその家族だけが利用できる店で、通常の市場価格よりも安く購入が可能だ。所長はその価格差に目を付け、数年前から国から供給された物資を横領し、市場で販売して利益を得ていた。副業として始めたものだったが、徐々にその額が大きくなっていた。

不正行為の情報を察知した安州市保安署(警察署)は、所長の一挙手一投足を監視するようになった。そして今年2月初め、所長が使っていた倉庫を捜索し、砂糖2トン、大豆5トン、コメ3トン、ガソリン180キロが入ったドラム缶2本を発見。すぐさま所長は逮捕された。

逮捕から2日後、捜査権は保衛部(秘密警察)に移された。単なる経済犯ではなく、政治犯としての扱いとなったということだ。保衛部は1ヶ月近く所長に対する取り調べと証拠固めの捜査を行い、上部に報告した。

その後に上部から下された指示は「死刑」だった。新型コロナウイルスで危機的な状況下、国内で自力更生、正面突破戦が行われている最中の横領は、反逆罪に該当するというもの。所長は、非公開で、それもハンマーで撲殺される形で処刑された。結局、裁判は行われず仕舞いだった。

北朝鮮の司法制度では、逮捕され、取り調べ、予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)を経て起訴される。ここまでで数ヶ月かかることも少なくない。その後、広場や競技場に市民を集めて裁判官が罪状をつらつらと読み上げ、死刑判決を下した上で、銃殺により処刑を行う。見せしめとすることで恐怖を与えるためだ。

しかし、今回は非公開で処刑が行われた。韓国の北朝鮮人権情報センター(NKDB)の集計によると、非公開処刑の罪状として最も多いのが政治犯で48.6%、刑事犯は29.6%で、経済犯は3.0%に過ぎない。このことからも、今回の事案が政治犯として扱われていることがうかがえる。

ちなみに、ハンマーでの処刑は次のように行われる。

ほとんどの死刑囚は、手錠をかけられたままの状態で夜に山に連れて行く。そして、話しかけて油断させたすきに棍棒やハンマーで後頭部を殴って殺す。(遺体は)窪みや石垣をどけたところに埋葬する。

(国家保衛省(秘密警察)に勤務経験を持つ脱北者の証言、新東亜、2016年10月号)

非公開で行われた処刑だが、その情報は口コミを通じてあっという間に広がった。道内の卸売業者やトンジュ(金主、新興富裕層)は、とばっちりを食らうかも知れないと怯え、息を潜めている。中でも、国から供給されるガソリンを販売している業者は事実上、営業を中断している。

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