「偉大なる金日成主席」を「昔のじいさん」呼ばわりする北朝鮮の若者

「偉大なる金日成主席」を「昔のじいさん」呼ばわりする北朝鮮の若者

北朝鮮の招待所で働く女性従業員たち(資料写真:平壌写真共同取材団)

北朝鮮の「建国の父」である金日成主席が死去してから今月8日で26年。同国各地ではこれと関連した教育が行われている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、「首領様(金日成氏)の命日を迎え、身のある忠実性強要事業を行え」との政府の指示に基づき、穏城(オンソン)郡など道内すべての自治体で、金日成氏の生涯を称える様々な行事が行われていると伝えた。

現在、農繁期を迎えて農業の現場での学習、講演会が行われているが、革命歴史研究室の思想学習も行えとの指示が、道党(朝鮮労働党咸鏡北道)委員会から下された。

また、「田畑のど真ん中での学習は真剣味がない」として、革命歴史研究室での研究会、講演会、学習会を行い、先代首領(金日成氏と金正日総書記)の肖像画を見上げつつ、「骨にしみる懐かしさで忠誠心を育てなければならない」などと言った指示も下した。

さらに、時代が過ぎるにつれ、先代首領の業績についての思想的面貌が暗くなっていると指摘し、「わが党の歴史は先代首領の歴史だ。お二方の労苦と業績がわが国を強国たらしめたのだから、敬虔な崇拝心を持つべきだ」などと注文をつけた。要するに、皆、亡くなってから時間が経って忘れてしまっているから、思い起こさせろということだ。

郡内の農場、工場、企業所、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)は先月中旬から、革命歴史研究室に、フォーマルなドレスコードを要求した上で人を集め、革命活動についての研究会を開いている。金氏一家の偉大性に関する内容に加え、金日成氏の銅像などに対する敵からの攻撃があるかもしれないから警戒せよとの内容も付け加えられた。

ただでさえ農繁期で忙しいのに加え、新型コロナウイルス対策による国境封鎖、貿易停止で生活が苦しくなっている中での思想学習に、不満の声が上がらないわけがない。

「忙しい農繁期で朝から晩まで畑で働いているのに、よそ行きの格好をして研究室にまで行かされるのは負担になる」(農民)

そうまでしてやっている思想教育の効果だが、あまり芳しくないようだ。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋は、中国との国境に接した平安北道(ピョンアンブクト)龍川(リョンチョン)郡での思想教育の様子を伝えている。

郡内では農勤盟組織(朝鮮農業勤労者同盟)と青年同盟(金日成・金正日主義青年同盟)が各地で金日成氏の回顧録「世紀と共に」の研究発表会を行い、掲示板には金日成氏を追悼する内容の壁新聞を貼り出した。

また、電柱に設置されたスピーカーから「首領様は天が下した偉人、人民のために一生を尽くされた太陽」「首領を受け継ぎ、チュチェ(主体)革命偉業を引き継がれた金正恩元帥様も世界を牛耳る傑出した政治家」などという内容の朝鮮中央放送のラジオ番組が流されている。

だが、住民の反応は今ひとつのようだ。とりわけ、20代以下の若者らは金日成氏に対し「昔のじいさん」程度の認識しか持たず、金氏一家を神格化するプロパガンダは効果がないと情報筋は指摘した。

「金正恩氏が『父なる元帥様』なら、金正日氏は『じいさん大元帥様』、金日成氏は『ひいじいさん』とでも呼んどけばいいんじゃないか」(現地の学生の声)

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、親世代と若者世代で金氏一家についての考えが大きく異なるとと指摘した。その例として挙げたのは、金日成氏、金正日氏の銅像や、金日成氏の逝去を悼むために建てられた永生塔の扱いだ。「最も神聖な場所」であるはずなのに、若者たちにとっては単なるデートスポットなのだという。

「夕方や週末に太陽像(金日成氏の銅像)周辺を散歩していると、デート中の若い男女が周囲の芝生の上で手をつないで寝転がっているのを見かけるが、それももはや日常のこと。当局が首領を神格化し、忠誠心を高める目的できれいに整備した聖地も若者にとってはちょうど良い遊び場なのだ」(情報筋)

北朝鮮の若者は幼稚園から大学に至るまで、金氏一家についての徹底した思想教育を受けるのだが、「市場(チャンマダン)世代」と呼ばれる今どきの若者にはおとぎ話のように聞こえるようだ。

貧しくとも安定した暮らしを営めた1980年代以前を経験し、指導者に対して「ありがたい」という気持ちを大なり小なり持っている世代と違って、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降に生まれ育った若者たちは、国や指導者から何かをしてもらったという記憶に乏しく、実感がわかないのだという。

彼らは、国から押し付けられる思想学習には全くと言っていいほど興味を持たず、国や金正恩氏への忠誠心も希薄。ビジネス、音楽など自分の生活を豊かにすることにだけ興味がある世代で、気心の知れた間柄では金氏一家をこき下ろすこともある。

この状況に対して激怒した金正恩氏は、次のように指示したとされる。

「青年たちを党の思想で徹底的に武装させよ」
「青年たちが先頭に立ち、政治思想学習の大旋風を起こさなければならない」

これを受けて各大学では2016年7月、抜き打ちの検閲(監査)を行い、学生の思想状態を確認した結果、8割以上の学生が金正恩氏の「新年の辞」のタイトルすら知らないという驚くべき結果が出た。

韓国の大韓弁護士協会が、国内の脱北者を対象に行なった調査では、「北朝鮮当局の韓国や米国や北朝鮮に不当な人権攻勢を展開しているというプロパガンダを聞いたことがある」と答えた人は全体の6割。内容は違えど、当局のプロパガンダを聞き流している人が少なからず存在することがうかがえる。

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