北朝鮮「軍将校30年生活」の末の暗転…金正恩体制に反発

北朝鮮「軍将校30年生活」の末の暗転…金正恩体制に反発

北朝鮮空軍追撃襲撃機連隊を視察した金正恩氏(2020年4月12日付朝鮮中央通信より)

今年4月に開催された最高人民会議第14期第3回会議では、リサイクル法、遠隔教育法と並び、除隊軍官生活条件保障法という法律が採択された。軍に長年にわたり勤務した軍官(将校)の定年退職後の生活保障について定めた法律だ。従来、朝鮮労働党の行政措置によって行われていた除隊軍官の生活保障を体系化したもので、条文は公開されていないものの、軍を重視する姿勢の現れと分析されている。

この法律以前から、首都・平壌にある軍関係の施設で30年以上勤務した軍官とその家族は、平壌に住み続けられる「特典」が与えられていた。成分(身分)の良さ、忠誠心の高さや国への貢献度が認められた人しか住めない特別な都市で、居住することそのものが特権と言えよう。

ところが、北朝鮮国内の基準とは言え、他の地方では考えられないほどの豊かな余生を過ごしていた除隊軍官に、とんでもない知らせが伝わった。

平壌のデイリーNK内部情報筋は、従来は30年だった勤務期間の条件が35年に伸ばされ、今月1日から施行されたが、それが遡及適用されるというのだ。つまりは35年に満たない人に対する平壌追放令だ。

25歳から地方での勤務は一度もなく、平壌の人民武力省、総政治局、総参謀部、保衛局などの軍中枢や、司令部級の部隊で勤務し続けた者だけが平壌居住資格を得られるとなると、対象となる人はほとんどいないという。

軍を重視する姿勢を見せていたのに、なぜ急に方向転換したのか。それは厳しい食糧事情のためだ。

当局は、地方では既に途絶えて久しい配給制度を平壌では実施し続けているが、相次ぐ凶作や、新型コロナウイルス対策による経済難で、300万に達する平壌の全市民への配給が途絶えがちになっている。一部では1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のときのような治安悪化も見られるようになっている。

社会安全省(旧称人民保安省)第8局は今年4月、平壌市民証を持たずに平壌市内に居住している人に対して追放令を下した。「平壌所払い」で人口を減らして食料配給を減らすという「口減らし」を行おうというものだ。

過去にはより過激な方法を用いている。2010年1月、平壌市郊外の勝湖(スンホ)区域、中和(チュンファ)郡、祥原(サンウォン)郡を、黄海北道(ファンヘブクト)に編入する措置を取ったが、これは「口減らし」の目的があったと言われている。この措置で20万人以上が平壌市民ではなくなった。居住、移動の自由のない北朝鮮ならではの強硬策と言えよう。

一生を祖国防衛に捧げてきた軍官とその家族からは、既に強い反発の声が上がっている。また、離婚の急増も予想されている。平壌出身者はもともと、間違いを起こさない限りは平壌に住み続けることができるが、地方出身の夫と結婚した平壌出身の妻は、離婚することで平壌追放から逃れられるからだ。

当局は、金正恩氏が「除隊軍官に対する社会的な待遇を高めるべき」と述べたとしている。これは、地方に追放されてもそれなりの配慮をするから動揺するなという意味合いで受け止められるが、経済難に苦しむ地方政府にそんな余裕はなく、情報筋は「自分のことは自分で養え」とプレッシャーを掛けてくるだろうと見ている。

軍人は商行為が禁じられており、軍から支給される給料や配給で生計を立ててきた。今更商売をしようにも、ノウハウや人脈もなければ、プライドが許さない。除隊軍官は、多くの人を餓死に追いやった「苦難の行軍」と、20数年遅れで闘うはめになるかもしれないのだ。

「当局からも捨てられて市場化の波にも適用できず、路頭に迷う除隊軍官が続出するだろう」(情報筋)

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