地元民を苦しめる北朝鮮「赤い観光」ビジネスの本末転倒

地元民を苦しめる北朝鮮「赤い観光」ビジネスの本末転倒

元山葛麻海岸観光地区の建設場を現地指導した金正恩氏(2018年5月26日付朝鮮中央通信より)

中国共産党が胡錦濤政権下の2004年に提唱した「紅色旅游」。1921年に中国共産党第一次全国代表大会が行われた上海の一大会址、1934年から1936年にかけて国民党軍と闘いながら1万キロ以上を移動した「長征」のルートなど、全国で249の革命にまつわるスポットをリストアップして宣伝するという、共産党プロパガンダと観光振興を兼ねたもので、英語ではレッドツーリズムと言われる。

実際に行ってみると、周囲には土産物屋、食堂、宿泊施設、さらには共産党とは全く関係のない謎のテーマパークなどが立ち並んでいるとされ、観光振興で地元経済を発展させる目論見が強いことが見て取れる。

レッドツーリズムでは、北朝鮮も負けてはいない。平壌を訪れた外国人観光客がかならず訪れる「万景台故郷の家」と呼ばれる金日成主席の生家、巨大な銅像がそびえ立つ万寿台など、コース全体が「共産主義テーマパーク」観光と言えよう。

国内観光客は、金日成主席の抗日パルチザン活動の足跡をめぐる聖地巡礼「踏査」(タプサ)を行う。北朝鮮は、内部結束を高めるために思想教養事業に注力しているが、その一環として踏査のルート整備にも力を入れている。

慈江道(チャガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、道党(朝鮮労働党慈江道委員会)は、党創建75周年(今月10日)に向けて、地域の道路標識を設置し直す作業を行った。

今回の事業の背景について、情報筋は次のように語った。

「初めは道路標識が色あせていたので、塗り直すものだと思っていたが、学びの千里の道、光復の千里の道の基本区間であるので、革命戦績地や史蹟地につながっているからではないかとの声が上がった」

学びの千里の道とは、後に北朝鮮の最高指導者となる金日成氏が父・金亨稷(キム・ヒョンジク)氏の命に従い、当時住んでいた満州国間島省延吉県(現在の中国吉林省長白朝鮮族自治県)八道溝村から、平壌に歩いて戻ったとされる道を指す。

そのストーリーは、祖父・康敦U(カン・ドヌク)牧師が設立に関わった彰徳(チャンドク)学校で勉学に励んでいたが、父が逮捕されたとの知らせを受け、八道溝村に戻ったというものだ。光復の千里の道とは、この復路のことを指す。いわば北朝鮮版の「長征」だ。いずれのコースにも慈江道が含まれていて、踏事のゴールデンルートの一つとなっている。

今回の事業には、江界(カンゲ)にある将子山(チャンジャサン)革命史跡地の改築、拡張も含まれている。朝鮮戦争中の仁川上陸作戦で後退を強いられた金日成氏が滞在していたところだ。ちなみに北朝鮮は1950年10月9日から12月5日まで江界に臨時首都を置いていた。

中国のレッドツーリズムは、地元にカネが落ちる仕組みになっているが、北朝鮮の場合は、地元住民からカネを巻き上げて観光資源を維持している。情報筋によると、今回の道路標識の再設置に必要な資材や労働力は、道党が自主的に調達した。地元住民を連れてきて働かせ、資金も住民から徴収したということだ。

忠誠心や内部結束を高めるのなら、住民を苦しめるのではなく、地元が潤うモデルの構築が必要だろう。

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