北朝鮮の刑務所職員が「温和な人」に総入れ替えされた理由

北朝鮮の刑務所職員が「温和な人」に総入れ替えされた理由

北朝鮮政府の声明を支持する人民保安省軍務者集会(2017年8月11日付労働新聞より)

北朝鮮における人権侵害事例の調査とアーカイブ化を行っている韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)によると、確認できただけで北朝鮮には23ヶ所の教化所(刑務所)が存在する。その資料には記載されていないが、北部山間地の慈江道(チャガンド)の城干(ソンガン)郡には、道内唯一の6号教化所(刑務所)がある。

そこの所長以下の全職員が、昨年11月末から12月にかけて交代させられたと、現地のデイリーNKの内部情報筋が伝えた。情報筋は、その正確な数はわからないが、600人と推測している。

彼らの代わりに配属されたのは、社会安全省(警察庁)教化局で実務配置講習を受けた管理要員だ。当局は党性(忠誠心)が強く、元いた組織の推薦を受けた者の中から、比較的性格が穏やかな人物を選び、送り込んだという。また、所長には社会安全省教化局の教化生活副局長を所長に任命した。城干教化所の歴代所長は将官、佐官級の幹部が務め、他の所長より階級が高いことで知られている。

この人員総入れ替えについて情報筋は、ひどい人権侵害が背景にあると挙げた。

「昨年7月、教化所の警備兵が、個別作業と称して女性受刑者を連れ出し、性的暴行を振るおうとしたが、抵抗されたために殺害し、遺体を裏山に埋める事件が起きた。警備兵は公開銃殺されたが、慈江道全域に噂が広がり、戦々恐々となった」(情報筋)

また一昨年7月には、看守の暴行と暴言に抗議してハンストを行った受刑者2人を独房に監禁し、食べ物をホースで口に流し込み強制摂食させる事件も起きている。

一連の事件を受けて、社会安全省教化局が検閲(監査)に入り、受刑者に対する人権侵害行為や不正行為などがあったことを把握し、人員総入れ替えに踏み切った。

NKDBは、昨年9月に発表した「2020北朝鮮人権白書」で、北朝鮮のいくつかの分野では過去と比較して、「2000年代以降、北朝鮮の住民の生存権、教育権、健康権が改善されている」「これは経済・社会・文化的権利に関する規約(国際人権A規約)の分野でかなりの改善が進んでいることを示している」と、人権状況に改善が見られると指摘している。

だが、教化所における人権侵害は依然として、北朝鮮の他の地方の人々にとっては「当たり前」のこと。なのに、城干の教化所に限って地元に動揺が広がったのは、慈江道の特別な位置づけが背景にある。

慈江道は軍需工場が多いことから、人々の移動が非常に厳しく制限されている。その一方で、不便さの見返りとして、他の地方では考えられないような潤沢な配給が行われるなど、特別扱いされてきた。

勤め先の軍需工場で資材などを横領して摘発される事例が数多く起きているが、捕まった人々は地下工場の位置など様々な機密事項を知っているため、当局はできるだけ短い刑で済ませて出所させたいと考えるようで、そのような意図から昨年9月、城干教化所の内部に労働鍛錬隊に相当する部署が新設された。

労働鍛錬隊は、刑期半年以下の軽犯罪者を収監する施設だ。教化所送りになれば朝鮮労働党の党員証が剥奪されるが、労働鍛錬刑なら党員資格を維持できる。

他の地方より遥かに恵まれている慈江道ではあるが、首都・平壌の人にとっては片田舎に過ぎない。情報筋は、新しく赴任した人員の家族の半分以上が慈江道に来ていないと指摘し、その理由を次のように説明した。

「慈江道は、冬の寒さが厳しく夏は蒸し暑い。気候が優れず山奥にあるという認識があり、密輸も難しく、生きていくのが難しい。だからほかの地方の都市部の人々は来たがらない」

中には、夫が城干教化所に派遣される前に、妻が幹部にワイロを渡し、夫を辞職させ慈江道行きを逃れさせる事例も起きているという。

一方、城干教化所から配置換えになった職員は、全国各地の安全部(警察署)に配属されたが、急な人事異動で家族を慈江道に残したままの単身赴任となり、不満の声が上がっているという。

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