【から(韓)くに便り】日韓「言葉戦争」の虚実 黒田勝弘

 日韓対立で文在寅(ムン・ジェイン)大統領が先ごろ日本に対し「盗っ人猛々(たけだけ)しい」と発言したことが話題になった。日本では「下品でバカにした発言だ!」として世論の怒りを買った。原文は漢字熟語の「賊反荷杖(ジョクパンハジャン)」で、韓国では「泥棒がムチを振り上げる」という「居直り」の意味でよく耳にするが、より強いニュアンスに伝えられ日本人の感情を大いに刺激した。

 似たようなことは韓国側でもある。最近、安倍晋三首相が内閣改造後の記者会見で対韓外交の今後に関し「微塵(みじん)も変わりありません」と語ったことが韓国では「安倍“チリほども変化無し”と強硬姿勢」と伝えられた。「微塵」の直訳は「小さなチリ、ホコリ」だが実体的には「少しも変わらない」程度の意味だろう。それが「チリほども変わらない」と訳され韓国世論を刺激した。

 安倍首相発言では過去にも過剰反応があった。国会で慰安婦問題に関し追加措置を質問され「毛頭も考えていません」と答弁したことが、韓国では直訳風に「毛の先ほども考えてない」と伝えられた。日本では「まったく」といった意味の軽い(?)感じでよく使うが、それを「毛の先ほども」という聞き慣れない異様(?)な表現で日本の拒否姿勢を強調したのだ。

 韓国では「安倍たたき」という固定観念に合わせ発言は悪意に伝えられるが、日本でも文批判の高まりを背景に言語的な過剰反応があるように思う。ここは筆者を含め冷静になりたい。

 日韓は同じ漢字文化圏なため、漢字語をめぐるズレがよくある。1990年代の金泳三(キム・ヨンサム)政権時代、大統領の対日発言を「唐突だ」と書いたところ当局に呼び出され、「国家元首に無礼ではないか」と抗議されたことがある。

 「突然」とか「急に」という日本語の慣用として使ったのだが、韓国では「唐突(タンドル)」は「無分別でとんでもない」という否定的な言葉だという。それはそれで韓国語の勉強にはなったのだが、「日本の新聞に日本語で書いているのだから抗議はおかしい。韓国当局の翻訳能力に問題があるんじゃないか」と皮肉を言って別れた。

 “ビビンバ事件”もそうだ。李明博(イ・ミョンバク)政権時代(2008〜13年)、官民挙げて「ビビンバ世界化キャンペーン」が展開された。韓国食の代表として世界に広げようと、そのカラー写真が米国でPRされていたのを見て、「ビビンバは食べる前は美しく彩りがいいが、食べるときはぐちゃぐちゃにかき混ぜるのであの写真では“羊頭狗肉(くにく)”になるかも」とコラムで皮肉った。

 これが「韓国食文化への冒涜(ぼうとく)だ」と大問題になり、メディアで袋だたきにされた。とくに「羊頭狗肉」がケシカランという。日本では見た目と中身が違う場合などに軽く使うが、韓国では「客を偽る詐欺行為」みたいに悪意的だという。この時も日本人記者のビビンバ批判というか問題点指摘に不満、不快の韓国側が過剰反応したのだ。

 ただ「問答無用」の日本文化と違って韓国文化は多弁で言葉の威力を重視する。あることないこと反日言説が国際社会で影響力を発揮するのはそのせいだ。日韓では「歴史戦争」とともに「言葉戦争」という観点が必要かもしれない。(ソウル駐在客員論説委員)

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