慰安婦訴訟で正反対の結論を出させた文在寅 反日一辺倒では国民に支持されないことを悟った結果

慰安婦訴訟で正反対の結論を出させた文在寅 反日一辺倒では国民に支持されないことを悟った結果

慰安婦と共に歩んできた文大統領

■裁判所が政権の意思を忖度


 ソウル中央地裁は4月21日、慰安婦被害者とされる人たちが日本政府を相手取り、韓国内の裁判所に提訴した損害賠償請求を却下した。これは、今年1月8日に「日本政府は慰安婦被害者たちに1億ウォン(約950万円)ずつ賠償すること」と判決を下した別の損害賠償訴訟判決と正反対の結論ということになる。判決が反転した理由と共に、その背景にある大統領の変節についてレポートする。

 今回の訴訟は、韓国人元慰安婦ら計20名が日本政府を相手取り、総額約30億ウォン(約2億9100万円)の損害賠償を求めたもので、今年1月に慰安婦被害者だと主張する12人たちが勝訴した訴訟とは別案件である。

 前回の1月の訴訟では、「資料、弁論の趣旨を総合すると被告の不法行為が認められる」「(原告は)精神的、肉体的苦痛に苦しんだとみられ、慰謝料は原告が請求した1億ウォン以上とみるのが妥当」、「1965年の日韓請求権協定や2015年の日韓合意に、この事件の損害賠償請求権が含まれるとは見なしがたく、請求権の消滅はないとみる」とし、賠償金の支払いを日本政府に命じた。

 この判決は、日本の主張する“主権免除(国家に対しては、別の国の裁判権が及ばない)”という国際法に反する内容だった。

 韓国の裁判所は、政権の意思を忖度することでよく知られている。判決が反転した理由もそこにあると見て間違いないだろう。

 この間の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の公式発言を辿ってみよう。


■対日緩和策をなぞった結果


 1月の判決から10日が経過した1月18日の記者会見で大統領は、慰安婦問題の最終解決をうたった2015年の日韓合意を「政府間の公式合意」だと認めたうえで「原告が同意できる解決策を見いだす」と判決に言及している。

 その後の会見でも、日韓合意について同様の認識を示したうえで徴用工訴訟にも触れて、「日本企業の資産が強制執行で現金化されるのは韓国と日本にとって好ましくない」と現金化を回避したい旨を示した。

 司法が下した判断に最高権力者がくちばしを挟むような行為は異例だった。

 さらに、3月の「3・1独立運動」記念式典では、「韓国と日本の唯一の障害は、過去と未来の問題を切り離せず、未来の発展に支障が出ることだ」「過去の過ちから教訓を得ることは、国際社会で尊重される道だ。韓国政府は日本政府と向き合い、対話をする準備ができている」と述べている。

 文大統領は就任当初から強硬な対日姿勢を取り続けてきたわけだが、今年に入って態度を豹変させたのは明らかだ。

 繰り返しになるが、今回の判決は、そんな文大統領が取り始めた対日緩和策をなぞった結果だと言えるだろう。

 もちろん、1月に判決が下された直後は、今回の訴訟についても元慰安婦側が勝訴するとの見方が強かった。

 実際に、ソウル中央地裁は日本政府に訴訟費用を負担させるため、資産の差し押さえをする方向で動いていた。

 しかし、ある日本の政府関係者によると、1月の判決後に韓国政府は日本側に「資産の差し押さえはない」と伝えていたという。

 ソウル中央地裁が、「国際法に違反する恐れがある」ことから、訴訟費用確保のための資産の差し押さえを認めない決定を下したのは3月29日のことだった。


■判決当日に野党のソウル市長と


 原告の1人である李容洙(イ・ヨンス)氏は、国際司法裁判所(ICJ)への提訴を日米韓に訴えていたが、今回の訴訟で敗訴したことにより実現はさらに遠のいた。裁判長が言及した通り、この問題は韓国内で解決すべきものだろう。

 今回の判決を受け、正義連など慰安婦らを支援する団体ネットワークは「人権の最後の砦としての責務を果たさなかった裁判所を糾弾する」、「裁判所が歴史を戻した退行的な判決を敢行した」と、司法当局を激しく批判している。

 これまでならその主張に呼応し、反日の声が高まっても不思議ではないのだが、そんな動きはさほど見られず、世論は至ってクールな反応だ。

 当の文大統領もまた、かねて慰安婦や正義連の活動をサポートしてきた立場だったわけだが、判決が出たまさに21日、先日の選挙で当選したばかりのソウル市長と会談している。

 野党・国民の力に所属する市長はその場で、同じ保守で超長期の懲役刑を受けて収監されている李明博、朴槿恵の両元大統領の恩赦を求めた。

 文大統領はこれを却下することはなく、国民の反応を見極めたいなどと答えたとされる。
 
 両元大統領は文大統領にとって不倶戴天の敵で、文氏は両者を監獄に送った張本人ともされるわけだが、この恩赦が来年の大統領選で自らが所属する革新政党に有利に働くなら、カードとして使えると見ているのは間違いない。

 事実、韓国政府の関係者は「韓国の揺さぶりに応じず無視を決め込んだ日本の態度に、韓国の方がしびれを切らしたのは間違いない。反日一辺倒では国民に受けないことを政権は悟った。大統領選を見据え、フェーズが変わった」と話している。

羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月26日 掲載

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