原発処理水放出を「核テロ」と訴える韓国団体も 米国は反対要請を拒絶 「日本食品もどき」がヒット

原発処理水放出を「核テロ」と訴える韓国団体も 米国は反対要請を拒絶 「日本食品もどき」がヒット

「放流したら食べません」デモ

■極めて異例な発言


 5月5日、英国ロンドンで開催された主要7カ国(G7)外相会合で、茂木敏充外相と韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官が初めて顔を合わせ、茂木外相が、福島第1原発の処理水放出に対する韓国政府の対応に懸念を表明した。韓国側はメディアも含め「海洋放出は隣国だけでなく、全地球を汚染させる行為だ」などと批判を続けている。

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 これまでの経緯をざっと振り返っておくと、日本政府が福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決めたのは4月13日。間髪を入れず、韓国の政府やメディアはこれに強く反発した。

 翌14日午前には、新たに韓国に駐在することになった日本などの各国大使から文在寅大統領が信任状を受け取る捧呈式が行われたが、その際に大統領は式に出席した相星孝一駐韓日本大使に遺憾の意を述べ、韓国政府と国民の憂慮を本国に伝えてほしいと要請した。

儀式の場にふさわしくない極めて異例な発言だったと言えるだろう。

 大統領は同日、国際海洋法裁判所への提訴を積極的に検討するよう指示も出している。

 国際海洋法裁判所は1996年に発足した国際機関で、海洋法条約の解釈や適用から生じる紛争を管轄している。

韓国外交部は、以前にも同裁判所への提訴を検討したことがあるが、「効果は乏しい」という判断を下していたのが実情だ。

 そもそも提訴にあたっては海洋放出による被害を立証しなければならない。しかし海洋放出は2年後から始まる予定で、韓国近海に到達するまでさらに4年以上かかると予想されている。

 また、仮に何らかの被害が確認されても処理水との因果関係を証明することは無理だろう。自国の汚染水である可能性も十分あるのだ。


■米国は「介入しない」と表明


 外交部による過去の判断を無視するかのように、韓国政府は諸外国と協調して日本政府の決定に反対するとも強調している。韓国と中国、北朝鮮が反対を表明し、台湾とロシアが懸念を示した。

 特に中国外務省とはテレビ会議を行って、“汚染水”の海洋放出方針に反対する立場を確認した。

 日本側の出方によって、さまざまな対応策を検討することを決めたものの、国際海洋法裁判所への提訴など具体的な議論には発展しなかったという。

 韓国政府は米国にも反対への協力を要請している。しかし、韓国を訪問していたジョン・ケリー米大統領特使は、日本とIAEA(国際原子力機関)を信頼していると述べ、介入しない考えを表明したのだった。

 処理水の海洋放出に反対しているのは政府やメディアに限らない。

 済州特別自治道の元喜龍(ウォン・ヒリョン)知事は、海洋放出が実施されたら日本政府を相手取った訴訟を日韓両国に提訴すると明らかにし、日韓双方から沿岸住民を代表する原告団を募集する方針を打ち出した。

 これには前段があって、元済州知事は昨年10月20日、「済州の海を守ることは、海につながる全ての国の国民の生命と安全、生態系を守ること」で、「済州道は汚染水が届く全ての当事者と連帯してあらゆる手段を動員し、対応する」と述べていた。

 その他、韓国の市民団体「脱核市民行動」は日本政府の決定を「核テロ」とみなすと表明。西海岸の忠清圏水産協同組合協議会、南岸の全羅道の麗水や海南の水産業者、日本海沿岸の竹島魚市場なども処理水の海洋放出に反対している。

 また、韓国水協中央会、韓国水産産業総連合会など25の水産関係団体は、日本政府に処理水海洋放出の撤回を要求し、韓国政府に対しても日本の水産物の輸入禁止を要求した。


■商魂たくましい「日本食品もどき」


 もっとも、昨年10月に韓国原子力安全委員会が「処理水の海洋放出は問題ない」という主旨の報告書を作成していたことも明らかとなっている。

 同委員会は「汚染水を浄化する日本の多核種除去設備(ALPS)の性能に問題がない」ことを確認したうえで、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の定める手法で日本列島周辺海域の放射線影響を分析した結果、放射線数値は「妥当だ」と評価。

 さらに、「海洋放出から数年後に韓国の海域に到達しても、海流によって移動しながら拡散・希釈され、水産物摂取などによる被ばくの可能性は極めて低い」と結論付けていたのだ。

 ご存知の通り、世界各国の原発は同様の処理水を海洋放出しているし、韓国も例外ではない。日本にのみ特別な基準を押し付けることは、原子力安全委員会の担当者も科学者としての良心がとがめたのかもしれない。

 ただ、今回の処理水放出決定とは関係なく、そもそも韓国政府は2011年5月以降、日本産食品を輸入する際、日本政府が発行する放射能関連証明書の提出を義務付けており、さらに、通関前にも放射能検査を実施するという二重の検査体制を敷いてきた。

 したがって、スーパーやデパートで人気のある日本産食品を輸入して並べるのにハードルは依然として高いままなのだ。

 もっとも、そのハードルを逆手にとって「日本食品もどき」を韓国で開発・製造する商魂たくましい韓国企業も現れている。韓国内での流通なら厳しい検査は不要というわけだ。

 新世界・イーマートグループはその1つで、ドラマ「深夜食堂」をモチーフにした東洋食品の「深夜食堂」シリーズやCJ食品の「カツオうどん」をいち早く店頭に並べ、消費者の評判も高いという。

 普通に日本の食材や商品を流通させたほうが、韓国の消費者にとっても喜ばしいことなのでは、と思うのだが、振り上げた拳の下ろしどころが見つかっていないというのが現状のようだ。

佐々木和義
広告プランナー兼コピーライター。駐在員として渡韓後、日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える広告制作会社を創業し、日系企業の韓国ビジネスをサポートしている。韓国ソウル市在住。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月10日 掲載

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