面従腹背の文在寅 ソウルに戻ると即、金正恩に“詫び状” 米国でも始まった「嫌韓」

文在寅大統領とバイデン大統領が米韓首脳会談 "カニ料理"に米俗語で別の意味も

記事まとめ

  • 5月21日の米韓首脳会談で、文在寅大統領が、バイデン大統領と会談した
  • 文氏はコロナ理由に米韓合同演習を拒否したが、金正恩委員長への「詫び状」とも
  • 会談での「クラブケーキ」は「友達でもないのに纏わりついて来て離れない奴」を意味

面従腹背の文在寅 ソウルに戻ると即、金正恩に“詫び状” 米国でも始まった「嫌韓」

 中国・北朝鮮側に大きく傾いていた韓国。5月21日の米韓首脳会談で、米国側に一気に引き戻された。しかし、ワシントンから帰国した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は直ちに北朝鮮に「詫び状」を書いた。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。

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■コロナ理由に合同演習を拒否


鈴置:5月26日、文在寅大統領は「コロナのために、過去のように多くの兵力が(物理的に接触する)実戦形式での訓練は条件上、難しくないか」と述べました。8月に予定されている米韓合同軍事演習の実施に難色を示したのです。少なくとも「実戦形式の演習はしない」との意思表明です。

 与野5党代表との懇談会で述べたもので、発言は聯合ニュースの「文大統領『コロナで大規模な実戦形式での韓米演習は難しくないか』」(5月26日、韓国語版)から翻訳しました。

 文在寅大統領の発言は事実に基づかない詭弁です。5月21日、米韓首脳会談後の共同会見でJ・バイデン(Joe Biden)大統領が韓国軍の将兵全員に接種できるよう、55万人分のワクチンを供与すると発表しています。在韓米軍の軍人はほぼ全員が接種済みですから、実戦形式の演習によるコロナ感染の可能性は大きく減るのです。

 米韓合同演習は2018年6月の米朝首脳会談以降、規模が大幅に縮小されたうえ、机上演習に格下げされました。D・トランプ(Donald Trump)大統領の一方的な譲歩によります。

 そんな同盟は弱体化するほかありません。バイデン政権は文在寅政権に実戦形式の演習の復活を打診しましたが、「コロナ」を理由に拒否されました。そこで韓国の軍人へのワクチン供与を決めたと見られています。

■「ワクチンは同盟の象徴」


――ワクチン供与の見返りに実戦演習を再開する、との合意があったのですか?

鈴置:報道されていません。しかし、一般にはそう理解されています。共同会見で以下のやり取りがあったからです。

 ホワイトハウスの発表資料によると、まず文在寅大統領が「韓米同盟のために、米国側が用意でき次第、韓国軍将兵にワクチンを供給するようバイデン大統領が決めてくれた」と述べました。

・for the sake of the ROK-U.S. alliance, President Biden decided to provide vaccines to the servicemen in Korea as soon as the U.S. is ready.

 続いて、バイデン大統領が「韓国軍と共にある在韓米軍の米軍人のためでもある」と答えたのです。

・we’re going - there are 550,000 Korean soldiers, sailors, airmen who work in close contact with American forces in Korea. We’ll provide full vaccinations for all 550,000 of those Korean forces engaging with American forces on a regular basis - both for their sake, as well as the sake of the American forces.

 ワクチン供与は同盟の象徴、と米韓首脳が語ったのです。このため「今年の米韓合同演習は実戦形式で実施するのだな」との認識が韓国では広がっていました。冒頭で紹介した文在寅発言がバイデン大統領との“約束”を踏みにじるものと受け止められたのも無理からぬ話です。

――実戦形式の演習をしないのなら、ワクチンも受け取らないつもりでしょうか?

鈴置:文在寅政権は食い逃げするつもりです。55万人分とはいえ、ワクチンを返上すれば国内から非難の声があがるのは確実。

 米国もワクチンを供与せざるを得ない。演習を実施するかどうか、韓国があいまいな態度を続ける限り、いざ実施の場合を考え米国は供給を拒否できません。8月の演習時にワクチンの効果を発揮するには、そろそろ韓国軍の兵士に打ち始める必要がありますし。

■試合に負けたら場外乱闘


 保守系紙、朝鮮日報は“文在寅の変節”を非難しました。社説「合同演習を今年もしないのなら、韓米首脳会談は『南北イベント』用だったのか」(5月28日、韓国語版)でこう書きました。

・米国は「訓練なしの軍隊」など想像もできない国だ。ワクチン供給を渋っていたバイデンが韓国軍への接種用は与えると約束した意味もそこにある。
・文大統領の関心は金正恩(キム・ジョンウン)との南北イベントの再開にしかない。このため米国の要求をまる飲みする代わりに、金正恩と謳ったシンガポールと板門店での宣言を韓米共同声明に入れて貰ったとの観測もある。
・文大統領が韓米演習をしないとの意思を表明したのは結局、韓米同盟の復元や強化が彼の本当の目的ではないという事実を示している。

 文在寅政権は米韓同盟を弱体化してきました。親米保守とすれば「演習中止」で同盟にトドメを刺されたらたまったものではない。一方、反米左派にとっては、米国が韓国に不信感を持とうが「演習中止」は必須なのです。

 米韓首脳会談で文在寅政権は徹底的にねじ伏せられた。共同声明には「台湾」と「北の人権」を入れられ、中朝との間にクサビを打ちこまれた(「文在寅が“大敗北”の米韓首脳会談 ワクチン対象は軍人だけ、声明には『台湾』『北の人権』」参照)。

 文在寅政権には、つむじを曲げる北朝鮮に「詫び状」を送る必要があったのです。試合で負けたプロレスラーが場外乱闘を始めたようなものです。


■選挙戦前に「思いきった行動」


――米韓合同演習を拒否するのは北への「詫び状」……。

鈴置:そもそも韓国は北朝鮮から「米韓合同演習は止めよ」と脅されているのです。そこに北の人権に言及した共同声明。北朝鮮が激怒したのは確実です。怒らせれば対話に応じてもらえません。

「米韓合同演習を止めれば、せめて実戦形式を避ければ、金正恩委員長は許してくれるかもしれない」との切ない思いでしょう。

 文在寅大統領発言の前日の5月25日、大統領の本音を代弁するとされる文正仁(ムン・ジョンイン)世宗研究所理事長がシンポジウムの席上、以下のように述べました。

 中央日報の「文正仁『北朝鮮、米国との接触に応じるだろう…文在寅、9月以前に思いきった行動をとるかも』」(5月25日、韓国語版)から訳します。

・韓米共同声明では米国が北朝鮮に何を提供するのか具体的な内容が明かされていないので、北は韓米首脳会談でどんな対話が交わされたのか、大いに聞きたいであろう。
・初めのリトマス試験は北朝鮮が対話要請に応じるかであり、また、韓米が(8月に予定される)合同演習を実行するかで、見極めることが可能だ。合同演習をすれば対話が中断しうる。
・北朝鮮が対話に出る場合、文在寅政権は北との協力事業を開始できる。
・9−10月に大統領選挙戦が始まる。その時が来れば(南北関係改善への努力への)勢いが失われる可能性もあるため、それ以前に(文在寅政権が)思いきった行動に出るかもしれない。
・(文大統領の任期が11か月程度しか残っていない半面、バイデン大統領は4年近い任期を残すという「政治の周期の不調和」に言及しつつ)とても難しいが、それでも何もしないよりはいい。


■非核化交渉で監獄逃れ


 文在寅政権の焦りがひしひしと伝わって来る発言です。2022年5月の任期満了までに北朝鮮の非核化を巡り、何らかの結果を出さねばならない、とこの政権は思い詰めています。

 よほどの功績を残さない限り、韓国の歴代大統領は次の政権に刑務所送りにされるからです。文在寅政権も李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)の元・前大統領をはじめ最高裁長官、保守政権時代の高官らを大量に起訴・収監したので、報復は免れません。

 2022年3月の大統領選挙で保守が勝てば、あるいは左派でも現政権と仲の悪い李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が勝てば、文在寅氏は獄につながれ、取り巻きも連座する可能性が極めて高い。

 ところが肝心の北朝鮮が、非核化の第一歩となる対話に応じてくれるかはかなり怪しい。2018年に対話に応じたのに、韓国からカネが来なかったと怒っているからです。

 そこで北朝鮮に対し文正仁理事長は「北朝鮮が話し合いに応じたら、協力事業を開始できる」と表明し「今度はちゃんとカネを送る」と約束したわけです。

――一度騙された北朝鮮が再び対話に応じるでしょうか?

鈴置:文正仁理事長も難しいと分かっています。そのため「思いきった行動に出る」と語ることで「もっと大きなプレゼントも考えているぞ」と、北の気を引いたのです。

――米国がそれを許すでしょうか?

鈴置:バイデン政権は反米左翼に点数を稼がせるつもりはないと思います。北朝鮮との対話は急がず、それにより来年に誕生する「南のまともな政権」と協議しながら北との交渉に挑めばよい、と考えているでしょう。文正仁理事長が悔しそうに言及した「政治の周期の不調和」はこれを指します。


■贈り物は在韓米軍撤収


――「もっと大きなプレゼント」とは?

鈴置:「在韓米軍撤収」ではないかと思います。ただ、はっきりとそう言えば国民から大反対が起きます。そこで朝鮮戦争の終結を内外に示す「終戦宣言」、あるいは「平和協定の締結」というオブラートにくるむと思われます。

 米国でも「平和協定」への懸念が語られています。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のN・エバーシュタット(Nicholas Eberstadt)氏がNYTに寄稿した「Biden and Moon Are Getting North Korea Wrong」(5月26日)です。

 エバーシュタット氏は米韓共同声明に盛り込まれた「朝鮮半島の恒久的な平和の確立」との文言を北朝鮮が悪用して「平和協定締結」→「在韓米軍撤収」に駒を進めるであろう、と警告しました。

 共同声明が「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」を謳ったことも、同様の結果をもたらすと指摘しました。後者は韓国に差しかけてきた米国の核の傘を取り払うことに同意した、と取られかねないからです。

 見出しの「バイデンと文が北朝鮮を悪くする」からも分かるように、今回の米韓首脳会談は北を甘やかすだけと厳しく批判する論文です。結論は「北朝鮮の意向に従って動く韓国の左派政権とは手を切れ」でした。

・To reduce the North Korean threat, we will need a program we can undertake on our own, with like-minded international friends, that does not depend on Mr. Kim.


■日頃は反米、困ったら泣きつく


――韓国にも厳しい姿勢ですね。

鈴置:駐米韓国大使が「米国との同盟が国益につながるとは限らない」と堂々と語って「同盟破棄」あるいは「中国陣営への鞍替え」を示唆する時代になりました(「『核武装中立』に突っ走る文在寅、朝鮮戦争終結宣言で『米韓同盟』破棄へ」参照)。

 中国との対立を深める米国が韓国を敵と見なすのは当然です。それでいて困ると「ワクチンをくれ」と纏わりついてくる(「『韓国へのワクチン供給は後回し』と公言した米国務省 バイデンがQuadから逃げ回る文在寅にお灸」参照)。道義的にも韓国はまともな国と見なされなくなっているのです。

「文在寅を相手にせず、左派を自滅させよう」との意見も堂々と語られ始めました。アジア専門家のG・チャン(Gordon Chang)氏が米政治専門メディア『The Hill』に寄稿した「Bad Moon falling: South Korean leader falters in summit with Biden」(5月24日)です。

 見出しの「月」とは「文」の英語表記が「Moon」であることから、「文在寅」と楽曲「Bad Moon Rising」にかけたのでしょう。

 書き出しから激しい。「韓国史上で最も反米的な大統領がワシントンを訪れたが、欲しい物は手に入らなかったようだ。彼は外交日程をこなす間、微笑み続けていたが、疑いもなく狼狽し失望していた」。

 記事の後半では「同じ党派から2人続けて大統領が出る、という過去のパターンに従えばだが、文はもっと反米的な指導者に政権を譲ることになる」とあります。李在明知事のことです。

 そして結論が「来年3月の韓国大統領選挙に米国は介入する力はない。だが、バイデンは何もしないことで結果を出せる」です。

 要は、来春の大統領選挙での左派の当選を防ぐために、文在寅政権に点数を稼がせてはいけない、そのために北朝鮮との対話を急ぐな、と主張したのです。


■価値観を共有できぬ国


――米国も「嫌韓」なのですね。

鈴置:40年間以上、朝鮮半島を見つめてきましたが、こんなことは初めてです。米国の「嫌韓」は今のところ、専門家の間に留まっていますが。

 首脳会談の直前にも朝鮮半島専門家のS・スナイダー(Scott Snyder)氏が『Forbes』に寄稿、北朝鮮の人権問題から目をそらす文在寅政権と価値観を共有できるのか、と疑問を投げかけています。

「Joe Biden’s Summit With South Korea’s Moon Jae-In Poses a Question of Shared Values」(5月20日)です。

――専門家はともかく、バイデン政権は「分かっている」のでしょうか。

鈴置:この政権には韓国を熟知した人が多い。大統領も、中国に対する抜きがたい恐怖感といった韓国人のメンタリティまで理解しています(「『バイデンから電話が来ない』と気を揉む韓国人 原因は『習近平コール』か、それとも――」参照)。

 米韓首脳会談で文在寅大統領に出した食事を見ても、この政権の韓国への理解度と姿勢がよく分かります。


■「crab cake」は米俗語では……


――韓国紙が「日本よりも上に扱われた証拠」として誇ったクラブケーキですか。

鈴置:その通りです。「菅義偉首相のハンバーガーと比べ、もっと高級な料理が我が国の大統領には供された」と韓国人が大喜びした、あのクラブケーキです。

 米俗語で「crab cake」は「友達でもないのに纏わりついて来て離れない奴」を意味します。バイデン大統領は「面従腹背のこの男、ソウルに戻ったらすぐに掌を返すのだろうな」と心の中で呟きながら「crab cake」を勧めたのでしょう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月31日 掲載

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