韓国で今も続く犬食文化 “韓国版土用の丑の日”にソウルの「犬肉専門店」で見た光景

韓国で今も続く犬食文化 “韓国版土用の丑の日”にソウルの「犬肉専門店」で見た光景

東大門市場近くの「タッカンマリ通り」内に構える犬食専門店

「犬でも食べるんですか?」。韓国人の友人に3連休を使ってソウルに行くと伝えると、藪から棒にこう言われた。7月16日は、韓国の暦で「伏日(ポンナル)」と呼ばれる日。日本の「土用の丑の日」のような日で、伝統的に犬肉を食べるというのだ。友人の案内で繁華街の犬肉専門店に入ると、店内は老人たちで埋め尽くされていた。(墨田龍一/ライター)【弾丸ソウルルポ後編】

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■病人と妊婦が勧められる料理


「日本でも『土用の丑の日』に鰻を食べるでしょう。韓国ではそれが犬。暑い夏場に精のつく犬肉を食べる習慣があるのです」

 こう語るのは、日本人男性向けの韓国旅行案内サイト「k-enjoy.net」を運営しているオ氏である。ただし、最近の若者たちは犬食を嫌い、滅多に食べないという。ペットとして犬を飼っている家庭も多く、動物愛護の観点から敬遠しているからだ。ただし、一部の例外があるという。

「病人と妊婦です。病気になったら犬肉が効くとか、妊娠したら犬肉を食べて体力をつけなさいと、高齢者が勧めてくるのです。店舗で食べるのは憚られるので、専門店でテイクアウトして家でこっそり食べているという感じです」

 案内役を務めるオ氏は48歳。彼もまったく食べないと語る。

「子供の頃は家庭料理でよく出てきました。親に『体にいいから食べなさい』と騙されて、一口二口食べたことはあります。ただ、まったく美味しくない。独特の臭みがあるし、硬いんです。後で犬と聞いて、ますます食べられなくなりました。自宅でも犬を飼っていましたしね」


■今ではサムゲタンで代用


 さらにオ氏には、小学校時代に河原で目撃した忘れられない光景があった。

「大人たちが犬を生きたまま木に吊るして、バットのようなもので叩いているんです。生きたまま叩くと美味くなるというのが理由だった。あれを見たら、とてもじゃないけど食べる気にはなれません。もちろん、今ではそんな残虐行為はしていないと思いますよ」

 いったい「犬の日」の専門店はどのような様子なのだろうか。オ氏の親戚が経営している犬肉専門店があるというので、ソウルの東大門(トンデムン)市場にある「タッカンマリ通り」を訪れた。この通りには名前のとおり、100メートルほどの小径に十数店舗のタッカンマリ専門店がひしめきあっている。

 訪れたのは昼時だった。現在、「犬の日」はサムゲタンやタッカンマリを食べる習慣に変わりつつあるというが、タッカンマリ屋にはそんなに客が入っている様子はない。もともと観光客が多く訪れる通りとあって、コロナ禍で外国人客が減っている影響のようだ。


■店内は老人でいっぱい


 だが、小径の一番奥に構えている2店舗だけは様相が違った。店内は満席で、2〜3人が外で待っている状態。その店舗こそが犬肉専門店であった。

 店頭にはあばら骨がむき出しになった犬肉の塊の山が展示され、看板には英語で〈Dog Soup〉、中国で〈狗肉〉、そして日本語で〈犬のスープ(犬肉)〉とある。

 店主に話しかけてはみたが、「忙しいからちょっと待って」。粘って待っていると店内のテーブルへと案内された。

 客層をじっくり観察すると、全員が50歳オーバーで白髪の老人が目立つ。2〜3人で美味しそうにビールや焼酎と一緒に犬料理をつついている。

 やがて店員が犬肉の蒸し料理を運んできた。いつの間にか食べる流れになってしまったが、ここまで来たからには逃げるわけにはいかない。


■美味くもないが不味くもない


 付け合わせのネギと一緒にコチュジャンにつけて食べる。硬い。脂身のない鴨肉のような食感だ。美味くはないが不味くもない。続けて出てきたのは鍋料理。グツグツと煮込んだスープの中には、犬肉のほかにシソやネギが入っている。

 匂い消しのためなのだろう、スープが辛すぎる。味は蒸し料理と一緒。体にいいと言われたら食べられなくもないといったところである。だが、次々と口に運んでいるうちに、味覚とは別の“犬を食べているんだ”という罪悪感のようなものが襲いかかってきた。すると、急に気持ち悪くなってきたのである。

 オ氏はまったく口をつけずに、ニヤニヤ見守っている。ひとりで平らげるのには限界があり、少し残してギブアップした。値段は一品1万6000ウォン(約1700円)だったが、オ氏の顔でご馳走になってしまった。


■明洞で見かけた抗議活動


 食べている間も次から次へと客が訪れるので、店主には話を聞けずじまいだったが、オ氏が代わってこう語る。

「店主や愛好家からすれば、『豚や牛を食べるのが良くて、なぜ犬はダメなのか』といったところなのでしょう。日本人は鯨を食べますが韓国では食べませんし、国々によって食文化があるわけです。とはいえ、若い世代はほとんどが犬食を嫌っているので、徐々に消えゆく食文化だと思います」

 その後、明洞(ミョンドン)のショッピング街を訪れると、白髪のおばあさんが、檻に入れられた犬の写真が大きく掲げられたプラカードを体にまとい、抗議活動をしていた。そのプラカードにはハングルとともにこのような英文が書かれていた。

〈NO MORE DOG CAT MEAT SOS〉

【弾丸ソウルルポ前編:3連休でソウルへ 日本人観光客の“定番スポット”「明洞」は空き店舗だらけ日本語案内も消滅】

ライター・墨田龍一(すみだ・りゅういち)

デイリー新潮編集部

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