北朝鮮ミサイル 日本にとって最大の脅威はダム湖の水中発射場から打ち上げられたKN-23

北朝鮮ミサイル 日本にとって最大の脅威はダム湖の水中発射場から打ち上げられたKN-23

9月25日から10月9日までの期間に行われた朝鮮人民軍「戦術核運用部隊」の弾道ミサイル発射訓練

「北朝鮮はアジアでトップクラスのミサイル保有国になりました。これは日本にとって、かなりの脅威です」──軍事ジャーナリストは警鐘を鳴らす。北朝鮮が異常なハイペースで弾道ミサイルを発射しているのはご承知の通りだ。まずは今年に入って何発のミサイルが発射されたか見てみよう。

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 防衛省・自衛隊の公式サイトでは「北朝鮮のミサイル等関連情報」を公開。2019年からの「発射事案」を時系列でまとめており、11月4日現在、今年は1月5日から11月3日までの広報資料や防衛相の会見の様子などがアーカイブされている。担当記者が言う。

「防衛省といえども全てを把握しているわけではありません。4月17日に発表された広報資料は《昨日(4月16日)、北朝鮮は、何らかのミサイルを発射したと考えられます》と、詳細不明でした。北朝鮮が今年に入って何発の弾道ミサイルを発射したのか正確には分からないということになりますが、防衛省の広報資料を基に数えると43発という数字が導き出されます」

 YAHOO!ニュースは同じく防衛省の発表資料を元に「北朝鮮の弾道ミサイルと発射数」という図表を作成している(註1)。

「この図表を見ると、金正恩(キム・ジョンウン)総書記(38)が政治の実権を握るようになってから最も弾道ミサイルを発射したのは、2019年の25発だったことが分かります。ちなみにこの年は、当時のドナルド・トランプ米大統領(76)と2月にベトナムで、6月に板門店で首脳会談を行っています。いずれにしても43発という数字は尋常なものではないことがよく分かります」(同・記者)


■自信と余裕


 軍事ジャーナリストは、「今年の発射は以前のものとは異なり、北朝鮮の国営メディアが金正恩の反応やメッセージを報道しないことが最大の特徴でしょう」と指摘する。

「北朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは、アメリカと首脳会談を行いたいから――このような分析は、少なくとも昨年までなら妥当な推測でした。しかし、今年の発射数は類例のない多さであるにもかかわらず、政治的なメッセージが伝えられることは滅多にありません。コメントを出すのは、主に軍や外務省です」

 こうした状況から、今年の発射は「純粋な軍事作戦」という可能性があるという。

「北朝鮮がミサイルを発射する理由の一つに、米韓軍事演習に対する抗議が挙げられます。軍事作戦に軍事作戦で対抗しているわけですから、確かに政治リーダーの声明は必要ありません。更に、自分たちの軍事能力を誇示する狙いもあると考えられます。『我々のミサイル発射により、韓国、日本、そしてアメリカは慌てるはずだ』という自信や余裕が感じられると言っても過言ではありません」(同・軍事ジャーナリスト)


■無言の圧力


 ミサイルのバリエーションが豊富という特徴も重要だという。例えば11月3日、日本は文化の日で祝日だったが、早朝に北朝鮮がミサイルを発射したことでJアラートが発出。日本各地で混乱が起きたことは記憶に新しい。

「11月3日には少なくとも3発のミサイルが発射されました。そのうちの1発はICBM(大陸間弾道ミサイル)の『火星17型』の可能性が高いと分析されています。更に、防衛省の公式サイトにある『発射事案』は弾道ミサイル限定なのでアーカイブ化されていませんが、北朝鮮は10月12日、低空を飛ぶ長距離戦略巡航ミサイル2発を試験発射したと発表しているのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 あくまで北朝鮮の“大本営発表”ではあるが、朝鮮中央通信は《ミサイルは黄海の上空を楕円や8の字形の軌道で2時間50分34秒飛行》し、《「2000キロ・メートル先の標的に命中した」と伝えた》という(註2)。

「早朝や夜中の発射もありました。10月6日には首都・平壌(ピョンヤン)の三石(サムソク)地区から発射しましたが、韓国軍は『これまでミサイルの発射に使われたことのない場所』と発表しています(註3)。つまり北朝鮮は『我々は、いつでも、どこからでも、様々な種類のミサイルを発射することができるぞ』と、韓日米の3国に対して無言の圧力を強めているわけです」(同・軍事ジャーナリスト)


■SLBMの脅威


 防衛省が5月7日に発表した広報資料には、とても興味深い記述があるという。専門家が資料を読めば、北朝鮮のミサイル開発が非常に独創的であり、日韓米にとって脅威になり得ることが浮かび上がるというのだ。まずは引用してみよう。

《発射されたのは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定され、最高高度約50km程度で、約600km程度飛翔し、朝鮮半島東側の日本海に落下したものと推定されます》

 ここでSLBMというミサイルの特徴を見てみたい。文字通り潜水艦に搭載されるミサイルなのだが、そのことでどんなメリットが生じるのだろうか。

「ICBMは大型のため、以前は『サイロ』と呼ばれる地下の発射基地に格納されるのが一般的でした。東西冷戦下の軍拡競争では、アメリカもソ連もサイロ建設に励みました。ところが軍事・偵察衛星の能力が飛躍的に高まったことから、ICBMを中心とする核戦略は大きな変更を迫られることになったのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 敵国がミサイルを発射する兆候をできるだけ早い段階でキャッチすれば、防御の方策は飛躍的に増える。そのため核戦略では“レスポンスタイム”が非常に重要視される。


■迎撃可能なICBM


「サイロは地下に隠されているのですが、軍事・偵察衛星の発達で、そのほとんどの位置が明らかになっています。更にICBMは発射態勢に入ると大量の赤外線を放出するため、衛星からのキャッチが容易です。それどころかサイロの蓋が開くところさえ、現在の衛星なら簡単に捕捉してしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)

 おまけにICBMは、宇宙に向かって高高度で上昇し、放物線を描いてターゲットを狙う。このため迎撃の確率は上がる。

「ICBMは発射のキャッチが容易ですから、迎撃システムも素早く稼働させることができます。アメリカと日本はシステムを共有しているので、仮に北朝鮮が日本に向かってICBMを発射したら、瞬時に把握し、情報を共有します。ICBMが放物線の頂点を描くところで、日米いずれかのイージス艦などから迎撃ミサイルが発射され、ICBMを破壊。迎撃ミサイルのテストは何度も行われており、いずれも高い命中率を記録しています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ICBMが相手国に与える脅威は、実のところ、どんどん減少しているというのがリアルな状況なのだ。そのため、近年ではSLBMに期待が集まっているという。


■迎撃困難なSLBM


「ICBMの定義の一つに『有効射程が5600キロ以上』というものがあります。自国から直接、敵国を攻撃するのですから、射程は長く、大型のミサイルです。一方、SLBMは潜水艦に搭載するため、小型化が求められます。その結果、ICBMに比べると射程距離も短くなります」(同・軍事ジャーナリスト)

 敵国に届かないミサイルを配備して何の役に立つのか──普通ならそう考えるが、SLBMを原子力潜水艦に搭載するとなると、全く意味が違ってくるという。

「原子炉は燃料を交換することなく、数十年というスパンで発電が可能です。しかも二酸化炭素は排出せず、豊富な電力で酸素と水を作り出すこともできます。このため原潜は極めて長期間の潜水を実現しました。アメリカ海軍の連続潜行は2カ月にとどめていますが、これは乗組員の負担などを考慮してのことです。実際はもっと長く潜行することができます」(同・軍事ジャーナリスト)

 SLBMを搭載した原潜は出航すると、「母港にいないため、どこかに出撃した」ことだけは分かる。だが、その後を補足することは極めて難しい。

「原潜は隠密に行動できるという長所を最大限に活用し、有事の際は海中から敵国の近くに侵入します。そして海の中からミサイルを発射するのです。こうすることで、敵国は発射されたミサイルの捕捉が非常に困難になってしまいます」(同・軍事ジャーナリスト)


■ダム湖発射の衝撃


 SLBMは高圧ガスの力で海中から空中に打ち上げられる。その後、失速直前にロケットに点火されて飛翔する。軍事・偵察衛星で熱源をキャッチすることは難しい。

「短い射程距離も、迎撃という視点から見れば大きな利点になります。ICBMのように放物線を描く必要はありません。低高度を飛び、あっという間に着弾します。最新鋭の防空システムであっても、迎撃は非常に困難なのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 しかしながら、軍事の専門家でさえ「北朝鮮がSLBMを持っていても、それほどの脅威にはならない」と考えていた。SLBMが威力を発揮するには、原潜への搭載が不可欠だからだ。

 もちろん北朝鮮は原潜を保有していない。そんな国がSLBMを何発持っていようが意味がない──そうした“常識”を北朝鮮はひっくり返してしまったのだという。

「9月25日、北朝鮮はSLBMを発射しました。なんと発射場所は、ダム湖の水中発射場との発表でした。その証拠として、ロシアの短距離弾道ミサイル『イスカンデル』を北朝鮮が改良した『KN-23』が、ダム湖の中から空に向かって飛び出す写真も公開されたのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 ダム湖の中にある水中発射場から打ち上げられるのだから、メリットは原潜と全く変わらない。発射の端緒をキャッチされる可能性は低下し、迎撃されにくくなるという利点は増す。


■ノドンとテポドン


「KN-23の射程距離は最大で600キロから650キロだとされています。今の段階で韓国全土が射程距離に入っていますし、北朝鮮は更に距離を伸ばそうと改良を重ねています。もし700キロ台が現実のものになると、アメリカ海軍の基地がある長崎県佐世保市や、海兵隊の基地がある山口県岩国市が射程距離に入ります」(同・軍事ジャーナリスト)

 ちなみにジュネーブ条約は、戦争であってもダムなど重要な社会的インフラに対する攻撃を禁止している。もちろん無視することは可能だが、国際法の遵守を謳うアメリカや日本にとって厄介な問題であることは事実だ。

「いずれにしても、ダム湖から発射したミサイルで日本本土も攻撃できる可能性が出てきているわけです。これが日米の安保戦略にとって重大な脅威となるのは言うまでもありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 1990年代にはノドン、2000年代にはテポドンが、日本にとって脅威だと連日のように報道されていた。だが、それは少し大げさだったようだ。

「ノドンもテポドンも制御が簡単な液体燃料を使っていました。液体燃料は注入の時点で軍事・偵察衛星がキャッチできます。理論上は先制攻撃で破壊することも可能でした。それから約20年が経ち、北朝鮮は制御が難しい固体燃料による弾道ミサイルを当たり前のように発射しています。開発技術と発射ノウハウの蓄積は、中国軍を超えているかもしれません。気がつけば北朝鮮はアジア有数のミサイル保有国になってしまったのです」(同・軍事ジャーナリスト)


■イランの存在


 2000年代の軍事パレードでは、専門家が「あのミサイルは張りぼてだろう」と分析することも珍しくなかった。だが、最近のパレードは4Kの高画質で撮影され、ミサイルは本物ばかりだという。

「11月3日に発射されたミサイルは墜落した可能性があり、実験に失敗したという報道が目立ちました。しかし最新の分析では、固体燃料が古くなってきたミサイルを“処分”するために発射した可能性が取り沙汰されています。こうなると、北朝鮮は失敗を折り込み済みで発射していることになり、なおかつ、弾道ミサイルの“在庫”も豊富だということになります」(同・軍事ジャーナリスト)

 北朝鮮はイランと密接な連携を模索しており、両国が協力して「核兵器の小型化」に邁進しているという情報もあるという。

「現時点でも北朝鮮は日本にとって脅威ですが、『アジア有数のミサイル保有国』から『アジア有数の核ミサイル保有国』になってしまったら、脅威の桁が全く違ってきます。今はどうしてもウクライナの情勢に目を奪われてしまいますが、北朝鮮に対する警戒も国民レベルで共有する必要があるのは間違いありません」(同・軍事ジャーナリスト)

註1:【図解】北朝鮮の弾道ミサイルと発射数(Yahoo!ニュースオリジナル THE PAGE:7月26日)

註2:北朝鮮が長距離巡航ミサイル2発を試験発射…黄海上空、低空での技術も誇示か(読売新聞オンライン:10月13日)

註3:北韓、2種類のミサイルを初めての場所から発射(KBS WORLD JAPANESE:10月6日)

デイリー新潮編集部

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