金正恩が文在寅を“使い走り以下”の存在と認定 韓国「ペテン外交」の大失敗

■文/鈴置高史


「米朝の間を取り持っている」と自ら誇ってきた文在寅(ムン・ジェイン)政権。その化けの皮がすっかり剥がれた。北朝鮮から「仲介役」どころか「使い走り」以下の存在と認定されたからだ。


■右往左往で「制裁緩和」不発


 4月12日、金正恩委員長は最高人民会議で施政方針を演説した。北朝鮮の対外宣伝サイト「我が民族同士」が報じた「金正恩党委員長が最高人民会議第14期第1回会議で施政演説を行う」(4月13日、日本語版)によると、金正恩氏は文在寅大統領を冷たく突き放した。以下だ。

《南朝鮮当局は、すう勢を見てためらったり、騒がしい行脚を催促しておせっかいな「仲裁者」「促進者」の振る舞いをするのではなく、民族の一員として気を確かに持って自分が言うべきことは堂々と言いながら、民族の利益を擁護する当事者にならなければならない。》

「すう勢を見てためらったり」のくだりは、朝鮮語版の原文を直訳すれば「すう勢を見ながら右往左往し」である。「おせっかい」に関しては「でしゃばり」と、より強く訳したほうが正確と言う韓国人もいる。

 4月11日の米韓首脳会談を前に、文在寅政権は北朝鮮に対する経済制裁の緩和を求める姿勢を打ち出していた。ところがいざ本番の会談で、文在寅大統領はトランプ大統領に抑え込まれ、制裁緩和を言い出せなかった(デイリー新潮「米韓首脳会談で赤っ恥をかかされた韓国、文在寅の要求をトランプはことごとく拒否」[4月12日]参照)。

 文在寅大統領を「使い走り」にして制裁緩和を狙ってきた金正恩(キム・ジョンウン)委員長は、さぞ失望したことだろう。そこで「民族の一員として言うべきことは堂々と言え」と叱り飛ばしたのだ。

「騒がしい行脚を催促しておせっかいな『仲裁者』『促進者』の振る舞い」とは、米朝の間の仲介役を自認する文在寅政権が、今回の米韓首脳会談を受けて南北首脳会談の開催に動いていることを指す。

 北朝鮮にすれば、「使い走り」にも失敗した韓国が、いまだに「仲介役」を自認して南北首脳会談を望むなど片腹痛い。

 そこで「民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」――身の程知らずの「仲介役」ごっこはやめ、北朝鮮側に立て、と言い渡したのだ。

■「2分間大統領」で赤っ恥


 自らに責任があるとはいえ、文在寅大統領は踏んだり蹴ったりだ。4月11日の米韓首脳会談では赤っ恥をかいた。

 首脳同士が同席者を交えず会ったのは2分間だけ。それも両首脳の夫人が同席した。予定されていた会談時間のほとんどを、トランプ大統領が記者団との質疑応答に使ってしまったからだ。

 結局、今回の首脳会談は、トランプ大統領が文在寅大統領に一方的に説教する光景を世界に見せつけるショーとなった。韓国語のネット空間では「2分間大統領」との揶揄が飛び交った。

 帰国した文在寅氏を待っていたのは非難の嵐だった。4月12日、野党第1党の自由韓国党の羅卿?(ナ・ギョンウォン)院内代表は「浮雲のような首脳会談だった。(米国に)なぜ行ったのか分からない。この政権は恥を知らない」と痛烈に批判した。

 東亜日報は社説「説得の対象はトランプではなく金正恩であることを再び思い出させた韓米会談」(4月13日、韓国語版)で「文大統領は今や、北朝鮮と米国の間の『仲裁者』ではなく、トランプ大統領の意思を金正恩に伝えるメッセンジャーの役割に忠実であらねばならぬ境遇に陥った」と嘆いた。

 赤っ恥をかいただけではない。同盟国の首脳を呼びつけてこれほどに貶めるのは、米国が韓国に信をおかず「北朝鮮の言いなりになるなら、同盟を打ち切ってもいいんだぞ」と言い渡したに等しい。

 朝鮮日報が社説「この韓米首脳会談は何だったのか」(4月13日、韓国語版)で「(文在寅政権が米韓の間の)考え方の違いを認めず、適当なショーばかり続けているようでは、最終的には破局が訪れる」と書いたのも、危機感の表れだ。


■米朝双方からビンタ


 4月12日の金正恩演説には「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、われわれは相変わらず立派な関係を維持しており、思いつけば何時でも互いに安否を問う手紙もやり取りすることができる」とのくだりもある。

 中央日報はこれに注目した。「トランプと直取引可能という金正恩、韓国には『おせっかいな仲裁者』」(4月14日、日本語版)で「韓国の仲裁がなくても米国と対話が可能だという話だ」と指摘した。

 この記事が懸念したのは韓国が「仲裁者」の地位を失ったことに留まらない。米朝双方から相手にされていないのに、韓国が「仲裁者」の肩書きにこだわって余計なことをしでかせば、双方からいじめられる可能性である。以下に記事の日本語を整えて引用する。

《文大統領はトランプ大統領との会談で、北朝鮮の非核化と米朝対話の必要性という原則的な水準を超える合意を得ることができなかった。それに続き北朝鮮まで(韓国に)反発する姿勢を見せた。韓国政府の仲裁の役割に困難が予想される。》

《元韓国政府高官は「仲立ちを失敗すれば頬を3度打たれる」ということわざがある。急いで進めればことをしくじりかねない。米朝双方から頬を打たれないためには、水面下での接触や特使派遣などを通じて十分に協議し調整する余裕が必要だ」と語った。》

 自由韓国党は4月12日、「黄教安(ファン・ギョアン)代表の5月訪米を推進する」 と発表した。トランプ大統領とも会談する計画だ。同党報道官は「このままでは米韓同盟が壊れる可能性が高い。第1野党としても声をあげねばならない」と説明した。


■特使の話をさえぎったトランプ


 トランプ大統領からは赤っ恥をかかされ、金正恩委員長からは「使い走り」もろくにできないと嘲笑された文在寅大統領。要は、米朝双方から「お前などなくても困らない」と言い渡されたのだ。なぜこんな国を滅ぼしかねない「外交失策」を犯したのか。

 米朝間の仲介役でもないのに、そう思い込んでしまったのが原因だ。トランプ政権は情報機関同士の接触を通じ、北朝鮮と首脳会談で合意した。

 ただ、韓国を無視して事を進めれば、すねた文在寅政権が何をしでかすか分からない。そこで、北朝鮮に特使を派遣して金正恩委員長の非核化の意思を確認する――という韓国のシナリオに敢えて乗った。

 北から戻った特使団の団長である鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府・国家安保室長が直ちに訪米してトランプ大統領に面会し、金正恩委員長の意思を伝える、という韓国作の政治ショーも米国は容認した。2018年3月のことである。

 単なるショーに過ぎないから、せっかちなトランプ大統領は鄭義溶室長の説明を終わりまで聞かず、途中で話をさえぎって金正恩委員長との会談に応えると宣言した。


■「半島の仕切り役」と信じ込んだ韓国人


 北朝鮮も韓国を「使い走り」にするのに異議はなかった。「米国を騙して非核化はせず、制裁だけやめさせる」という作戦の手先に使えるからだ。

 仮にそれが不発に終わっても、米韓同盟に亀裂を入れることができる。北朝鮮の主張を韓国に代弁させれば、当然、米国は韓国に不信感を持つ。そして、少なくともこれには成功した。

 あくまでペテン劇に過ぎないのだが、自らが米朝の仲介役を果たしている――との虚構を、保守派を含めほとんどの韓国人が信じ込んだ。

「いつも知らないところで自分の運命が決められる」と考える韓国人は、「米朝の間に立って自分が仕切っている」という幻想に飛びついたのである。

 文在寅政権も、国民の支持を得るためのペテン劇を演じるうちに、自らもそれが真実と信じ込んだフシがある。韓国人は外国人に虚構の自画像を語るうちに、それが真実だと思い込んでいくことがよくある。


■日本人にも威張る


 2018年6月の1回目の米朝首脳会談の後、日本人に肩をそびやかす韓国人が増えた。「韓国が朝鮮半島情勢を動かしているのに対し、日本は蚊帳の外だ」「拉致問題を解決したかったら、北朝鮮と深いパイプを持つ韓国に助けを求めよ」というわけである。

 多くの日本人が騙された。情けないことに、日本の一部メディアに加え、国際政治学者や朝鮮半島の専門家までもが「文在寅政権が平和をもたらした」と言い出した。

 専門家の中には「平和勢力の文在寅大統領に対し、米朝会談に否定的な安倍晋三首相は戦争勢力だ」と言い出す人も登場した。

 トランプ大統領が韓国特使の話を途中でさえぎったのを見ても、その後、米国が韓国に対北政策の手の内を明かさないことから考えても、「韓国は仲介役」との見方には疑問符が付く。

 だが、日本社会に根強い反安倍ムードに迎合し、韓国政府の宣伝を鵜呑みにして、日本人の前でそのまま開陳した専門家が多かったのだ。


■安倍政権は「首脳会談拒否」


 しかし「真実の時」が来た。金正恩演説によって、韓国は「仲介役」ではなく、米朝の間を右往左往する使い走りに過ぎないことを、誰もが否定できなくなった。

 日本の動きが象徴的だ。共同通信は4月13日「首相、日韓会談の見送り検討」と題した記事を配信し「安倍晋三首相は6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会合の際、韓国の文在寅大統領との個別の首脳会談を見送る方向で検討に入った」と報じた。

 日本経済新聞は「日韓懸案『首脳間の対話期待』 韓国・趙外務次官」(4月11日)で、趙顕(チョ・ヒョン)第1外務次官がG20での日韓首脳会談の開催に期待を示したと書いていた。この期待を蹴り飛ばした格好となった。

 共同の記事は会談拒否の理由を「文氏に冷え込んだ日韓関係を改善する意思が感じられず、建設的な対話が見込めない」(官邸筋)と説明した。

 それは当然の判断なのだが、もし韓国が北朝鮮に強い影響力を持つと認定するなら、拉致問題の解決を目指す日本政府は日韓首脳会談を自分から放棄しはしなかったであろう。


■どこまでもついてゆく下駄の雪


 苦境に立った文在寅政権は正面突破作戦に出た。4月12日、大統領自らがSNSで「今回の首脳会談自体が米朝対話に向けた動力の維持に大きく役立つと信じる」と発信した。

 政権に近い左派系紙、ハンギョレも社説「南北首脳は早急に会い、虚心坦懐に対話せよ」(4月12日、韓国語版)で次のように主張した。

●今回の会談でハノイでの朝米首脳会談後の不確実性を除去し、対話に向けた動力を維持するのに必要な契機を用意したともいえる。

●今や文大統領には、韓米首脳会談の結果を持って金正恩・北朝鮮国務委員長と会い、朝米の立場の差を調整する仕事が残っている。

 トランプ大統領は金正恩委員長との再会談について「急げば良い取引にはならない」と記者団に語るなど、早期の会談に否定的な見解を示した。しかしハンギョレは「可能性はある」との発言部分を拡大解釈し、文在寅大統領が次の米朝首脳会談に道を拓いたと強弁したのだ。

 さらにこの「成果」を手に、南北首脳会談を開けると大風呂敷を広げて見せた。保守の「2分間大統領」批判への反撃である。

 文在寅政権には他の選択肢がない。今になって北との融和路線に逡巡すれば、保守から「そら見たことか」と総攻撃を受けてしまう。日本の政界用語でいう「踏まれても、蹴られても、ついていきます下駄の雪」に陥ったのだ。

 金正恩委員長から「使い走り以下」と酷評された後も、この政権は姿勢を変えなかった。4月15日、文在寅大統領は首席秘書官・補佐官会議で「今や、南北首脳会談を本格的に準備し、推進する時だ」と述べ、会談開催に意欲を燃やした。

 朝鮮日報は社説「『でしゃばり』との侮蔑には一言も言い返せず、金正恩がせよと言う通りにするのか」(4月16日、韓国語版)で「文大統領はそんな侮辱には一言も言及せず、金正恩の要求通りに『仲裁者』との表現もやめた」と、プライドのかけらもない国家首班への怒りをあらわにした。


■「民族の核」に露骨に動く韓国


 日本として、文在寅発言には見逃せぬ点がある。大統領は南北首脳会談を推進する理由に、金正委員長が施政演説で「朝鮮半島の非核化や平和構築の確固たる意志を表明した」ことをあげた。

 だが、金正恩委員長は演説で「非核化を目指す」とは一度も言っていない。核に関しては「わが核戦力の急速な発展の現実から自分らの本土安全に恐れを感じた米国は(中略)先武装解除、後体制転覆の野望を実現する条件を整えてみようと非常にやっきになっている」と述べているだけだ。

「核を手放せば体制を倒される」と表明したわけで、「何があっても非核化はしない」と宣言したと読むのが普通だ。だが、文在寅大統領は「金正恩委員長は非核化の意思を表明した」と言い張ったのだ。

 ついに韓国は核武装した北朝鮮とスクラム手を組むことを表明した。「民族の核」の確保に人目も構わず走り出したのである(文在寅政権が北朝鮮の核武装を幇助していることについては、拙著『米韓同盟消滅』[新潮新書]第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照のこと)。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班

2019年4月16日 掲載

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