北朝鮮「弾道ミサイル」発射の狙い 次は日本海沖に在庫処分で“スカッド”を乱射!?

北朝鮮が弾道ミサイルの発射を続ける 国連安保理による制裁決議を無効化する狙いか

記事まとめ

  • 北朝鮮が4日以降、弾道ミサイルの発射を続け、国連安全保障理事会の制裁決議に違反
  • 北朝鮮は現状を打開するために、より強硬な態度に出るほうが得策と考えているのだとも
  • 6カ国協議など国連と別の枠組みで協議を再開させ制裁決議を無効化することが狙いとも

北朝鮮「弾道ミサイル」発射の狙い 次は日本海沖に在庫処分で“スカッド”を乱射!?

北朝鮮「弾道ミサイル」発射の狙い 次は日本海沖に在庫処分で“スカッド”を乱射!?

なぜ発射したのか(「わが民族同士」ホームページより)

 北朝鮮が5月4日以降、弾道ミサイルの発射を続けている。弾道ミサイルを発射することは、国連安全保障理事会による制裁決議に違反している。当然、北朝鮮も違反であることを認識しているはずなのだが、なぜ、あえて弾道ミサイルを発射したのか考えてみたい。


■1992年から交渉開始


 まだ北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有しておらず、日本と韓国を攻撃可能な短距離弾道ミサイルと準中距離弾道ミサイルしか保有していなかった時期は、米国にとっての懸案事項は北朝鮮が着々と進めていた核開発だった。

 そこで、北朝鮮の核開発について協議するため、1992年1月22日に実務レベルの米朝会談をニューヨークで開始し、1994年10月21日の非核化や軽水炉の提供などを盛り込んだ「米朝枠組み合意」が調印された。この間、米朝はニューヨークとジュネーブで7回の会談を行ったのだが、合意に達するまでの道は平坦ではなかった。

 1994年3月19日に板門店で開かれた南北会談では、北朝鮮側代表による「ソウルは火の海」発言により緊張が高まった。同年6月13日の国際原子力機関(IAEA)脱退時は、北朝鮮外務省が「国連の制裁は宣戦布告とみなす」という声明を発表し、さらに緊張が高まった。
 
 このように「米朝枠組み合意」調印直前の米朝関係は極度に緊張していた。実際に当時のクリントン政権(1993年1月20日〜2001年1月20日)は北朝鮮への武力行使を検討する会議を開いたが、金日成主席と会談したカーター米元大統領からの「北朝鮮が核凍結に応じた」の第一報により、武力行使は回避された。

 こうした緊張状態から急転直下で「米朝枠組み合意」は調印された。その後も、ワシントン、ニューヨーク、ジュネーブ、ベルリン、北京、平壌で26回にわたり米朝会談が行われ、2000年6月には金大中大統領と金正日総書記との史上初の南北首脳会談が行われた。


■意図的な制裁決議違反


 現在の国連安全保障理事会による制裁決議に基づいた経済制裁は、これ以上のものはないくらい厳しいものとなっている。北朝鮮はこうした現状を打開するために、より強硬な態度に出るほうが得策と考えているのだろう。つまり、弾道ミサイルを発射することにより、国連の経済制裁が北朝鮮に核兵器の完全放棄を決断させるほどの効果を上げていないことをアピールするとともに、国連とは異なる枠組みでの交渉を進めようと考えているのだ。

 かつて6カ国協議という、北朝鮮の核開発について、米国、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本の局長級の担当者が協議を行う枠組みがあった。6カ国協議は2007年3月に北京で開かれたのが最後となっているが、これを再開させようということである。北朝鮮にとっては中国とロシアが後ろ盾となっているうえ、韓国が北朝鮮の味方をするという有利な環境にある。

 実際に、2018年3月26日に訪中した金正恩委員長は、習近平主席に6カ国協議復帰の考えがあることを表明している。さらに2019年4月25日にも訪ロした金正恩委員長はプーチン大統領との会見で6カ国協議などの多国間協議の必要性について触れている。

 国連安保理とは別の枠組みで協議を開始するためには、国連安全保障理事会による制裁決議を事実上無効化する必要がある。弾道ミサイルの発射はそのための手段なのだ。米国本土まで届く大陸間弾道ミサイル「テポドン」の発射は、トランプ大統領を激怒させてしまう可能性があるため、発射するミサイルは米国本土には届かないがグアムには届く中距離弾道ミサイル「ムスダン」にとどめるだろう。


■パターン化された関係


 北朝鮮の核開発が問題となった1992年以降の米国と北朝鮮の関係は、「北朝鮮による懸案事項生成(核実験、弾道ミサイル発射など)」→「米朝直接交渉(2003年8月27日以降は「6カ国協議」)」→「経済支援獲得」→「懸案事項生成」→「米朝直接交渉」……といったように、例外はあるが、ほぼこのパターンで進んできた。
 
 米朝関係が膠着状態に入り、なおかつ経済制裁で苦境に立たされている北朝鮮としては、現状を打破するために多数かつ多様な弾道ミサイルを発射し、6カ国協議の構成国を交渉のテーブルに着かせようとするだろう。

 6カ国協議のメリットとして、米朝二国間だとトランプ大統領の気分次第で何が起きるかわからないという危険を回避することができることが挙げられる。前述したようなパターンに入れば、協議の進捗次第で経済支援も期待できる。

 今後、発射される弾道ミサイルには、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下するものも含まれるだろう。場合によっては日本列島を飛び越えて太平洋に落下するかもしれない。北朝鮮が今後、どの程度の強硬姿勢に出るかどうかは日本の対応に委ねられているといっても過言ではないが、外交ルートでの抗議は何の意味もないため、別の手を考える必要がある。


■偽装工作で脅威を演出


 北朝鮮は弾道ミサイルの発射だけでなく、核関連施設でも動きを見せるだろう。意図的に米軍の偵察衛星や米国の商業衛星に写真を撮影させるのだ。使い古された手法だが、例えば、原子炉の建屋の前にトラックを数台駐車させておけば、米国の研究機関は原子炉で何らかの作業が行われているとメディアに発表する。

 実際には原子炉で何の作業も行っていなくても、いかにも「核開発が進んでいる」ことを偽装することは簡単なのだ。これも使い古された手法だが、冬期にボイラーを焚いて蒸気を外部に出したことが何度かあった。米国の商業衛星の写真は解像度が高いため細かな動きも察知できる。これを逆手に取るわけだ。

 弾道ミサイルについても、発射する気がなくても、既に判明しているミサイル基地に並べておくだけでも効果がある。過去に平壌での軍事パレードに合わせて、新型の弾道ミサイルを軍事パレードに参加する部隊の待機場所に並べたことがある。この弾道ミサイルは軍事パレードには参加しなかった。あえて米国の衛星に写真を撮らせるために目立つ場所に並べたのだ。

 使い古された手法ばかりだが、各国の軍事関係者は北朝鮮に騙され続けてきた。筆者も自衛隊の情報部門で北朝鮮担当者として勤務していた時に、衛星写真に映っているものが本物なのか偽物なのか、そして北朝鮮側の意図は何なのか、思いあぐねたことが何度もある。

 これからしばらくの間、北朝鮮の攻勢は続くだろう。特に、数十年間もの長期間配備されたままの老朽化した短距離弾道ミサイル「スカッド」は、「在庫処分」とばかりに日本海へ何発も撃ってくるだろう。これまでの傾向から、日本の弾道ミサイル防衛(BMD)の能力を試すかのように、一度に4発程度の発射もあり得る。


■対話か無視か


 トランプ大統領が5月9日の北朝鮮の弾道ミサイル発射について記者団に対し、「小さめのミサイルだ。快く思う者は誰もいない」と述べるにとどめたように、北朝鮮の弾道ミサイルに関しては、米国本土まで届くICBMが発射されないかぎり静観する構えのようだ。

 一方、安倍首相は「挑発行為にも屈することなく、圧力を最大限まで高める」と繰り返し述べているが、これ以上、圧力をかける手段がないのが現実だろう。日本は北朝鮮の思惑通りに事が進まないよう、弾道ミサイルを何発発射されても毅然と無視するか、6カ国協議のような多国間協議による対話の模索の二者択一を迫られている。

取材・文/宮田敦司 北朝鮮・中国問題研究家

週刊新潮WEB取材班

2019年5月13日 掲載

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