韓国「ウォン急落」で防衛ライン突破間近 文在寅が払わされる反米・反日のツケ

 韓国ウォンが急落する。米中経済戦争がきっかけだ。それに米国・日本との関係悪化が追い打ちをかける。韓国が通貨危機に陥っても、誰からも助けてもらえないと市場は見切ったのだ。(鈴置高史/韓国観察者)

■貿易赤字に転落か


 5月14日の韓国外為市場でウォンは前日比1・90ウォン安い1ドル=1189・40ウォンで引けた。一時1190ウォン台に乗せるなど、前日(10・50ウォン安の1ドル=1187・50ウォン)の地合いを引き継いだ。2年4カ月ぶりの安値水準で、韓国通貨当局の当面の防衛ラインと見なされる1ドル=1200ウォンに迫った。

 米中の関税引き上げ合戦で中国経済がますます悪化するとの懸念を反映した。韓国は中国向けの輸出比率が25%前後と高いため、中国経済が減速すればもろに打撃を受ける。

 すでに、2018年12月から輸出が前年同月比でマイナスに転じており、貿易黒字も急減した(デイリー新潮「韓国、輸出急減で通貨危機の足音 日米に見放されたらジ・エンド?」参照)。

 5月13日発表の最新の通関統計(5月1〜10日)では、輸出は前年同期比6・4%減の130億ドル。中国向けが同16・2%減だったのが響いた。品目別には輸出の20%を占めてきた半導体が同3・8%も減った。

 半面、輸入は同7・2%増の152億ドル。10日間で22億ドルの貿易赤字を記録した。1月1日から5月10日までの累計では110億ドルの黒字を確保したが、同40・4%の激減ぶりだ。

 韓国は貿易赤字が発生するか、黒字でもその幅が急減した際に通貨危機に直面してきた。1997年、2008年、2011年である(デイリー新潮「韓国、輸出急減で通貨危機の足音 日米に見放されたらジ・エンド?」参照)。

■トルコ・リラに準じる通貨安


 市場は今、その悪夢を思い出している(デイリー新潮「ウォン安が止まらない韓国、日米との関係悪化で“助け舟”も絶望的の自業自得」参照)。

 ウォンの下落ぶりがそれを示す。今年4月以降の下落率は「震源地」中国の人民元が1・7%前後というのにウォンは4%を超える。ウォンより下落率が高いのは通貨危機に陥ったトルコ・リラやアルゼンチン・ペソぐらいだ。

「韓国売り」の背景には少子高齢化がある。経済の活力のバロメーターである生産年齢人口の割合は2017年をピークに減り始めた。人口自体も2019年を境に減少する見込みだ(「文在寅の“ピンボケ政策”で苦しむ韓国経済、米韓関係も破綻で着々と近づく破滅の日」参照)。

 4月25日に発表された、2019年第1四半期のGDPは前期比で0・3%減(速報値)だった。ウォンはこの発表を受け急落した。人口が減れば経済は縮小する。単なる景気の悪化ではなく、経済そのものが縮み始めたと市場は見なしたのだ。

 ウォンはこれを期に、1ドル=1110〜1140ウォン台のボックス相場を1年9カ月ぶりに離脱した(デイリー新潮「文在寅の“ピンボケ政策”で苦しむ韓国経済、米韓関係も破綻で着々と近づく破滅の日」参照)。


■北の核武装を幇助する文在寅


 市場は日増しに険悪となる米韓、日韓関係も見逃さない。1997年の韓国は米国との関係が悪化した結果、通貨危機に陥っても助けてもらえなかった。

 米国は日本に対してもドルを貸さないよう指示。韓国はIMF(国際通貨基金)に救済されるという赤っ恥をかいた(拙著『米韓同盟消滅』(新潮新書)第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 現在の米韓関係は当時よりもはるかに悪い。北朝鮮の核武装を韓国が露骨に幇助しているからだ(デイリー新潮「米国にケンカ売る文在寅、北朝鮮とは運命共同体で韓国が突き進む“地獄の一丁目”」参照)。

 5月4日と9日の2回に渡り、北朝鮮が国連制裁決議違反の弾道ミサイルを発射した。というのに、文在寅(ムン・ジェイン)政権は「人道支援」の名目で北への食糧援助に動く(デイリー新潮「文在寅は金正恩の使い走り、北朝鮮のミサイル発射で韓国が食糧支援という猿芝居」参照)。

 これでは米国が日本と組んで1997年の時のように韓国にお灸を据えても不思議ではない。少なくとも市場はそう考える。

 もちろん日韓関係も最悪で、韓国に通貨スワップを与えて助けようと言い出す政治家はまずいないだろう。慰安婦合意の事実上の廃棄、国際条約を踏みにじった、いわゆる「徴用工」訴訟判決、自衛隊機への射撃管制レーダー照射など、相次ぐ「卑日」に日本中が怒っている。

 韓国は対外債務のほとんどを米ドルで借りている。図表「韓国の通貨スワップ」を見れば分かる通り、韓国は米ドルで借りられる2国間スワップ協定を持たない。

 米ドルでスワップに応じてくれるのは米国と日本ぐらい。その米・日とケンカした韓国はいざという時の援軍を自ら放擲(ほうてき)したのだ。


■「日本の報復」に期待する保守


 韓国の通貨危機は国内の権力闘争の武器にもなる。韓国の保守派から「いつ、韓国に対し報復措置をとるのか」と聞かれる日本人が相次ぐ。それも「不安そうに」ではない。「期待感を込めて」である。

 日本の報復により韓国経済が混乱に陥れば、それをテコに左派政権を糾弾できる、との計算である。前の朴槿恵(パク・クネ)政権の大統領から大幹部に至るまで牢獄に送られた保守にとって「通貨危機」は最高の反撃材料となる。

 ちなみに、1997年の通貨危機により「保守の失政」への怒りが高まった結果、同年末の大統領選挙では史上初の左派政権、金大中(キム・デジュン)大統領が誕生した。

 では、文在寅政権は通貨危機を本気で阻止するのだろうか。ドルを借りるには米国や日本に頭を下げる必要がある。当然、米国は融和的な対北朝鮮政策の修正を求めるであろう。その際、文在寅大統領が自国経済のために盟友、金正恩(キム・ジョンウン)委員長を裏切るかは疑問だ。

 成長率がマイナスに落ち込むなど、あらゆる経済指標が悪化しているというのに5月9日、就任2周年の会見で大統領は「G20(20カ国・地域)やOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、韓国はかなりの高成長をした」と臆面もなく語っているのだ。


■敗戦革命論も登場


 韓国の一部には「文在寅大統領は経済危機をチャンスと見て、敢えて放置するのではないか」との見方もある。戦争に負けたのを期に体制を変革する、という一種の「敗戦革命論」だ。

 通貨危機に陥った際、「これは米帝国主義の陰謀である。今こそ米国から独立し、同胞の北朝鮮と手を組もう。資本主義の元凶たる財閥も解体しよう」と国民に呼びかける絶好の機会となる、というのだ。

 確かに、文在寅大統領自身が「米帝国主義が諸悪の根源である」との考え方の持ち主だ。政権の中枢部も同じ考えの反米左派で固めている(拙著『米韓同盟消滅』(新潮新書)第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 人口減少が始まり経済の規模が縮むとなれば、持てる者たる財閥から搾り取って持たざる者に与えるのが早道だ。支持層からさえも不満が高まる経済政策で人気を挽回するには、強者をやっつける「革命」しかないと、政権中枢部は考えるであろう。


■通貨危機で「ベネズエラ化」に油


 いくらなんでもそこまではやらないだろう――と考える日本人が多いに違いない。だが、韓国の党争の激しさは日本人の想像を絶する。相手を倒すためなら何でもするのが韓国人だ。

 ちゃんと伏線も張られている。2018年11月28日に封切られた「国家不渡りの日」という題名の映画だ。初めの1週間で157万人が見たほどにヒットした。

 ひとことで言えば「米国のために通貨危機に陥り、財閥一人勝ちの時代が始まって庶民が今、苦しんでいる」と訴える映画だ。韓国では映画が世論を誘導する。政治勢力は国民の感情を揺さぶる映画を作って政敵を倒そうとする。

 もちろん親米保守は、この映画に対し反発。保守系紙の朝鮮日報は「内容のいい加減さ」を訴える記事を掲載した。最後の局面では米国は韓国にドルを貸してやらなかったが、そもそもの原因となった外貨管理に失敗したのは韓国自身なのである。

 韓国の「通貨危機」がどこまで発展するかはまだ分からない。だが、それが親米保守と親北左派の激突を誘うのは確実だ。それでなくとも、両派の最終戦争が始まろうとしていたのだから(デイリー新潮「文在寅で進む韓国の『ベネズエラ化』、反米派と親米派の対立で遂に始まる“最終戦争”」参照)。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班

2019年5月14日 掲載

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