文在寅に「独裁者」質問の記者が大炎上 酷過ぎる個人攻撃で浮かび上がる韓国社会の闇

文在寅に「独裁者」質問の記者が大炎上 酷過ぎる個人攻撃で浮かび上がる韓国社会の闇

文在寅大統領

■「炎上」を招いた大統領との80分の対談


 大統領とテレビ記者が、テレビの生放送番組で80分間にわたり対談――。この意欲的な企画にチャレンジしたのが、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。対談形式での放送は大統領官邸側の意向とされ、質問内容の事前チェックやNG項目の指示などもナシ。大統領自ら、文字通りぶっつけ本番の対談に臨んだわけだ。

 だがその放送直後から沸き起こったのは、熱烈な文在寅支持者らによる猛烈なバッシングだった。ターゲットは、対談相手を務めた女性記者のソン・ヒョンジョンだ。ネットでの「炎上」は家族にまで及んだ上、本人を中傷するフェイクニュースまで拡散される事態に。東亜日報系のニュース専門放送「チャンネルA」は、「一部支持者の非難が暴走している状況」と伝えた。その支持者たちの主な言い分は、「野党の文政権批判キャンペーンを代弁している」「大統領に対して態度が失礼」などだ。

 問題になった番組は、「文在寅政府2年・特集対談『大統領に聞く』」。韓国の公営放送KBSで、政権発足(2017年5月10日)から2年目を迎える5月9日の午後8時30分から約90分にわたって放送された。視聴率は9・55%と、まずまずの数字を残している。

 KBSが対談相手に選んだソン・ヒョンジョンは、入社23年の政治記者。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代(2003〜2008年)に大統領官邸に出入りし、大統領秘書室民情首席秘書官だった文在寅と親交を得たという。

 だが対談は、終始険しい表情のソン記者が政権の問題に次々とストレートな質問をぶつける形で展開。ソン記者はその冒頭、不安定化する南北問題に20分近くを割いた。これはちょうど番組開始の4時間前に、北朝鮮がミサイルを発射したことを受けた形だ。南北の関係改善をアピールする文政権にとっては非常に頭の痛いハプニングであり、野党には格好の攻撃材料でもある。ミサイル発射について自由韓国党のある議員は同日、SNSで「文政権2周年を祝う打ち上げ花火」と揶揄していた。自由韓国党は、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の与党・セヌリ党が改称した保守系の最大野党だ。


■支持者を怒らせた記者の発言と態度


 とりわけ支持者を刺激したのが、ソン記者の「独裁者」発言だ。ようやく対談の話題が内政問題に移ってから間もなく、ソン記者は自由韓国党の主張を紹介する流れで次のように質問した。「野党の意見を反映せずに国会を運営しているため、文大統領が独裁者と呼ばれている」「独裁者という言葉を聞いてどう感じたか」。文大統領は即座に自由韓国党の一貫しない態度を指摘して切り返したものの、「(そうした印象操作を批判に利用することについて)全く……何と申し上げればよいか分かりません」と当惑の表情を隠さなかった。

 文政権を「左派の独裁」と呼ぶのは、かねてから自由韓国党が繰り広げている与党批判のスローガンの1つ。熱烈な文大統領支持者にとっては、ソン記者がそれを代弁して印象操作に加担するかのように見えたのだろう。

 対談ではまた、政権の人事や渦中の雇用問題などについても厳しい質問が飛んだ。だがそれと同時に支持者らを不快にさせたのが、ソン記者の態度だ。ソン記者はしばしば文大統領が話している途中で言葉を遮り、発言に割り込んだ。ネットユーザが数えたところによると、そうした「割り込み」は28回に及んだという。また常に眉をしかめて難詰するかのようなソン記者の表情も、多くの視聴者の不評を招いた。


■過熱したネットの個人攻撃


「ソン記者の質問はほとんどが自由韓国党の立場で構成されていた」――。こうした批判もある一方で、ソン記者を支持する声も多い。当の文大統領も官邸幹部の話として、「不快に感じてはいない」「もっと攻撃的な応酬になっても問題なかった」といった反応を伝えている。「枝葉の質問が多くインタビューとしてつまらなかった」という指摘もあるものの、少なくとも政権に批判的な声を伝えただけで攻撃を受けるいわれはないだろう。

 だが放送終了の直後から、大統領官邸ウェブサイトの請願受付ページには「KBSは番組を見た国民に謝罪しろ」「KBSの受信料制度を廃止しろ」などの投稿が次々に登場。KBSウェブサイトでも、「ソン記者の公式謝罪を要求します」という請願が寄せられた。またフェイスブックでソン記者を擁護した2人のKBSアナウンサーは、集中砲火を浴びて謝罪に追い込まれている。それぞれ「緊張感があってよかったが、支持層の反応がひどい」「支持層が悪口を言うのは、内容がよかったということでしょう」などと書き込んだのがその理由だ。

 こうした「炎上」の常として、ソン記者の家族を巡る攻撃も過熱している。父親の素性や夫の勤務先などもネットで掘り返され、未確認情報とともに拡散された。またソン記者と従姉関係にあることが判明した男性アイドルグループINFINITEのメンバーSにも、「暴走」が飛び火。現在兵役中のSは昨年5月からインスタグラムを更新していないが、そのコメント欄にまで「いとこに真っ直ぐ生きろと言え」「いとこのせいでINFINITEが嫌いになった」「恥ずかしい」などの書き込みが殺到した。

 ソン記者を中傷する「フェイクニュース」も広まっている。大統領だった頃の朴槿恵が話している傍らで、熱心にメモを取る女性記者の映像がそれだ。「ソン記者は文大統領に突っかかったのに、朴槿恵の言葉は忠実に書き写している」という文脈で流布されたが、写真の人物は別人だと判明した。そのほかユーチューブには、対談番組そのものが「録画・編集されたヤラセ」という陰謀論まで登場している。

 KBSのソン記者が朴槿恵時代の与党=自由韓国党を代弁して文大統領を攻撃した――。こうした疑いが「炎上」を加速させた背景には、マスコミに対する根強い不信感もある。李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵と2代続いた保守政権下で、KBSをはじめとする主要メディアは、政権への「忖度」報道を繰り返した。とりわけ朴槿恵時代の国政介入事件やセウォル号沈没事故を巡る政権への同調は、まだ記憶に生々しい。そうした前歴があるだけに、KBSの対談から文大統領への敵意を嗅ぎつけた支持者が多かったわけだ。

 大統領とのオープンで率直な対話になるはずが、「炎上」ばかりが取り沙汰される結果になった特集対談。韓国社会が抱える根深い対立の構図が、騒動の背景に見え隠れしている。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年5月27日 掲載

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