米国が北朝鮮を先制攻撃するなら核を使うか? その時、韓国は? 読者の疑問に答える

 再び緊張が高まる朝鮮半島。前回記事「在韓米軍撤収、先制攻撃はいつ? 読者の質問に答える」に続き、韓国観察者の鈴置高史氏が「米国は先制攻撃の際、核は使うのか」といった読者の疑問に答える。

■北が何か撃てば先制攻撃してよい


――米国の先制攻撃の可能性あり、とのことですが、それは許されるのですか?

鈴置: 許されることになっています。国際社会では、敵からの差し迫った脅威を除去するための「先制」(preemption)攻撃と、敵の潜在的な脅威を除去するための「予防」(prevention)攻撃を区別しています。

 前者は認められやすい。個人に例えれば正当防衛です。弾を込めたピストルを向けてくる悪漢を攻撃する権利は誰にもあるからです。一方、後者は過剰防衛と見なされかねません。ピストルを自分に向けていない悪漢を攻撃することに相当するわけです。

 北朝鮮との緊張が高まった2016年、米国では先制攻撃が熱心に検討されました。9月16日、米外交問題評議会(CFR)が主催した討論会でマレン(Michael Mullen)元・米統合参謀本部議長は以下のように語りました。

 「Report Launch of CFR-Sponsored Independent Task Force on U.S. Policy Toward North Korea」(2016年9月16日)から引用します。

・北朝鮮が米国を攻撃する能力をほぼ保持し、それが米国を脅かすものなら、自衛的な次元で北朝鮮を先制打撃し得る。理論的にはミサイルが発射された瞬間に発射台を除去することができる。

 要は、北朝鮮が「弾道ミサイルのようなもの」を撃った瞬間に攻撃してもいいのだ、ということです。それがどこに飛ぶかも、核弾頭が積んであるかも瞬間的には判断できないからです。


■韓国に知らせる必要なし


――結局、米国はいつでも……。

鈴置:ええ、拡大解釈すれば、米国は任意の時に北朝鮮を先制攻撃できるわけです。「弾道ミサイルのようなもの」が発射されたかどうかの解釈権は事実上、米国が握っているからです。

 ことに今、制裁緩和を求めて北朝鮮が挑発に出始めた(「在韓米軍撤収、先制攻撃はいつ? 読者の質問に答える」参照)。米国にとって先制攻撃の名分には事欠きません。

 2016〜2017年当時、「先制攻撃が米国自衛の目的である以上、在韓米軍の戦略資産を使おうと韓国に知らせる必要はない」との意見も広く語られました。

 米韓連合司令部のトップが韓国人になろうとなるまいと、先制攻撃を韓国軍に知らせる義務はないことになります。

 「在韓国連軍の司令官は依然、米国人だから韓国を含む関係国と事前に協議する義務があるのではないか」と聞いてくる人もいますが、あまり意味のない議論です。米国は国連軍として先制攻撃するわけではないからです。

 ただ現実問題として、在韓米軍基地は先制攻撃には使いにくい。ここから攻撃機を出撃させた場合、直ちに韓国軍が察知します。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「攻撃を知ったら北朝鮮に知らせる」と公言しています(「米韓同盟消滅」第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 韓国が「敵側」に寝返った以上は、北朝鮮ににらみを利かせるには、日本の基地と米・日の海軍力が重要になるのです。


■「核攻撃も辞さない」と宣言


――北朝鮮は核で反撃しませんか?

鈴置:それを念頭に米政府は「先制攻撃には核兵器の使用も辞さない」と公言しています。第一撃で北朝鮮の核ミサイル基地を完全に破壊するには、広範囲を叩ける核兵器が有効だからです。

――「先制攻撃に核も使う」というのですか!

鈴置: その通りです。国務省のアダムス(Katina Adams)報道官(東アジア太平洋担当)が2017年12月5日、米政府が運営する放送局、VOAの質問に答え、以下のように語りました。

? トランプ(Donald Trump)大統領が優先順位の最上位に置くのは米国の本土と準州、そして同盟国を北朝鮮の攻撃から守ることだ。
? 米国は通常兵器と核兵器のありとあらゆる能力を動員し、同盟国である韓国と日本を防衛するとの約束を完全に履行する。

 「国務省、北朝鮮の脅威に『核兵器を含む全ての能力を総動員…対話の時ではない』」(2017年12月6日、韓国語版・一部は英語)で読めます。

 この記事は日本や米国ではさほど注目されませんでした。でも、北朝鮮が米朝首脳会談(2018年6月)に応じた理由の1つであるのは間違いないと思います。米国から先制核攻撃されたら、金正恩委員長も生き残るのは難しいからです。

 2019年5月23日には国防総省のファンタ(Peter Fanta)副次官補が「(北朝鮮の核に対する域内の抑止手段として)核弾頭を搭載可能な海上発射型の巡航ミサイルの配備を積極的に検討中である」と語りました。

 北朝鮮に対し「いつでも核を撃ちこめる体制をとるからな」と威嚇したわけです。VOAの質問に答えたもので、「米国防総省副次官補『海上巡航ミサイル、朝鮮半島の戦術核の対案として論議中…核搭載も可能で移動も容易』」(5月24月6日、韓国語版・一部は英語)が伝えました。


■陰謀を逆手に取った米国


 なお、米国から先制攻撃された北朝鮮が、軍事境界線沿いに配備したロケット砲で反撃し、韓国に被害を与えることは可能です。米軍の第一撃は主にレーダーとミサイル基地が対象ですから。

 しかし米国は「在韓米軍撤収」――ロケット砲の射程圏内から米軍を下げることにより、自分たちへの被害は懸念せずに先制攻撃を実行できるようになるわけです。

 まだ在韓米軍は撤収していませんが、「いつでも撤収できる体制」になるだけでも朝鮮を脅すカードにできます。米国は経済制裁に加えて、2枚のカードで非核化を迫れるようになったのです。

 考えてみれば皮肉な話です。文在寅大統領の盟友で、親北反米の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が「米軍追い出し」を図った。作戦統制権の返還も、ソウルからの米軍撤収も盧武鉉時代(2003〜2008年)に決まったことです。

 統制権返還はその後の保守政権で棚上げされましたが、文在寅政権で復活。ソウルからの米軍撤収と、米軍基地集約のために作った平沢のキャンプ・ハンフリー(Camp Humphreys)も、文在寅政権になって機能を発揮し始めた。

 しかし、そのいずれもが「米軍撤収→先制攻撃」という北朝鮮を脅す米国の武器になったのです。北朝鮮や親北政権よりも、その陰謀を逆手に取った米国の方が一枚上手、ということです。


■他人の憤りに無神経な韓国人


――韓国は大騒ぎでしょうね。

鈴置:それが、不思議なほどに平静なのです。保守系紙の朝鮮日報が「韓米連合司令部が平沢に、米軍の仕掛け線は南下」(6月4日、韓国語版)で「有事の際、米国は陸上部隊を含む本気の支援をしてくれないだろう」とは書きました。

 東亜日報も社説「韓米連合司令部が平沢米軍基地に移転、有事の防衛体制に支障はないのか」(6月4日、日本語版)で「北朝鮮から攻撃を受けた際の米韓協力体制」を懸念しました。

 でも、両紙とも「攻撃を受けた際」の心配です。在韓米軍の撤収やその後の米国による対北先制攻撃の可能性に言及する記事は、私が見た限りですが皆無でした。

 米国に見捨てられることはないと信じたい。心のどこかではそれを恐れているけれど、口には出したくない――そんな心境なのでしょう。

 その証拠に「米韓同盟の黄昏」を指摘した駐韓米国大使の発言や米議会調査局のレポートを報じたのは、ほんの一部の保守系メディアだけ。

 「在韓米軍撤収を巡る動き」を見れば「黄昏」は明らかなのですが。その結果、裏切り者に対する米国人の怒りに韓国人は気付かないのです。

 日本人の韓国に対する憤りに気付かなかったのと同じです。韓国のメディアは不都合な真実は無視してしまう。

 「韓国に対する反感」に触れる記事もありますが「ネトウヨなどほんの一部の日本人の問題」と書く。熱心に紹介するのは「日本は反省が足りない」が持論の朝日新聞の記事や、鳩山由紀夫・元首相、河野洋平・元衆議院議長の発言ばかり。


■別居したが黙っている


――日本で「在韓米軍撤収」が報じられないのはなぜでしょうか。

鈴置:日本の韓国報道は基本的に韓国メディアの「写し」だからです。韓国の新聞が書かないと日本の新聞も書かない。朴槿恵(パク・クネ)政権が「離米従中」に動いた時もそうでした。

 事実を見れば、韓国が中国の言いなりの国になったのは明白だったのですが、日本のメディアは長い間、報じなかったのです(「米韓同盟消滅」第4章第3節「専門家だから『本当のこと』は言わない」参照)。

 もう1つ理由を挙げれば、「在韓米軍撤収への号砲」は米韓両国政府ともに、表に出したくはない真実だからです。

 前回の「在韓米軍撤収、先制攻撃はいつ? 読者の質問に答える」でも指摘したように、韓国では親米保守派が怒り出しますから文在寅政権はそっとしておきたい。トランプ政権も米軍撤収や同盟廃棄を外交カードとして活用したいので今、大声でこと挙げされたくない。

 離婚を念頭に別居した夫婦が、周囲には言いそびれているのと何やら似ています。隣家の人も離婚寸前とはなかなか気が付かない。

 さすがに安倍晋三首相は分かっていて「日米韓の防衛協力」とか「未来志向」とは言わなくなりました。でも、「韓国との防衛協力をしっかりやっていく」「韓国と未来志向の関係を作る」と言い続ける勘の鈍い大臣がまだ、いたりするわけです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月12日 掲載

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