日本に「怪しい国」認定された韓国 文在寅は「受けて立つ」というが、保守派は猛反発

 核関連物資の横流し疑惑を日本に指摘された韓国。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「受けて立つ」と宣言した。一方、韓国の保守からは「北朝鮮に連座し我々も制裁を受ける」と悲鳴が上がった。韓国観察者の鈴置高史氏が対話形式で展開を読む。


■北朝鮮に横流し


鈴置: 7月8日、文在寅大統領が「韓国企業の被害が実際に発生した場合、政府は必要な対応措置をとる」と宣言しました。7月1日に日本が韓国に対する輸出規制の強化を発表して以来、初めて見せた反応です。

 日本がIT製品の素材の輸出を止めたり減らせば、サムスン電子やSKハイニックスといった韓国の半導体メーカーなどの生産が中断する、と韓国では危機感が高まっています(「日本の輸出規制、韓国では『単なる報復ではなく、韓国潰し』と戦々恐々」参照)。

 文在寅大統領は「そうなったら承知しないぞ」と日本に肩をそびやかしたのです。ただ、同時に「外交的解決のために努力する」とも語りました。日本とガチンコ勝負すれば負けると考えているのでしょう。

――日本が「韓国は北朝鮮とスクラムを組む怪しい国」と指摘したからですね。

鈴置: その通りです。自民党の政治家は「なぜ、韓国への輸出規制を強化するのか」――はっきり言えば「韓国がどう、怪しいのか」を、相次いで説明しています。

 まず、7月4日に萩生田光一・幹事長代行がBSフジLIVE・プライムニュースで、日本政府が韓国向け輸出の管理を厳しくした物質に関し「(過去輸出した分の)行き先が分からないような事案が見つかっているわけだから、こうしたことに対して措置をとるのは当然だと思う」と語りました。

 翌7月5日のフジテレビ「Live News it!」の「軍事転用可能な物品が韓国から“北朝鮮”に!? 韓国への輸出管理強化の背景とは」は「行き先は北朝鮮だ」と断じた与党幹部の話を伝えました。

・ある時期、今回のフッ素関連の物品に大量発注が急遽入って、その後、韓国側の企業で行方が分からなくなった。今回のフッ素関連のものは毒ガスとか化学兵器の生産に使えるもの。行き先は“北”だ。


■韓国は問い合わせを無視


――匿名ながら「韓国は北朝鮮の共犯者だ」と断定したわけですね。

鈴置: 同じ7月5日の夜、BSフジLIVE・プライムニュースで、小野寺五典・前防衛相がさらに踏み込みました。行方不明となったウラン濃縮に使える物質に関し、韓国政府に問い合わせたが返事がない、と明かしたのです。以下です。

・例えば、日本は今までウラン濃縮にも使える素材について、韓国企業から『100欲しい』と言われたら100渡していた。ところがよく見てみると、実際に工業製品に使うのは70ぐらいのはず。残り30はどうなのだろう。『全部ちゃんと使っていますよね』と韓国政府に確認しても最近は報告が来ない。信頼して出してきたのだが、協議に応じてくれない。

 だから、半導体の製造に使うけれど、ウラン濃縮にも使ううえ、VXガスやサリンなどの毒ガスの原料となるエッチングガス(フッ化水素)の対韓輸出の管理を強化したのであり、これは報復ではなく国際的な義務なのだ、と小野寺・前防衛相は強調しました。

 同時に管理を強化した、半導体の製造プロセスで利用するレジスト(感光材)と、有機EL製造に使うフッ化ポリイミドは、それぞれレーダーと戦闘機の素材にもなる、とも解説したのです。

■「真綿で首」の韓国


――「横流し」との主張に対し、韓国政府はどう反応しましたか。

鈴置: 当初は「WTO(世界貿易機関)違反だ」と非難していました。しかし、こうした日本政府の指摘が始まるにつれ、困惑の色が広がっています。下手に騒げば、「韓国は北朝鮮の核武装を幇助した」という明白な証拠を日本から突きつけられてしまうからです。

 日本政府も切り札に使うつもりのようで今のところ「具体的な証拠」については手の内を明かしていません。韓国政府にすれば情報を小出しにされ、真綿で首を絞められている感じでしょう。

 7月7日朝のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」に出演した安倍晋三首相も「(韓国側に)不適切な事案があった」と管理強化の背景を説明しました。

 しかし、「大量破壊兵器の製造に転用される物質が北朝鮮に流れたのか」との質問には「この場で個別のことについて申し上げるのは差し控えたい」と説明を避けました。

 すると、保守系紙で文在寅(ムン・ジェイン)政権に批判的な朝鮮日報が、直ちにこの発言を報じました。

「安倍『韓国は国家間の約束を破るのに、貿易ルールを守るのか』…北への制裁に結び付けた」(7月7日、韓国語版)です。日本の首相までが「北朝鮮と怪しげな関係を結ぶ韓国」に言及したぞ、と警告したのです。

 掲載24時間後の読者コメントは129件。「安倍の発言など載せるな」といった反発が16件。残りの113件はこの記事に賛成したうえで「文在寅は反論できないだろう」「韓国政府は嘘の達人」「我々、韓国人も文在寅を信じない」などと政権を批判しました。

「このまま行けば米国からセカンダリー・サンクションを受ける」とのコメントもありました。国連制裁を受けている北朝鮮に大量破壊兵器の関連物資を横流しすれば、韓国も制裁を受ける――との悲痛な叫びです。


■「横流し」を報じない左派系紙


――文在寅政権が「横流し」を認める……わけはないですよね。

鈴置: 認めたら、北朝鮮に連座して制裁対象になってしまいます。あくまでシラを切り通すでしょう。

 政権に近い、ハンギョレの社説「日本の『報復』に真正面から対応を…短期的な処方に留まるな」(7月7日、韓国語版)が興味深いのです。

 7月7日の安倍首相のフジテレビでの発言を報じましたが、「不適切な事案」の部分は一切、触れなかったのです。「横流し疑惑」に関し、ハンギョレは韓国人に知られたくないのでしょう。

 翌8日の朝鮮日報の社説「『韓国が北朝鮮に毒ガス原料を渡した』と言う日本、根拠を出せ」(韓国語版)とは対象的でした。

 見出しだけ見ると、朝鮮日報は「証拠もないのにいい加減なことを言うな」と日本を批判しているかに読めます。でも、本文を読むと、文在寅政権に対する疑惑の表明に満ちています。

・安倍は「個別事案に対しては話さない」と語ったが、彼の側近たちは露骨に「北朝鮮関連説」を流している。自民党の幹事長代行は「(韓国に輸出した化学物質の)行き先が分からない事案が発生した」と述べた。
・日本のあるテレビ局は、自民党幹部が「核兵器の生産に使えるエッチングガスが韓国に大量に輸出された後、行方不明となったが、行き先は北朝鮮だ」と主張したと報じた。

 とまず、日本で語られる韓国疑惑をしっかりと紹介しました。そのうえで日本に、具体的証拠を明かすよう求めました。

・日本の主張通り、韓国に輸出された戦略物資が北朝鮮に不法流出したとすれば、ただならぬ問題だ。日本以上に我々が脅かされる問題である。
・日本が根拠もなく「北関連説」を広めるのは我々が助けた側面がある。昨年、(韓国電力の関連会社が)北朝鮮産の石炭をロシア産と偽り不法に持ち込んだ。米財務省は北の瀬取り注意報を発令しつつ「疑惑の船リスト」に韓国の1隻を入れた。

 北朝鮮の言いなりの文在寅政権は制裁破りを見逃してきた。日本から横流しを疑われても仕方がない、と書いたわけです。


■話をすり替える韓国


――では、文在寅政権はどう出ますか?

鈴置: 「日本企業に賠償金を支払うよう命じた徴用工判決を誤魔化すための人権無視の暴挙だ」とか「自由貿易体制を破壊する報復措置だ」と世界に訴え、話をすり替えるつもりでしょう。

 7月8日、文在寅大統領は「民間企業の間の取引を政治目的のため制限する動きは韓国だけではなく、全世界が懸念している」と語っています。

 聯合ニュースの「文大統領『韓国企業に被害出れば対応』=対韓輸出規制強化の撤回求める」(7月8日、日本語版)で読めます。

 世界のDRAMの70%以上を作っている韓国企業2社に対し、日本が素材の供給を止めれば大問題を起こすぞ、世界を味方に付け日本を孤立させるぞ、という主張です。ただ、これは的外れの見方です。

 日本でも多くの人が勘違いしていますが、日本政府はレジストなどの3品目を禁輸するわけではありません。輸出許可を厳格化するだけです。

 経産省は世界の需給状況を見ながら、韓国への素材の供給を調節できるようになったのです。世界のDRAMの需要家から文句が出ないよう、韓国の半導体メーカー2社の生産量をコントロールしつつ、他のメーカーへの注文が増えるよう、誘導すると思われます。

――では、韓国はどうやって話をすり替えるのでしょうか。

鈴置: 日本の左派系紙がそろって社説で日本政府に措置の撤回を求めました。朝日新聞の「対韓輸出規制 『報復』を即時撤回せよ」(7月3日)、毎日新聞の「韓国への輸出規制、通商国家の利益を損ねる」(7月4日)です。韓国政府は、日本の友軍を大いに頼みにすることでしょう。

 もっとも、韓国メディアが主張する「対日報復措置」に韓国政府が出るとは考えにくい。そんなことをすれば「横流しの証拠」あるいは、そこまでいかなくとも「行方不明の核の製造素材に関し、韓国政府が返答を避ける具体的な事実」を日本に発表されかねません。


■ブーメランの日本旅行ボイコット


――民間が日本製品不買運動も始めたようです。

鈴置: 左派系紙、ハンギョレが「手数料払ってまで日本旅行を取り消し…“日本不買運動”拡散」(7月5日、日本語版)で煽っています。

 でも、過去の不買運動はさほど威力を発揮しませんでした。韓国人はけっこう現金で、総論としては賛成でも自分は「品質の劣った」と見なす韓国製を買いはしないのです。

 早くも悲惨な結果に終わりそうなのが「日本旅行取り消し運動」です。朝鮮日報は「日本政府、韓国人ビザ要件を強化するか…旅行業界に感触」(7月7日、韓国語版)で、日本政府が韓国人の入国ビザ発給を厳しくしたら韓国の観光業界が困る、と懸念を表明しました。

 よく考えれば、日本は外国人観光客が増え過ぎた結果、宿泊施設が不足するなど問題が起きている。韓国人観光客が減ると困るどころか、この際、報復ついでに韓国人の入国を制限しようか、と考えかねない――。

 韓国人はそんな恐れを持ったのです。日本を脅そうと「日本旅行ボイコット」を言いだしたものの「来なくてもいいよ」と言われたらどうしよう、と悩み始めたわけです。日本政府にはビザ発給の厳格化の動きはまだ、見当たりませんが、


■1人相撲でこける


――1人相撲ですね。

鈴置: その通りです。韓国では「自動車や化学など、半導体以外の産業も報復の被害を受ける」と騒ぎになっています。

 東亜日報は「政府、日本の追加規制に備え車と化学もチェック」(7月6日、日本語版)で韓国政府が身構えている様を報じています。

 他人の国のことながら、如何なものかと首を傾げます。あれだけ日本から「対抗措置」のサインが出ていたのに「あり得ない」と無視していた。いざ、それが現実のものとなったら今度は国をあげての大騒ぎ。

 ことに、金融の世界では大騒ぎすること自体が問題を引き起こします。「日本が貸し剥がすのではないか」と韓国人が大騒ぎするほどに、世界の金融機関が不安になって韓国から貸し剥がすからです。

 1997年も2008年も、韓国の政府とメディアは不正確な情報を流し墓穴を掘りました。今回もだんだん、似たパターンになってきました。

 金融市場の安定を目的に設置された金融委員会の崔鍾球(チェ・ジョング)委員長が7月5日、記者団と懇談しました。そこで次のように語りました。

・日本が金融部門で報復措置を取るすべての可能性を点検した。最悪の状況は新規貸付と満期延長を中断することだが、そうなったとしても対処に大きな困難はないとみている。
・2008年の金融危機当時とは違い韓国経済は安定している。日本が資金を貸さなくてもいくらでも違うところから借りられる。


■「寝た子」を起こす政府発表


「大丈夫だ!」と言いたくなる気持ちは分かります。でも、それは「寝た子を起こしかねない」のです。

 実際、この発言を報じた韓国経済新聞「韓国金融委員長『日本が金融報復しても影響ない』…しかし海外工場の資金途絶えれば打撃」(7月8日、日本語版)はこう書きました。

・だが金融市場は緊張モードだ。日本の大手銀行が資金を回収する兆しが現れており、韓国企業の海外法人をターゲットにするかも知れないといううわさも出回り始めた。不吉な影が少しずつ差しているという診断だ。

 7月8日のソウル金融市場でウォンは売られ、前日比11・60ウォン安の1182・00で引けました。韓国政府の防衛ラインと見なされる1200に迫ったのです。

 株式も軟調で、時価総額の20%を占めるサムスン電子の終値は前日と比べ1150ウォン安い(2・52%安)44500ウォン。KOSPI(韓国総合株価指数)も2・10%下げて2066・25で終わりました。

 ただでさえ韓国経済はおかしくなっています(「蟻地獄に堕ちた韓国経済、『日本と通貨スワップを結ぼう』と言い出したご都合主義」参照)。そんな時に始まった日本との経済戦争は、韓国を奈落の底に突き落としかねないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月9日 掲載

関連記事(外部サイト)