文在寅側近が韓国大手紙を「売国」呼ばわり…日本語版サイトが政権批判の援護射撃に

■大統領側近に「売国的」と呼ばれた大手2紙


「売国的な見出しを選んだのは誰なのか」――。

 7月16日、こんなフェイスブックの投稿が韓国で大きなニュースとなった。投稿の主は、チョ・グク大統領官邸民情首席秘書官。民情首席秘書官は、大統領直属で民政や政府高官の人事検証などを司る次官級のポストだ。

 投稿で名指しされたのは、韓国の保守系主要紙「朝鮮日報」と「中央日報」の日本語版サイト。チョ首席秘書官は文政権への批判を繰り広げる両サイトを、「嫌韓日本人のアクセスを促し、日本国内の嫌韓感情を煽っている」と批判した。

 翌日これに続いたのは、大統領官邸のコ・ミンジョン報道官だ。コ報道官は17日の外国人記者向けブリーフィングで、「『手当たり次第反日』という愚民化政策」(「中央日報」2019年5月10日付)といった見出しを紹介。その上で、「多くの日本人が、こうした翻訳版の記事を韓国の世論だと考えている」「これが本当に我々国民の声を反映したものなのか問いたい」とただした。また翌18日には与党「共に民主党」のイ・ジェジョン報道官 も、「『朝鮮日報』と『中央日報』は、メディアの客観性も価値も捨てたまま日本の援軍を自ら任じている」と批判を繰り広げている。


■日本語版の「見出し改変」に集まる批判


 政権批判を行う複数の新聞社に対して、「売国的」と攻撃を浴びせる大統領官邸。まさしく政府がメディアの批判に圧力を加えている状況だが、視点を変えてみるとまた別の構図もうかがえる。

 今回のバッシングの発端は、7月15日に放送されたMBCの時事バラエティ「あなたが信じたフェイク2」。同番組はそこで、韓国語版記事の見出しを日本語化する際の「改変」について報じた。

 例えば「朝鮮日報」の記事「どちらが親日で、何が国を滅ぼす売国か(註:筆者訳)」(2019年4月26日付)は、日本語版サイトで「『反日』で韓国を駄目にして日本を助ける『売国』文在寅政権」(2019年5月5日付)という刺激的な見出しに変えられている。また同じく「日本の韓国投資、1年間でマイナス40%…『最近は韓国企業との接触もはばかる』(註:筆者訳)」(2019年7月4日)は、「輸出優遇除外:『韓国はどの面下げて日本からの投資を期待してるの?』」(同)と、いかにもネットでの「引き」がよさそうな文言になっていた。こうした点が、日本人の嫌韓感情を刺激して韓国政府=文政権批判の世論を煽っている――と批判される所以の一端だ。ただし「朝鮮日報」と一緒に名前を挙げられた「中央日報」は、見出しの改変を行っていないとして大統領官邸に反論している。


■日本から文政権批判を援護射撃


 韓国紙の日本語版サイトが始まったのは2001年。この年、主要全国紙の「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」が相次いで日本語での記事配信を始めた。

 3紙とも論調は保守。また韓国での記事が全て日本語化されているわけではない。したがって3紙の日本語版サイトで読めるのは、あくまで「保守紙が日本向けに取捨選択した報道」だ。加えて「韓国紙日本語版が刺激的な見出しでアクセス数を稼いでいるとの声は日韓双方で以前からあった」(「産経新聞」2019年7月17日付)のような指摘も、専門家や韓国通の間で根強い。もし韓国全体の世論をうかがうなら、こうしたバイアスをふまえておくことが必要だろう。なお、保守に対する進歩=左派系の代表紙「ハンギョレ」は、3紙よりずっと遅れて2012年に日本語版サイトを開設している。

 韓国では2008年から李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)の保守政権が2代続いた。だが朴槿恵は前代未聞の「崔順実(チェ・スンシル)ゲート事件」で2017年に罷免され、「進歩派」=左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足。朴政権時代の保守与党「セヌリ党」は下野して「自由韓国党」と改称したが、政党支持率は、現在の左派与党「共に民主党」40%対して20%にとどまる(2019年7月19日、ギャラップ社調べ)。

 朴槿恵の弾劾・罷免を経て劣勢に立たされた保守派は、巻き返しに必死だ。それだけに保守系大手紙の文政権批判も、なおさら熱を帯びる。そしてその日本語版サイトが、海の向こうの政権批判を援護射撃している格好だ。


■輸出管理強化を巡って引用された記事


 そんな保守系大手紙の記事が日本の政治家やメディアに引用されることにも、韓国の左派は神経を尖らせている。自民党の小野寺五典・安全保障調査会会長は輸出管理強化に絡み、7月5日放送の「プライムニュース」(BSフジ)で「大量破壊兵器に転用可能な戦略物資が、韓国から違法に輸出されているのが急増している」「第三国経由で北朝鮮やイランに運ばれた可能性もある、と報道されている」と述べた。その根拠とされたのが、「朝鮮日報」2019年5月17日付の記事。より詳しくいえば、記事中に登場する「韓国の保守系議員」が示した資料だ。

 だがこの記事に対して地上波テレビキー局のMBCは、資料は違法輸出を未然に摘発した事例の統計、「急増」は資料の一部期間だけを切り出した誇張、北朝鮮やイラン云々は一専門家の推測コメントにすぎない、などと反論。また左派系のメディア批評紙「メディアオヌル」は、「この記事はウリ共和党議員の主張を検証せずに書き写している」という批判の声を紹介した。急進的保守の「ウリ共和党(旧・大韓愛国党)」は、朴槿恵の「無罪釈放」を要求している議員2人のミニ政党だ。

 こうした記事が、両国間の対立が先鋭化する問題を巡って、日本側の韓国批判に利用される――。少なくとも韓国の立場から見れば、この構図が「売国的」と映るのも無理はないだろう。

 日本のネット空間を舞台として、保守派の文政権批判を援護射撃してきた韓国紙の日本語版サイト。大統領官邸からの名指し批判という異例の展開に、政権と保守派の対立はいっそう混迷を深めることになりそうだ。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月24日 掲載

関連記事(外部サイト)