日・ロ・中・朝から袋叩きの韓国 米韓同盟の終焉を周辺国は見透かした

「周辺大国から袋叩きにされている」と悲鳴をあげる韓国人。だが、米国側に戻るフシはない。韓国観察者の鈴置高史氏が対話形式で米韓同盟消滅への道筋を読む。

■悲鳴を上げる保守系紙


鈴置: 韓国人が泣き叫んでいます。保守系紙、朝鮮日報の7月26日の社説の見出しが「今度は北ミサイル、袋叩きにされる韓国の安保」(韓国語版)です。

 7月1日以降、韓国は日本、ロシア、中国、北朝鮮と、すべての周辺国から圧迫されています。時系列表「袋叩きの韓国」をご覧下さい。

 日本は韓国向けの半導体素材の3品目に関し、輸出管理を強化しました。7月1日発表、4日実施です。8月には韓国を「ホワイト国」から外し、軍需品に転用可能な物質全般の輸出管理を強化する見込みです(「日本の輸出規制、韓国では『単なる報復ではなく、韓国潰し』と戦々恐々」参照)。

 7月23日にはロシアと中国が韓国周辺の上空で合同演習を実施、韓国の防空識別圏に無断で侵入しました。ロシア軍機は韓国が実効支配する竹島(韓国名・独島)上空も侵犯しました。

 翌24日には中国が国防白書を発表。米軍が韓国に配備したTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)に関し「アジア太平洋地域の戦略的均衡と安全保障の利益をひどく傷つけた」と撤去を要求しました。

 さらに、その翌日の25日には、北朝鮮が短距離弾道ミサイル2発を試射。元山(ウォンサン)から日本海側に向けて発射し、1発は690キロ、もう1発は430キロ飛びました。

 朝鮮日報が見出しを「今度は……」としたのも分かります。韓国人からすれば、日・ロ・中から圧力を受けているところに「北朝鮮までが加わった」感じなのです。


■「初めて」の圧迫、4連発


――周囲が皆、敵ですね。

鈴置: 注目すべきは、どの国の圧迫も過去にはなかった強いものであることです。これが韓国人の「袋叩き感」を高めています。

 日本の輸出管理。まさか日本が自分の経済的な弱点を突いてくるとは韓国人は夢にも思っていなかった。文在寅(ムン・ジェイン)政権も、経済界もメディアも国民も、予想外の出来事に狼狽するばかりです。

 中ロの軍用機が歩調を合わせて韓国の周辺を飛行して威嚇する、というのも初めてのことです。「独島の上空侵犯も初めて」と韓国紙は書いています。

 中国が国防白書で「在韓米軍のTHAADを撤去せよ」と要求するのも初めてです。2017年3月、朴槿恵(パク・クネ)政権末期に米国はTHAADを配備しました。

 自らの弾道ミサイルの威力が落ちることを懸念する中ロは、強く反対していました。ことに中国は強硬で、自国民の韓国観光を制限したうえ、在中韓国企業に嫌がらせしました。ロッテ・グループは中国全土で展開していた量販店網を売却・撤退しました。

 THAAD問題は一段落したかに見えていました。それが初めて中国の「国防白書」に登場。韓国は今、「次は何をされるのか」と首をすくめているのです。


■岩国基地も射程に


――北朝鮮の弾道ミサイル試射も「初めて」ですか?

鈴置: ある意味では「初めて」なのです。このミサイルは高空に打ち上げられた後に急速に落下、低空を飛行して標的を狙う新型です。

 ロシア製の「イスカンデル」か、そのコピーと専門家は見ています。韓国軍の保有するミサイルはもちろん、米軍のTHAADでも撃ち落とせないとされます。

 韓国人は北朝鮮の核弾道ミサイルの前で「初めて」丸裸になったのです。射程が690キロもありますから、それは日本にとっても同じことなのですが。軍事境界線のすぐ北から撃てば、山口県岩国の米軍基地まで届きます。

――北朝鮮が「岩国まで射程に入れた」と言っているのですか?

鈴置: そんな米国を刺激するようなことは、北朝鮮は絶対に言いません。米韓を明確に分け、あくまで韓国だけを脅しています。

 試射の翌日の7月26日、朝鮮中央通信はミサイル発射に関し「南朝鮮(韓国)に先端攻撃型兵器を持ち込み、軍事演習を強行しようと熱を上げる軍部勢力に警告を送る武力示威の一環だ」と報じました。


■見逃す米国


――米国もこの試射を問題視しませんでした。

鈴置: その通りです。それどころかトランプ(Donald Trump)大統領は韓国人にとって聞き捨てならないことも語ったのです。

 まず、「あれは短距離ミサイルだ。多くの国が持っているではないか」と、問題にしない姿勢を打ち出しました。

 それに対し「米国にとっては短距離ミサイルに過ぎないかもしれないが、同盟国である日本や韓国にとってはそうではない」と質問が出ました。

 すると、トランプ大統領は以下のように語ったのです。ホワイトハウスのサイトから引用します。なお、「彼」とは金正恩(キム・ジョンウン)委員長、「彼ら」とは南北朝鮮を指します。

・He didn’t say a warning to the United States. But they have their disputes. The two of them have their disputes. They’ve had them for a long time.

「彼は米国に対する警告とは言わなかった。あれは彼らの紛争なのだ。彼らはずうっとそうやってきたのさ」と、ミサイルの試射は韓国の問題であって米国の問題ではないと言い切ったのです。

 北朝鮮は国連制裁によって経済の困窮が進んでいます。米国は金正恩政権の立場が弱まって核を放棄するのを待つ作戦です。だから米国を交渉に誘い出そうと北朝鮮がミサイルを撃っても、敢えて無視しているのです。

 もちろん、大統領がそうとは露骨には言えないので「米国向け警告ではない」と誤魔化したのですが、そこで思わず「朝鮮民族の内輪もめ」と本音をしゃべってしまった。同盟国であるはずの米韓の間に一線を引いてしまったのです。


■演習名から消える「同盟」


――「南北朝鮮は勝手に争え」ということですね。

鈴置: それがトランプ大統領の、多くの米国人の本音でしょう。韓国は米国に守ってもらいながら、中国包囲網――インド太平洋戦略に加わろうとしない。それどころか米国を裏切り、中国と手を組もうとしている(「日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも『中国と手を切れ』と一喝」参照)。

 韓国の裏切りに、米国の外交関係者は怒り心頭に発している。そしてついに、米韓の間の亀裂を見透かして周辺国が一斉に動いたのです。それが7月に起きた「韓国袋叩き」の本質です。

 日本だって、米国が仲裁に乗り出すと読んだら、韓国に対する輸出管理の強化には乗り出さなかった可能性が高い。

 中ロが共同軍事演習で韓国を脅しあげたのも、米国が反応しないとの確信があったからでしょう。米韓は2019年8月の演習を最後に、合同軍事演習を取り止めると見る専門家もいます。

 この演習も当初は「19−2同盟」との名称で呼んでいましたが、「同盟」を削除する方向です。北朝鮮に忖度した文在寅政権が言い出しました。米韓同盟はまず、「名」から消えて行くわけです。

 中国の国防白書も米韓の亀裂に付けこみました。中国も今、脅せば韓国が、在韓米軍のTHAADを追い出すと踏んだのです。

 2017年10月、文在寅政権は中国の脅しに屈して「THAADを追加配備しない」との条項を含む「3NO」を中国に約束しています(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 当時以上に米韓関係は悪化していますから、中国が「ここでもうひと押しすれば、THAAD撤収を実現できる」と期待するのも当然です。

 北朝鮮が短距離弾道ミサイルを堂々と発射するのも、米韓の亀裂のおかげです。米国からやり返されないうえ、孤立感を深める韓国をよりコントロールできるようになります。韓国が8月以降の合同演習に、さらに消極的になるのは間違いありません。


■自ら引いたアチソン・ライン


――「米国との亀裂が袋叩きを呼んだ」との自覚はあるのですか。

鈴置: 尹徳敏(ユン・ドクミン)韓国外国語大学碩座教授が朝鮮日報に「我々自らが招いたアチソン・ライン」(7月29日、韓国語版)を寄稿しました。

「アチソン・ライン」とは1950年1月に、アチソン(Dean Acheson)国務長官が講演で語った米国の防衛ラインのことです。「アリューシャン列島―日本―フィリピン」と設定し、韓国を外しました。

 当時、米国は韓国と同盟を結んでいなかったのです。この「亀裂」を見透かした北朝鮮が同年6月に韓国に侵攻し、朝鮮戦争が始まりました。尹徳敏教授の主張を要約します。

・なぜ突然、大韓民国は周辺大国の袋叩きにあったのか。我々自らが「第2のアチソン・ライン」を引いたからだ。
・バランス外交との名目で韓米同盟の比重を減らし、韓中関係を重視した。「中国の夢」や「一帯一路」を通じ、中国とは運命共同体となった。一方、インド太平洋戦略には冷淡であった。
・韓米同盟が確かなものだったら、日本が安全保障を口実に経済で報復したり、中ロの戦略爆撃機が我が領土を侵すこともなかった。

 韓国人は米韓同盟が累卵の危うきにあるのに、それを認めようとはしなかった。見たくないものは見ない、という心情からです。でも、これだけ「袋叩き」にあった以上、無視するわけにはいかなくなったのです。


■ほくそ笑む文在寅政権


――韓国はどうするのでしょう?

鈴置: 文在寅政権は「しめしめ」といったところでしょう。この政権の中枢部は「米韓同盟が諸悪の根源である」と信じる人で固められています(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 彼らにとって、米韓同盟が消滅するのは願ってもないことです。ただ、自分から「同盟破棄」を言い出せば保守も普通の人も大反対します。「困った時にも助けてくれない米国」を国民に知らしめ、米韓同盟をあきらめさせるのが一番いいのです。

――保守派はどうする?

鈴置: もちろん、政権批判に乗り出しました。朝鮮日報は連日「同盟の消滅」「安保の危機」を訴えています。7月29日以前の社説の見出し(韓国語版)をさかのぼって並べます。なお、7月28日は日曜日で休刊日です。

・「同盟国たる米国まで信じられなくなったという現実」(7月29日)

・「金が『対南警告』と言うのに文は沈黙し、軍は『問題なし』とは」(7月27日)

・「今度は北ミサイル、袋叩きにされる韓国の安保」(7月26日)

・「中ロの主権侵害になぜ、一言も言えないのか」(7月25日)

・「我々の空を侵す中ロ、その隙を突き独島に仕掛ける日本」(7月24日)

・「いまや韓米訓練の時に『同盟』を使えないと言うのか」(7月23日)


■にじみ出る属国意識


――連日の悲鳴ですね。ついに保守派は同盟堅持に動き出した……。

鈴置: ところが、そうはならないのです。保守は安保の危機を訴え、米韓同盟を破壊する文在寅政権を厳しく批判します。

 でも、インド太平洋戦略に加わって、米国と共に中国を包囲しよう、とは誰も言わないのです。同盟強化には腰が引けているのです。朝鮮日報の一連の社説は皆、そうです。

 尹徳敏教授も「インド太平洋戦略に加わらないことが同盟破綻の原因」とは分析しますが、「加わろう」とまでは主張しないのです。

 韓国人にとって長い間、宗主国であった中国に逆らうのは、とてつもなく「恐ろしいこと」です。韓国人の中国に対する恐怖感は日本人の想像を超えます。

 米国人もようやく、それを理解し始めました。『米韓同盟消滅』を読んだ米国人から質問が集中するのも「韓国人の心情」部分です。アジアの専門家とはいえ、冊封体制下の朝貢国の民の心情にまではなかなか思いが及ばなかったのでしょう。

 興味深いのは、比較的に韓国人の心持ちを理解する米国人の多くが、東欧からの移民か、その子孫であることです。旧ソ連の衛星国支配から中国の冊封体制を類推するためと思われます。


■ポンペオも漏らした本心


――中国の朝貢国に戻っていく韓国を、米国はどう扱うのでしょうか。

鈴置: 引き戻そうとはしないと思います。それどころか、これだけ「袋叩き」になっても米国側に戻ろうとしない韓国、それも保守派まで含めて――を見て「やはり中国側の国なのだな」と確信することでしょう。

 そもそも、トランプ政権は「米韓同盟の廃棄」を「北朝鮮の非核化」との取引に使う方針です(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。

 どうせ長持ちしない同盟なら、それを交換条件に北朝鮮に核放棄を迫ろう――との発想です。公言すれば「カード」としての価値が落ちますから、大声では言いませんが。でも時々、その本音を見せてしまうのです。

 7月22日、ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官がインタビューに答え「核を放棄したら、北朝鮮に安心を与える一連の安全保障上の措置を講じる用意がある」と語りました。

「これは(シンガポールでの首脳会談で)金正恩委員長とトランプ大統領が大筋で合意していることだ」とも述べました。米朝首脳会談を開くために歩み寄りを呼びかけたのです。国務省のサイトで読めます。

・President Trump’s been very clear: We’re prepared to provide a set of security arrangements that gives them comfort that if they disband their nuclear program, that the United States won’t attack them in the absence of that;
・That’s the outlines of the agreement that Chairman Kim and President Trump have made.


■「反日」で現実逃避


――「北朝鮮に安心を与える安全保障上の措置」がミソですね。

鈴置: まさに、そこです。攻撃しないと口でいくら約束しても、北朝鮮は信じません。究極的には、米国が朝鮮半島から離れてこそ――北朝鮮のライバルである韓国との同盟を打ち切ってこそ、安心できるのです。

 2018年6月のシンガポールでの米朝首脳会談で、米国は非核化と引き換えに「安全の保障」を約束しています。これは煎じつめれば「米韓同盟の廃棄」を意味するわけです。

 ポンペオ長官は非核化に動かない北朝鮮にしびれをきらし、ついに、この約束の履行を言い始めたのです。

――それを韓国はどう報じていますか?

鈴置: 私が見た限り、韓国メデイアはこの微妙な文言をほとんど報じていません。「見たくないものは見ない」のでしょう。

 もっとも有効な「見ない」手口は、反日で陶酔することです。袋叩きにあい、米国からは見捨てられる。そんな絶望的な現実を忘れるには「日本と戦おう」「安倍をやっつけろ」と叫ぶのが手っとり早い。韓国の国を挙げての反日はますます激しくなることでしょう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月30日 掲載

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