従軍慰安婦を巡る発言で訴えられた「親日派教授」 講義を記録した音声データの中身は

従軍慰安婦を巡る発言で訴えられた「親日派教授」 講義を記録した音声データの中身は

発言があったのは9月19日、延世大学社会学科の専攻科目「発展社会学」の講義中のこと(Allen R Francis/Wikimedia Commons)

■「慰安婦」を巡る歴史認識が刑事告発される


「従軍慰安婦は売春婦だった」――。こんな趣旨の発言をしたとして、いま激しい批判の矢面に立っているのが韓国・延世大のリュ・ソクチュン社会学科教授(64)だ。

 韓国の市民団体「庶民民生対策委員会」は9月23日、虚偽事実流布、名誉毀損、セクハラなどの疑いでリュ教授をソウル西部地検に告発。10月8日には、同地検の捜査が本格化していることが報じられた。

 10月1日には同じく「正義記憶連帯」もリュ教授を名誉毀損で告訴、また慰謝料1億ウォン(約890万円)を求める賠償請求訴訟を起こしている。同団体はさらに、元慰安婦女性を当事者とする別の名誉毀損訴訟も準備中だという。「正義記憶連帯」の旧称は、「挺対協」こと「韓国挺身隊問題対策協議会」。慰安婦問題を巡り、韓国で最も大きな影響力を持つ市民団体だ。リュ教授は「正義記憶連帯」についても、講義のなかで「元慰安婦女性を利用している」などと発言していた。

 発言の余波はこれだけにとどまらない。左派与党・共に民主党のイ・ナギョン総理は9月27日、国会でリュ教授の発言を「非常に恥ずかしい」と批判。またリュ教授が長年にわたり党員として活動してきた保守野党・自由韓国党も懲戒を示唆し、リュ教授は離党を余儀なくされた。

 同月24日には、激昂した市民団体の男性(67)が研究室へ乱入する騒動も起きている。男性は各メディアのカメラが見守るなかリュ教授と激しくもみ合い、その様子がニュース映像となって韓国中に流れた。また同じ日には延世大の学生総会がフェイスブック上で、「リュ教授は学生と『慰安婦』被害者に謝罪し、大学本部はリュ教授を罷免せよ!」との声明を発表。10月10日には、正門前で学生らの「糾弾集会」も開かれている。


■「私は日本が好きな親日派だ」


 発言があったのは9月19日、延世大学社会学科の専攻科目「発展社会学」の講義中のこと。受講生と見られる人物が録音した講義の音声データをニュースメディア「Pressian」に持ち込み、延世大教授の問題発言として報道された。延世大は韓国の最高学府・ソウル大に次ぐ私大の頂点の1つであり、日本では早慶に対比される名門中の名門だ。

 問題とされた講義は、どんな内容だったのか。「Pressian」のウェブ記事(2019年9月21日付)が再録したその一部から、要点を拾ってみよう。

 リュ教授はイギリス、スペイン、オランダなどと比較しつつ、日本による朝鮮半島の植民地化について肯定的な視点を強調。それとともに、朝鮮人農民の土地収奪、労働者の強制徴用、慰安婦問題などは全てウソだとする歴史観もアピールした。また「親日派」が韓国で植民地時代の「対日協力者」というネガティブな意味を持つことを踏まえつつ、「私は日本が好きな親日派だ」「金や権力目あてに日本に媚びようというのではない。中国と仲良くするより、日本と仲良くしたほうがいいという意味だ」とも発言している。

 続いてリュ教授は「慰安婦として連れ去られた女性たちは、自発的に行ったということか」という学生の質問に、こう答えた。「いまも売春産業はあり、女性たちが働いている。その女性たちが両親に売られて行ったのか、あるいは自分で行ったのか。どちらも同じような話だ」「いまも『マナーのいい客に酒を飲ませればいい』と言われてやってみたら、そのように(売春をすることに)なる。昔だけそうだったのではない」。リュ教授は続けて、質問した女子学生に「気になるなら一度やってみたらどうだ?」と問い返した。


■セクハラ、中国卑下発言も批判の俎上に


 リュ教授の歴史認識は日本側からも大きな歓迎を受けそうだが、問題の講義はそれ以外の部分でもあれこれ物議を醸すことになった。とりわけ最後の「(売春を)やってみたらどうだ?」は、質問した女子学生に対するセクハラ発言として大きく問題視されている。リュ教授は9月23日に現地メディアで公開した声明で、「『やってみたら』は『売春を〜』でなく『学術調査を〜』の意味だった」と釈明。だが受講していた学生らは別のメディアの取材に、「文脈上そうは思えなかった」と証言した。

 同じ講義ではまた、中国に対する卑下も飛び出している。リュ教授は自分を「親日派」と呼びながら、返す刀で「なぜ中国と仲良くしようとするのか。乞食のような国なのに」と切り捨てたそうだ。そうした態度のせいか開講当初7〜8人いた中国人の受講生は、ほとんどが講義を放棄していたという。

 リュ教授はまた、過去に悪名高いコミュニティサイト「イルベ」の利用を学生に奨励していたことでも批判を浴びた。過激な保守志向を掲げる「イルベ」は、地域差別、女性蔑視、セウォル号被害者などへの中傷、そのほか利用者による数々の事件などで知られている。


■リュ教授を擁護する声も各方面から相次ぐ


 韓国中から集中砲火を浴びる格好となったリュ教授だが、擁護する声も決してなくはない。9月24日には延世大キャンパス内に「リュ教授を政治的に罷免しようとする意図を持って世論の魔女狩りを先導するメディアと政治勢力を、強く糾弾する」との張り紙が登場。また翌日にはリュ教授の研究室のドアに、「大学はどんなに物議を醸しているテーマでも、学術的理性でアプローチして自由に論争できる唯一の場所」「外部の権力と数の力に頼り、少数派の言論を説く学者への報復の先頭に立つのは卑怯だ」とのメッセージが張り出された。同日には保守系の学生の集まり「延世大TRUTH FORUM」も、リュ教授を支持する声明を発表している。

 リュ教授はまた問題となった講義で、韓国のベストセラー本『反日種族主義』の記述を何度も例に挙げて自説に援用していた。『反日種族主義』は、韓国のこれまでの反日的な対日史観の通説を根本から否定する内容だ。

 その共著者の1人であるイ・ヨンフン元ソウル大経済学部教授も、自身のYouTubeチャンネル「李承晩TV」でリュ教授を援護した。イ元教授はそのなかで受講生が講義の音声データをメディアへ渡したことに対し、次のように批判している。「中国の文化大革命を連想する」「自分と政治的な考え方が異なる相手を罷免させるため敵対勢力に音声データを流出させた学生は、魂が破壊され、人生の敗北者に転落した」。そのほかチャ・ミョンジン元自由韓国党議員も自身のフェイスブックで、一部メディアを「紅衛兵」と批判しつつ、リュ教授を「良心的でしっかりした研究を行う学者」と称賛した。

 慰安婦への歴史認識を巡り、いつものように激しい反応を見せる韓国社会。その一方で根強いリュ教授支持の声は、新たな地殻変動の前触れなのだろうか。

高月靖(たかつき・やすし)
ノンフィクションライター。1965年生まれ。兵庫県出身。多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒。韓国のメディア事情などを中心に精力的な取材活動を行っている。『キム・イル 大木金太郎伝説』『独島中毒』『徹底比較 日本vs韓国』『南極1号伝説』など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月16日 掲載

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