韓国で市民団体とマクドナルドが激しく対立 プルコギバーガーが原因なのか

韓国で市民団体とマクドナルドが激しく対立 プルコギバーガーが原因なのか

マクドナルド(韓国・ソウルの店舗)(Fusebok/Wikimedia Commons)

■「ハンバーガー病」を巡る市民団体のデモ


 ソウル旧市街の中心部に位置するソウル市庁舎。10月29日、その正面右手「マクドナルドソウル市庁店」前の路上で、一見異様なデモが開かれた。お揃いのTシャツを着てピエロの面をつけるなどした女性10人ほどが、ハンバーガーなどの写真を掲げてマクドナルドのボイコットを呼びかけているのだ。

 彼女たちが問題にしているのは、「ハンバーガー病」。これは最近韓国のメディアを騒がせている「溶血性尿毒症症候群(HUS)」の別名だ。この騒動がいま、韓国社会の奇妙な一断面をのぞかせている。

 発端は、2016年9月。ソウル近郊の平沢市に住む当時4歳の少女AさんがHUSに罹患し、重い腎機能障害を負った。Aさんはその後ずっと、毎日10時間の人工透析を余儀なくされている。

 Aさんの家族がHUS罹患の原因として訴えているのが、韓国マクドナルドの「プルコギバーガー」(プルコギは韓国の牛肉料理)だ。Aさんは平沢市のマクドナルドで買ったプルコギバーガーを食べた直後から腹痛を訴え、その後HUSと診断されたという。家族は、「パティが生焼けだったため発症した」と主張。ほかにも似たような被害を訴える子供4人の父母らが名乗り出て、Aさんの家族らは2017年7月、民事および刑事の両方で韓国マクドナルドを訴えた。


■HUSとの因果関係は証明されず


 HUSは、大腸菌O‐157などが作り出す毒素を主な原因とする症候群。「ハンバーガー病(hamburger disease)」の名称は、実際に英語圏で用いられている別名だ。生焼けのパティが原因となる場合があるため、こう呼ばれている。

 Aさんのいたましい病状は現地メディアで大きく注目され、「恐ろしくて子供にハンバーガーを食べさせられない」といった声まで広まった。HUSの原因になる食品は無数にあるのだが、韓国の保健当局はハンバーガーを扱う企業に「パティによく火を通すように」との文書を配布したという。

 ところが約半年の捜査を行ったソウル中央地検は、昨年2月に不起訴の結論を下す。「生焼けパティが原因」という訴えが、立証されなかったからだ。

 ただし捜査の過程からは、病原菌に汚染された疑いがあるパティを納品した食肉業者も浮上。検察はその関係者3人を、畜産物衛生管理法違反の疑いで書類送検した。食肉業者はAさんらの件と無関係だったが、韓国マクドナルドの安全性について市民らに根深い不信感を残す結果となった。


■与党が旗を振るマクドナルドバッシング


 不起訴処分が下った「ハンバーガー病」だが、騒ぎの幕引きには至っていない。それどころか韓国ではいま、与党が旗振り役を務める形でマクドナルドバッシングが繰り広げられている。

 与党・共に民主党のクォン・ミヒョク院内報道官は今年3月28日のブリーフィングで、韓国マクドナルドが「汚染パティ」の販売を隠蔽しようとした可能性を指摘。さらに「Aさんと家族が苦痛の時間を過ごしているのに、検察は不起訴処分を下した」として、検察に「厳正な再捜査」を要求した。

 これに先立つ今年1月には、Aさん家族を支援する市民団体「政治をする母親たち」などの約300人が、韓国マクドナルド及び上述の食肉業者を食品衛生法違反、業務上過失致傷などの疑いでソウル中央地検に告発。さらに同団体は4月、被害は政府の落ち度だとして国家賠償を求める訴訟まで起こした。この「政治をする母親たち」が、冒頭で触れたデモの主催者だ。

 また一部の現地メディアも、マクドナルド批判の先鋒に立っている。特に熱心な衛星・ケーブルチャンネルJTBCは今年4月、マクドナルド店長の「告白」をスクープ。検察で「パティが生焼けになることはない」と証言したというこの匿名の店長は、「検察へ行く前日、本社で弁護士とリハーサルをした」「従業員が焼いたパティが生焼けだったこともある」などと語って反響を呼んだ。

 そしてJTBCは10月28日、よりショッキングな「内部告発」を報道する。マクドナルド従業員が2017年から撮りためた不衛生な食品や厨房の写真約30点を入手したとして、その一部を公開したのだ。公開されたなかには、カビたトマトや断面が赤いパティを載せたハンバーガー、また虫が付着したチーズスティックなどの写真が含まれていた。JTBCによれば、写真のハンバーガーは客に提供されたものだという。


■対決姿勢を見せ始めた韓国マクドナルド


 10月29日にはまた与党議員の意向を受け、ソウル中央地検が再捜査を開始。こうして韓国マクドナルドはいま、市民団体、メディア、与党、そして司法機関から集中砲火を浴びている。

 だがその反論は、耳を傾けるべき点が少なくない。韓国マクドナルドは11月に入り、「一部の人物、団体、メディアが事実と異なる問題を提起している」と反発。「未確認の一方的な主張に強く対応する」「会社と従業員の精神的・物質的被害をこれ以上看過できず、該当事案の捜査を警察に正式依頼する」との意向を示した。

 Aさんの病状については同情を寄せつつ、母親が主張する発症の経緯に疑問を呈している。パティは複数枚を同時に調理するため1人前だけ生焼けになることはあり得ない、食べてから1〜2時間で腹痛を訴えたとの主張はHUSの潜伏期間と食い違う、母親は牛肉とモツがパティの原料としているが実際は豚肉、といった調子だ。

 JTBCが報じた店長の証言については、Aさんが食べた店の店長ではなく、虚偽の証言を強要する理由がないとしている。またJTBCが内部告発とする写真は、「演出された可能性がある」と反論。11月4日には、写真を提供した人物について捜査を依頼したことも明らかにした。

 写真のようなハンバーガーが客に提供されていたら、いまの韓国ではあっという間にSNSで炎上してしまうだろう。そんな状態が放置されているかのような報道は、確かに首を傾げたくなる部分もある。問題の写真は、今年1月に韓国マクドナルドなどを告発した市民団体が、証拠資料として提出したものだそうだ。

 前述のクォン・ミヒョク院内報道官は、「(疑いが事実なら)企業の利益のため国民の安全を脅かす違法行為だ」と主張した。大企業に立ち向かう市民という構図は多くの共感を集めているが、事態の真相はまだ明らかになっていない。

高月靖(たかつき・やすし)
ノンフィクションライター。1965年生まれ。兵庫県出身。多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒。韓国のメディア事情などを中心に精力的な取材活動を行っている。『キム・イル 大木金太郎伝説』『独島中毒』『徹底比較 日本vs韓国』『南極1号伝説』など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月12日 掲載

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