GSOMIA維持も、米国は「韓国は今後も中国に接近」と予測 もう収まらない怒り

GSOMIA維持も、米国は「韓国は今後も中国に接近」と予測 もう収まらない怒り

在韓米軍駐留経費の分担費会議は物別れに終わった(会見する韓国の鄭恩甫・交渉代表)

 米国の圧力を受け、韓国は失効寸前になって日韓GSOMIAの維持を決めた。だが、米韓同盟の存亡の危機は深まるばかりだ。「どうせ韓国は中国側に行く国だ」との認識が米国で広がったからだ。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。


■米韓同盟を人質にした韓国


鈴置: 極めて興味深い記事がワシントン・ポスト(WP)に載りました。「The 66-year alliance between the U.S. and South Korea is in deep trouble」(11月23日)で、「韓国は日韓GSOMIAを維持したが、米韓同盟は揺れ続ける」と分析したのです。

 アーミテージ(Richard Armitage)元米国務副長官と、元米NSCアジア部長のチャ(Victor Cha)ジョージタウン大学教授の共同論文です。2人とも米国を代表するアジア安保の専門家です。

 この論文は、米日韓のインテリジェンス共有体制を終了するとの決定を文在寅(ムン・ジェイン)政権が延期したのは賢明だった、と一応は評価しました。

 ただ、ポイントはそこにはありませんでした。「GSOMIA破棄」という韓国の行動が、米韓同盟を毀損したと厳しく非難したのです。引用します。

・これまで培ってきた信頼関係はすでに大きく傷ついた。韓国政府は価値ある協定を露骨に人質にして、米政府に――米国の太平洋における主要な民主国家の同盟国である――韓日間の経済的、歴史的な問題に介入させようとした。これは同盟を乱用する行為だ(damage to the reservoir of trust in the relationship had already been done. Seoul’s apparent leveraging of the valued agreement to compel Washington’s involvement in economic and historical disputes between South Korea and Japan ? the United States’ two major democratic allies in the Pacific ? was an act of alliance abuse.)。
・インテリジェンス協力をやめるとの脅しは、北朝鮮の核・ミサイル試験に対する3国の対応能力を落とすにとどまらない。韓国の安保上の利益が日米のそれとは潜在的に隔たっていることを示した。(米韓)同盟弱体化の明白な証しである(The threat to end the intelligence cooperation not only degrades the ability of the three to respond to North Korean nuclear or missile tests but also represents a potential decoupling of South Korea’s security interests from those of Japan and the United States, in a significant sign of alliance erosion.)。


■中韓軍事協力は米国への当てつけ


――日韓GSOMIAの維持をいまさら表明してももう遅い、との指摘ですね。

鈴置: その通りです。8月のGSOMIAの破棄宣言は偶発的なものではない。韓国の「離米従中」の一環だ――との認識が背景にあります。この論文は米韓同盟の破綻を象徴する、4つの具体例をあげています。

(1)「ファーウェイ(華為技術)の設備を5Gの通信網に使うな」との米政府の同盟国への要求は、韓国の携帯電話会社を困惑させている。
(2)中国の提案した多国間の貿易協定(ここには米国は含まれない)に韓国は未だに参加を希望している。
(3)中国のアジアにおける航行の自由への挑戦を牽制するための米主導の「インド・太平洋戦略」を韓国は支持しない。
(4)今週、韓中の国防相は防衛交流を強化し軍事情報のホットラインを設立するための協定に署名した。

(2)の中国の提案した多国間の貿易協定とはRCEP(東アジア地域包括的経済連携)のことでしょう。

 インドが参加を渋っているため、日本政府は中国がRCEPを牛耳るのを懸念し「インドが加盟しない以上、設立は合意されていない」との認識を打ち出しています。一方、中国に従順な韓国政府は「合意はなされた」と発表しています。

(4)の中韓軍事協力協定は11月17日、両国の国防相がバンコクで会談し「海・空軍の直通電話の改善などで合意した」と発表したことを指します。

「日本にはGSOMIA拒否、中国には軍事協定を求愛」(10月21日、韓国語)と書いた韓国日報を除き、韓国メディアは中韓の軍事接近をさほど大きく扱いませんでした。そのせいか日本でも、ほとんど報じられていません

 なお、英字紙の世界では英テレグラフが「China signs defence agreement with South Korea as US angers Seoul with demand for $5bn troop payment」(11月18日)で報じています。

 韓国日報の英語版を参考にしたようで、米韓が在韓米軍の駐留経費問題でもめ始めた今、韓国が中国に接近している、との視点で書いています。


■「米中どちらをとるのか」と踏み絵


――欧米の人々にとって、韓国の中国傾斜はニュースだったのですね。

鈴置: 日本では半ば常識化したその認識が、世界にも広がり始めたということでしょう。WPの論文も前文で「the South Korea government’ quiet leaning towards China」と「leaning(傾斜)」という単語を使っています。

――結局、「米国側に戻れ」という趣旨の論文ですか?

鈴置: さらに踏み込んで、「米中どちらをとるのか」と最終的な決断を迫った感じです。なぜならこの論文は「離米従中」を非難した後、話題を駐留経費問題に転じ、「韓国が分担金の増額に応じないと、在韓米軍を引き上げることになるぞ」と脅しているからです。

 より細かく説明すると、「韓国はGSOMIA破棄により中国側の国と認識された」→「その認識を払拭しないと同盟は崩壊するぞ」→「であるから、駐留経費の問題でも米国の言うことを聞け」というロジックです。

 これまで韓国は米国と日本に甘え続けてきた。「海洋勢力側にいてあげるのだから、これぐらいは聞いてくれ」とわがままを通してきた。

 しかし今や、米国はその手には乗らない。それどころか、GSOMIAで「同盟」を人質にした韓国の手法を逆手にとって「中国側に行きたければ行け。行くつもりがないなら言うことを聞け」と締め上げ始めたのです。

 米国の脅しには説得力があります。まず、同盟維持に関心が薄いトランプ(Donald Trump)大統領が登場したからです。この論文でも冒頭から「米中貿易戦争と韓国の中国傾斜に加え、トランプ大統領の実務的な同盟観が、予想外に早い米軍の朝鮮半島からの撤退を呼ぶぞ」とかましています。

 米軍のアジア専門家の中にも「共通の敵を失った米韓同盟はもう長くは持たない」と考える人が増えています。同盟はもう、妥協のテコにならないのです(『米韓同盟消滅』第1章第2節「『根腐れ』は20世紀末から始まっていた」参照)。


■米国離れのチャンス


――「本気の脅し」が効いて、韓国は分担金問題でもGSOMIA同様、米国の命令に応じるのでしょうか。

鈴置: それは微妙です。状況が異なります。GSOMIAの「破棄」に賛成する人は5割いたものの、3割弱の人が「維持」を支持していました(「文在寅がGSOMIAで米国に“宣戦布告” 『茹でガエル』戦術から一気に米韓同盟消滅?」参照)。

 一方、分担金。米国は一気に5倍に引き上げを要求している模様です。「5倍」を呑む韓国人は保守を含め、まずいません(「文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派」参照)。

 韓国は「嫌なら在韓米軍を引き上げるぞ」と脅されていますが、それも逆効果になります。これまで韓国人は散々、米国から「在韓米軍撤収カード」を使われてきた。親米保守の人でさえ、この話になると不快感を隠しません。

 文在寅政権含め、反米左派は米国の強硬な姿勢を「米国離れ」のチャンスととらえるでしょう。GSOMIAに関しても、「米国の圧力で日本に屈した」と左派系紙は反米を煽りました(「韓国は米国の“お仕置き”が怖くてGSOMIA延長 今度は中朝との板挟みという自業自得」参照)。

 それに「5倍」への反発が加わるのです。分担金引き上げに反対する親北左派はすでに10月18日、ソウルの米大使公邸進入事件を起こしています(「文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派」参照)。


■ジレンマの韓国保守


 保守は困惑しています。「5倍」を呑もう、と言えば自分たちの地歩が崩れてしまう。かといって「5倍」反対に加われば、米韓同盟を失う可能性が増します。

 朝鮮日報がWPに載った、アーミテージ・チャ論文を報じました。趙儀俊(チョ・イジュン)ワシントン特派員の書いた「66年もなじんできた韓米同盟の苦境」(11月25日、韓国語版)です。

 保守の朝鮮日報にとって「文在寅政権が米国に付けこまれる隙を作った」と分析するこの論文は、極めて引用し甲斐があるはずです。ところが趙儀俊特派員はその視点ではなく、トランプ政権の強引な要求を批判する論文として報じたのです。

・アーミテージ・チャ論文はトランプ大統領が(韓米)防衛費交渉の決裂を口実に在韓米軍を撤収するかもしれないと憂慮した。

 このくだりを含め、論文全体を「トランプ政権への憂慮を表明した」と読むのは無理があります。「韓国の失策を非難した」と読む方が自然なのですが……。

――なぜ、朝鮮日報は「憂慮」論文と報じたのでしょうか。

鈴置: 韓国人の反米感情を少しでも抑えるのが目的と思います。「トランプ政権は強欲だが、米国には韓国に配慮してくれる良心派もいる」と訴えることで、国民が「出て行きたいのなら、米軍は出て行け」と叫び出すのを防ぐつもりでしょう。


■空自だけがB52を護衛、韓国空軍の姿なし


――アーミテージ氏やチャ氏は韓国保守の困惑が分かっているのでしょうか?

鈴置: 2人とも専門家ですから、反米運動を激化させると分かったうえで強硬な姿勢を打ち出したと思います。

 日米のアジア専門家の間では、しばしば「韓国保守のふがいなさ」が話題になります。対北朝鮮では日米とスクラムを組むものの、中国に関してはからきし弱い。『米韓同盟消滅』を読んだ米国の専門家から「韓国の保守は信用できるのか」と聞かれたこともあります。

 そんな経験からすると、この共同論文は韓国の左派ではなく、保守に対し「しっかりしろ。一緒に中国と戦う覚悟を見せよ」と通告したと思えるのです。

 韓国がGSOMIAで決断を迫られた最後の日、11月22日にグアムから飛来した米国の爆撃機、B52が日本海を飛行しました。一部の空域では、航空自衛隊のF15が編隊を組みました。

 B52が朝鮮半島付近まで北上する際は、日韓の戦闘機が空域別にエスコートするのが普通でした。しかし、今回は韓国の戦闘機は出動しませんでした。

 これを報じた朝鮮日報の「GSOMIA最後の日、B52は日本の航空自衛隊の護衛を受け東海を飛行」(11月25日、韓国語版)は「韓米日の軍事協力体制が崩れても、米日協力には支障がないことを北朝鮮・中国・ロシアに示した」と解説しました。

 確かに、その狙いもあるでしょう。でも、アーミテージ・チャ論文を読むと「日米の軍事協力に支障がない」ことを一番見せつけたかった相手は、韓国ではないかと思うのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月26日 掲載

関連記事(外部サイト)