米国にケンカを売った「韓国」から外国人投資家が逃避 ムーディーズには怪しい動きが

 韓国から外資が逃げ始めた。米国にケンカを売る韓国の将来を見切ったのだ。韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。


■17営業日連続の売り越し


鈴置:韓国証券市場で外国人の売りが止まりません。11月7日から29日まで、17営業日連続で外国人は売り越しました。2015年12月2日から2016年1月5日まで、22営業日連続で売り越したのに次ぐ最長記録です。

 前回の――最長を記録した時の外国人の売り越し額は累計で3兆7055億ウォン(1ウォン=0・093円)。今回の局面では3兆9441億ウォンと、11月29日の段階で前回を超えました。

 11月29日のKOSPI(韓国総合株価指数)は前日比、1・45%安の2087・96で引けました。10月31日以来、約1カ月ぶりの安値です。

外国人が売って、年金基金など機関投資家が買い支えるという構図が続いてきましたが、それが崩れたのです。

――なぜ今、外国人が韓国株を売るのですか?

鈴置:韓国では「MSCI新興国株価指数」の算出方法の変更に伴う、一時的な現象と見る向きが多かった。

 新たな指数では中国株の比率が増す半面、韓国株の比率が落ちる。そこでMSCIを目安に売買する外国人投資家が韓国株売りに出ている――とのロジックです。

 朝鮮日報の「外国人、KOSPIで8576億ウォン売る、6年ぶりに最大」(11月27日、韓国語版)は以下のように報じました。

・MSCI新興国指数で韓国株式の割合が減少すると、外国人の資金が証券市場から引き潮のように引いて行った。11月26日、外国人はKOSPIで8576億ウォンを売り越した。2013年6月13日の9551億ウォン以来、6年5カ月ぶりの最大額だ。

 これだけ読むと、投資家はパニックに陥りかねない。それを恐れてでしょう、この記事は外国人の売りを「MSCI問題」という特殊要因による短期的な現象とも説明し、投資家を安心させました。

・MSCIの指数の組みかえが11月26日で終了するため、今後は外国人売りの勢いが弱まるとの展望が出ている。

 しかし、11月27日になっても外人売りは止まらず、29日まで続いているわけです。

■資本逃避を警告していた専門家


――「MSCI主犯説」が崩れ去ったわけですね。

鈴置:実は、専門家の間では「外国資本が韓国経済を見放し始めているのではないか」との悲観説が浮上していました。11月24日の韓国経済新聞の社説「尋常ではない外国人の『韓国売り』行進」(韓国語版)はMSCI主犯説から距離を置いていました。

・MSCIの比重の変更は定期的に実施されるものだ。外国人売りの「行進」がそれと関係しているのなら大した問題ではない。
・しかし、最近の証券市場周辺には不安定要因が多い。外国人売りの理由を、安易に予断を持って見てはならないのもそのためだ。
・韓日GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の終了が猶予されたが、今後の展開は未だに不透明だ。
・米中の貿易交渉の展開の結果と、香港人権法案にトランプ(Donald Trump)大統領が署名するかも未知数だ。

 この社説が懸念した通り、悪材料は現実のものとなりました。まず、香港人権・民主主義法は11月27日(ワシントン時間)にトランプ大統領が署名し、成立しました。

 中国は強く反発、米中対立が深まって世界の貿易量はさらに減るとの懸念が深まりました。韓国経済の貿易依存度は高い。ことに対中向け輸出は25%前後を占めます。すでに、韓国は日本と比べものにならないほどに米中対立によって打撃を受けています。

 GSOMIAに関しても、この社説の暗い予想はたがわず「展開は不透明」です。維持を決めた後も、韓国政府高官が相次ぎ「いつでも破棄できる」と公言しました。日本に譲歩したと国民の非難が高まったため、肩を怒らせて見せたのです。

 ワシントンでは「破棄を撤回しようが一度、中国の顔色を見て破棄を宣言した以上、韓国は裏切り者だ」との見方が広がっています。日韓GSOMIAは米国の安全保障を担保する協定だからです(「GSOMIA維持も、米国は『韓国は今後も中国に接近』と予測 もう収まらない怒り」参照)。

 そんな時に韓国政府が再び「GSOMIA破棄」を宣言する構えをとった。外国人投資家が韓国市場から逃げだすのは当たり前なのです。


■「憎まれ者」の自覚に乏しい韓国人


――でも、11月29日の韓国市場で個人投資家は買っています。

鈴置:「米国の怒り」を多くの韓国人はちゃんと認識していないのです。ワシントンでは「韓国の裏切り」が常識となった。GSOMIAだけではなく、中韓軍事協力の進展など、その証拠がどんどんあがっています(「GSOMIA維持も、米国は『韓国は今後も中国に接近』と予測 もう収まらない怒り」参照)。

 「離米従中」の国に、命の次に大事なカネを置いておく投資家はいません。というのに、韓国人は「裏切り」の自覚に乏しい。

 米国や日本と外交摩擦を引き起こしても、韓国メディアは「トランプが変わり者だから」「安倍が極右だから」と他人のせいにします。だから、韓国人は自分が「憎まれ者」になっていることに気づかず、呑気に韓国株など買っているのです。

 そのうえ、在韓米軍の駐留経費の問題が急浮上しています。韓国経済新聞のこの社説は指摘しませんでしたが、駐留経費の分担問題が米韓同盟の亀裂を広げています(「GSOMIA維持も、米国は『韓国は今後も中国に接近』と予測 もう収まらない怒り」参照)。これが資本逃避に拍車をかける可能性が高い。


■米軍は出て行け


 11月25日、大統領の統一外交安保特別補佐官の文正仁(ムン・ジョンイン)氏が在韓米軍に関し「5000―6000人削減しても米韓同盟の枠組みに基本的な変化はない。そうした方が韓国政府も交渉が楽になる」と語りました。

 中央日報系のテレビ局、JTBCの番組での発言で、中央日報の「文正仁氏『在韓米軍5000人減らしても支障ない…防衛費交渉が楽に』」(11月26日、日本語版)で読めます。

 翌11月26日、左派の有力政治家、柳時敏(ユ・シミン)盧武鉉(ノ・ムヒョン)財団理事長氏も「そんなに米国にカネがないなら在韓米軍の規模を縮小すればいい。象徴的に空軍だけ残し、地上軍は全て撤収すればよい」とYouTubeで語りました。

 朝鮮日報が「柳時敏、『米にカネがないなら在韓米軍を減らせばいい…空軍だけ残し、地上軍は全て撤収すればよい』」(11月27日、韓国語版)で報じています。

 米国は駐留経費の「5倍引き上げ」を要求していると報じられています。それに猛烈に反発した韓国の左派が「カネは払わない。嫌なら在韓米軍は出て行け」と声をあげ始めたのです。

 2万8500人の在韓米軍の軍人のうち、地上軍は1万8500人とされます。彼らは米国にとってはさほど必要ではない、と解説する専門家もいます。

 ただ、米韓の「売り言葉に買い言葉」により削減することになれば、米韓同盟は大きく揺らぎます。そうなれば、いや、その前に「米軍は出て行け」という言葉が韓国人から発せられるようになっただけで、外国人投資家は逃げ出します。


■銀行も工場も韓国を脱出


――同盟の動揺という政治リスクが資本逃避を呼んでいる……。

鈴置:政治リスクだけではありません。少子高齢化による経済規模の縮小というリスクも顕在化しています。

 中央日報のコラムニスト、イ・チョルホ氏は「市場の復讐…『韓国経済にはもう食えるものがない(1)』」(11月13日、日本語版)で、外国の金融機関が韓国から逃げ出していると警鐘を鳴らしました。

・最近、外国資本の「韓国エクソダス(大脱出)」が目立っている。この2年間にゴールドマンサックス、バークレイズ、マッコーリー銀行などが次々とソウル支店を閉鎖して離れていった。
・かつて海外本社から低い金利に借りたドルを運用して利益を得ていたが、韓国にも低成長と低金利が定着したからだ。

 さらに、イ・チョルホ氏は「縮む韓国」からはおカネだけではなく、工場も逃げていると嘆きます。

・もう、黄金の卵を産む競争力を持った産業や企業を探すのが難しくなった。韓国企業が外国に向ける海外直接投資は今年上半期150億ドルを超えるなど連日、過去最高を更新する。一方、国内に入ってくる外国人の直接投資は100億ドル以下にとどまっている。

 自国企業でさえ逃げ出す韓国から、外国企業が逃げる――資本逃避が起きるのは当然なのです。


■ムーディーズの怪しげな動き


――今後の注目点は?

鈴置:米格付会社、ムーディーズ(Moody’s)の格付けです。1997年秋の通貨危機の際も、米政府の代理人と見なされるムーディーズが韓国からの資本逃避に一役買いました。

 当時、ムーディーズは2カ月弱の間に6等級も韓国の格付けを引き下げました。降格が資本逃避を呼び、それがまた降格をもたらすという悪循環に陥った韓国は、いとも簡単に破綻しました(「蟻地獄に堕ちた韓国経済、『日本と通貨スワップを結ぼう』と言い出したご都合主義」参照)。

 今回もムーディーズは怪しげな動きを見せています。11月19日、ソウルで2020年の韓国経済見通しに関するセミナーを開きました。その場で、押し並べて業績が悪化している韓国企業の格付けを来年、一斉に下げる可能性を示唆しました。

 韓国経済新聞は「ムーディーズ『韓国、格付け大量降格』警告」(11月20日、中央日報・日本語版)で次のように報じました。日本語を整えて引用します。

・ムーディーズは半導体、自動車、鉄鋼、通信、流通、石油精製、化学など主要業種の信用見通しを「否定的」と評価した。「肯定的」と予想した業種はひとつもなかった。
・ムーディーズは格付けした韓国企業(金融会社と政府系企業除く)24社のうち、半数を超える14社の信用度に否定的見通しを付けている。昨年の5社と比べ、3倍近くに増えた。
・ムーディーズは下半期に入り、本格的に韓国企業の格付けに赤信号をつけている。8月に降格されて3カ月しかたたないイーマートの格付け(Baa3)見通しを「安定的」から「否定的」に変更した。LG化学(A3)、SKイノベーション(Baa1)、現代製鉄(Baa2)などの格付けに、引き続き否定的な見通しを示した。
・18日にはKCCの格付けを投機等級である「Ba1」に落とした。格付け降格後も否定的見通しというレッテルを貼り、さらに下方修正する含みを残した。

 「降格」はあくまで企業の格付けに関してです。韓国という国家の格付けを下げる、とムーディーズが表明したわけではありません。

 ただ、韓国を代表する企業がこれだけ大量に、かつ一斉に格下げに直面する以上、国家の格付けに悪影響を与えるのは間違いありません。


■1997年のデジャヴ


 1997年秋の韓国の通貨危機も、米韓関係が悪化した時に置きました。当時も金泳三(キム・ヨンサム)政権が米軍情報を中国に伝えていたことが発覚、米国の怒りを買っていました(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 今回も、米国の安全保障を左右する日韓GSOMIAを米国に相談することもなく、韓国は破棄を宣言した。最後の段階になってようやく「維持」と表明したものの、翻意を促しに訪韓したエスパー(Mark Esper)国防長官に対し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はけんもほろろに拒否しました(「文在寅がGSOMIAで米国に宣戦布告=@『茹でガエル』戦術から一気に米韓同盟消滅?」参照)

 顔に泥を塗られた米国の政府関係者は憤っています。市場で「1997年のデジャヴ」が語られ始めたのも別段、不思議ではないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月30日 掲載

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