韓国で未だ続く“Me Too”で著名人が次々失脚 今度は国民的歌手を元ホステスが告発

韓国で未だ続く“Me Too”で著名人が次々失脚 今度は国民的歌手を元ホステスが告発

元ホステスに告発されたキム・ゴンモ(EXPO 2012 YEOSU KOREA[CC BY 2.0 KR])

■海外からも注目される韓国の“MeToo ”のいま


 元TBS記者・山口敬之氏からのレイプ被害を訴える民事訴訟を起こしていた女性ジャーナリスト・伊藤詩織氏。2019年12月18日に東京地裁で勝訴を勝ち取ったニュースは、「日本を代表する“MeToo”訴訟」として世界各国のメディアに取り上げられた。

 韓国も、この訴訟に大きな注目を寄せた国の1つだ。韓国では日本と比較にならない勢いで性的被害の告発=“MeToo”旋風が吹き荒れており、国民の関心も非常に高い。同年12月4日には国際刑事裁判所(ICC)で諮問官を務めた米ミシガン大学ロースクール教授が、韓国紙のインタビューで「世界が韓国の“MeToo”運動に注目し、見習うべき」と述べた。同月25日にはまた米CNNが、学校での“MeToo”運動を主導していた22歳の韓国人女性を「今年アジアで変化を起こした若い活動家5人」の1人に選んでいる。

 そんな韓国でいま世間を騒がしているのが、国民的歌手キム・ゴンモを巡る性的暴行疑惑だ。人気スターの性的スキャンダルに加えて、風俗店女性による告発という点でも注目されている。


■“MeToo”告発で表舞台から消えた各界の著名人たち


 韓国で“MeToo”が本格的に広まったのは、2018年。発端は、同年1月に44歳の女性検事が上司らのセクハラをテレビで告発したことだ。これと前後して、「似たような被害を受けた」との証言が各界に波及。ノーベル文学賞候補と期待された文壇の重鎮詩人コ・ウン、世界3大映画祭で受賞歴のある映画監督キム・ギドク、演劇界を代表する劇作家イ・ユンテク、スター俳優チョ・ジェヒョン、大統領候補とも目されたアン・ヒジョン前忠清北道知事らが相次いで告発を受けた。

 イ・ユンテクは2019年7月、強制わいせつの容疑で懲役7年の実刑が確定。チョ・ジェヒョンは2018年2月、訴えを全て認めて俳優を引退すると宣言した。アン前知事は2019年9月に最高裁で懲役3年6カ月、また女性検事に告発された元検事長は2019年7月の高裁で懲役2年の判決を言い渡されている。そのほか2018年3月にはベテラン俳優チョ・ミンギが数々の証言に追い込まれ、謝罪文を公表した後に自ら命を絶った。

 もちろん告発を不服として真っ向から対立する例も多い。コ・ウンは2018年7月、告発した女性詩人らを相手に10億7000万ウォン(約1600万円)の損害賠償請求訴訟を起こした。ただし1〜2審とも敗訴し、2019年12月に上告を断念したことが伝えられている。キム・ギドクも告発した女性及びテレビ局を相手に10億ウォン(約9400万円)もの損害賠償を求めており、こちらはまだ係争中だ。


■国民的歌手を告発したYouTubeチャンネル


 現在“MeToo”告発の渦中にある国民的歌手キム・ゴンモも、被害を主張する女性を逆に告訴し返している。その経緯は以下の通りだ。

 キム・ゴンモは1968年生まれの51歳。90年代にトップ歌手としての地位を確立、現在もバラティ番組をはじめ幅広く活躍する人気芸能人だ。2019年10月に13歳年下のピアニアストと入籍し、また注目を集めた矢先だった。

 その性的暴行疑惑を提起したのは、「縦横研究所」と名乗るYouTubeチャンネル。これは元保守系議員の弁護士カン・ヨンソクと元MBC記者キム・セインの2人が、政治から芸能まで刺激的な話題を取り上げる韓国の人気チャンネルだ。

「縦横〜」は12月6日に「衝撃の単独スクープ」と称して、ルームサロン(高級個室クラブ)のホステスだったという女性Aの証言を伝えた。それによるとキム・ゴンモは2016年8月に来店した際、ほかのホステスを退室させ、2人きりでAに性的な行為を強制したという。カン弁護士は12月9日、女性の代理人としてソウル中央地検に告訴状を提出。続いて翌10日には「縦横〜」がまた、2007年にキム・ゴンモに暴力を振るわれたという風俗店マネージャーの女性Bの証言を公開した。

 一方のキム・ゴンモは「被害女性が誰かも知らない」とし、同月13日にAを誣告罪などで告訴。だが16日になると、今度は別のユーチューバーがキム・ゴンモの性癖を暴露する元ホステス女性Cの電話インタビューを公開した。性的暴行があったルームサロンに一時在籍したというCは、店のマダムからキム・ゴンモが体毛を処理していない女性を好むと教えられたという。


■興味本位の報道に「無責任」との非難の声も


 告訴し返して以後、キム・ゴンモのスケジュールは相次いでキャンセルされている。2019年12月〜2020年2月に予定されていた全国ツアーは白紙に。疑惑が浮上した後にキム・ゴンモを出演させたバラエティ番組には視聴者の非難が殺到し、製作陣はそれ以降の降板を伝えた。本人の主張通り訴えが濡れ衣なら大変な損害だが、真相は裁判の結果に委ねるしかない。

 一連の騒動を巡り、興味本位な一部メディアの姿勢を非難する報道もある。疑惑を提起しているYouTubeチャンネルは放送法の対象外であり、テレビなど既存メディアのような規制ルールがない「野放し状態」。「縦横〜」はまた、これまで扇情的な見出しが批判を招いてもいる。その内容を深く吟味もせず右から左へ伝える報道姿勢は無責任ではないか、というわけだ。また告発者がルームサロンのホステスだった点について、「風俗店の女性との性的な行為が暴行になるのか」といった疑問を呈したメディアも複数あった。だがこれも、男性中心の歪んだ見方との批判を浴びている。

 2018年5月発表の調査結果 によれば、19〜69歳の62.0%が「韓国社会は女性に不平等」と回答。さらに79.8%の回答者が、「最近の“MeToo”運動を支持する」と答えた。男女の内訳は女性83.8%、男性75.8%だ。

 諸問題をはらみながらも、国民の高い関心と支持を背景に突き進んでいく韓国の“MeToo”運動。それがどんな変化を韓国社会にもたらすのか、注視していきたい。

高月靖(ノンフィクション・ライター)

週刊新潮WEB取材班

2020年1月9日 掲載

関連記事(外部サイト)