韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は「文在寅政権の無能、無策」と総攻撃

【新型コロナウイルス】韓国の新興宗教「新天地」で患者大量発生 文在寅政権に非難も

記事まとめ

  • 韓国大邱のキリスト教系新興宗教「新天地」の教会で、新型肺炎の患者が大量発生した
  • 一部の韓国人は、大量発生前から「政府が患者数を操作しているのでは」と疑いも
  • 保守派は4月の総選挙を前に「文在寅政権を揺さぶるチャンス」と非難の声を強めている

韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は「文在寅政権の無能、無策」と総攻撃

韓国で新型肺炎の患者が急増 保守派は「文在寅政権の無能、無策」と総攻撃

隔離施設のある鎮川では「第2の武漢にするつもりか」と地元住民が暴動を起こしてもいた

 韓国新型肺炎の患者が突然に増えた。4月の総選挙を前に「文在寅(ムン・ジェイン)政権を揺さぶるチャンス」と保守は非難の声を強める。大統領弾劾まで進みかねない「肺炎政局」が始まった。韓国観察者の鈴置高史氏が読み解く。


■「遠からず終息する」と語っていた大統領


鈴置:韓国の保守が「政府の無能・無策」の攻撃に乗り出しました。2月19日以降、新型肺炎の感染者が突然に増えたからです。ことに感染経路が分からない患者が登場し、国民の恐怖感が一気に高まりました。

 韓国で初めて新型肺炎が認定されたのは1月20日でした。患者の数は2月15日までは28人と比較的に少なかった。そのうえ、いずれも中国で感染して帰国した人やその家族・関係者らで、いわゆる「市中感染」ではなかった。

 2月11日から15日の間は新たな感染者も発表されず、韓国では「新型肺炎は対岸の火事で終わる」との見方が広がっていました。2月16日、17日、18日に新たな認定患者が出ましたが、それぞれ1人でした。

 2月13日に文在寅大統領が財界との懇談会で「国内での防疫体制はある程度、安定的な段階に入ったようだ。防疫当局が最後まで緊張を解かずに最善を尽くしているので、新型肺炎は遠からず終息するでしょう」と手柄顔で楽観して見せたことも、韓国人の安心に拍車をかけました。

 2月19日には秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官がラジオ番組のインタビューで、「国際社会も韓国の感染拡大遮断について、かなり効果があると評価をしている」と誇りました。

 同日、与党「共に民主党」の李海?(イ・ヘチャン)代表も「感染者が出て1か月になったが、政府も一所懸命やってきたし、国民もよく対応した」と自画自賛しました。


■第3の都市、大邱が大量発生地に


――ところが……。

鈴置:そう、ところが、なのです。2月19日に感染認定患者が正式発表ベースで突然、20人増えました。翌20日には53人も増加して合計104人に。初の死亡者(1人)も出ました。21日には感染者はさらに100人増えて、合計204人となりました。

――なぜ、急増したのでしょうか。

鈴置:慶尚北道の中核都市で、韓国で人口が4番目に多い大邱(テグ)の、新天地というキリスト教系新興宗教の教会で患者が大量発生したからです。密閉空間に千人もが密集してミサを開く慣習のため、一気に感染が広がったと韓国メディアは報じています。

 2月19日と20日の2日間だけで、大邱市を含む慶尚北道では72人の新型肺炎患者が見つかりました。大邱市長は21日、市民に外出を自制するよう呼びかけました。なお、同日以降は患者の「発見」が全国に広がっています。

 実は、一部の韓国人は大邱での大量発生前から「政府が患者数を操作しているのではないか」と疑っていました。韓国政府は毎日、午前と午後の2回、新規の患者数と回復して退院した患者の数、それに検査中の人の数を発表しています。

 検査中の人が数百人にのぼるのに、2月11日からの5日間は新規の患者がまったく増えなかった。そこでネット上には「陽性になった人も、陰性になるまで検査を繰り返しているのではないか」と疑う声があがっていました。

 例えば、ポータルサイト、ネイバーの「速報・大邱東山病院、コロナ19が疑われる患者の判定保留…19日再検査予定」(2月19日、韓国語)にこうした意見が書き込まれています。

 そもそも検査対象者も2月7日までは「中国湖北省を14日以内に訪問した人と、患者との接触者」に限定していたのです。「市中感染はあり得ない」との前提で検査していたわけです。


■我々は先進国民になった


――しかし、政府が患者数を操作するなんて……。

鈴置:韓国人はそう疑うものです。2015年のMERS(中東呼吸器症候群)の社会的な後遺症です。当時は186人が感染者と診断され、37人が死亡しました。隔離された人は1万6693人にのぼりました。いずれも日本の国立感染症研究所が発表した数字です。

 前の朴槿恵(パク・クネ)政権時代の出来事ですが、当時、野党の大物だった文在寅氏は激しく保守政権の無能・無策を非難した。今回、同様の感染症が大流行すれば、文在寅政権は何と言って非難されるか分からない。そこで「数字の操作」が疑われたのです。

 それに国民の中にも「患者の増加」や「市中感染の発生」を認めたくない空気が濃かった。MERSの際は日本で患者が発生しなかったこともあって、いたく韓国人のプライドが傷つきました。

 当時、WHOは病院内での感染予防策が不十分であることや、見舞客が長時間、患者と接する習慣などを韓国で大流行した原因と見なしました。

 隔離された患者が病室の鍵を壊して脱走するなどの事件も起きたため、韓国紙には「民度の低さ」「国の後進性」を嘆く声が満ちました。

 韓国人は5年後の今、「新型肺炎を上手に抑えた」ことで「もう我々は先進国民になったのだ」と祝杯を揚げる気分になったのです。


■日本に勝った!韓国が上だ


――そんなことで「先進国になった」と言えるのでしょうか?

鈴置:韓国での感染者数が落ちついていたのに比べ、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での感染も含め、日本で患者数が増え続けたからです。

 韓国人はどんなことでも日本と比較します。今回は「MERSでは負けたが、新型肺炎では勝った」と快哉を叫んだのです。

 元・在日韓国人で「The Korean Politics」編集長の徐台教(ソ・テギョ)氏は2月14日、日本語のツイッターで以下のようにつぶやきました。

・今のダイアモンド・プリンセス号と同じことを、韓国で、文大統領がやっていたらと考えてみてください。日本のワイドショーはずっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と付きっきりで取り上げるでしょう。「韓国検疫崩壊」とか言って。

「日本検疫崩壊」と当てこすったつもりでしょう。徐台教氏は翌2月15日にも、韓国がなぜ日本と比べうまくやっているかをツイッターで説明し、誇りました。以下です

・韓国政府は4月15日の総選挙を控え、感染拡大への対策において失態が許されないという緊張感があるのも大きい。さらに、過去のSARSやMERSを通じ整備された国家システムがある程度の水準で機能している。
・コロナウイルスに対する日韓の対応の差の一つは、予算投入の差というのは明白。具体的には調べていないが、韓国は1/28の段階で20億円以上を、その後も矢継ぎ早に予算を出し、さらには2000億円を超える予備費の投入も見越している。ニュースにも「〜〜自治体がコロナに〜〜億を投入」というのが目立つ。


■日本に五輪開催の資格なし


――なるほど……。「韓国はすごいぞ」ですね。

鈴置:韓国各紙も「優れた韓国、劣った日本」を争って報じました。中央日報の「クルーズ船内の日本人乗客『これでは五輪開催できない。国際社会が強く問題提起を』」(2月15日、日本語版)はダイヤモンド・プリンセス号に乗っているという匿名の日本人の感染管理への不満と、日本は東京五輪を開く資格がないとの批判を報じました。

 朝鮮日報の「衛生先進国、日本が赤恥…米国に続き、カナダ、香港、台湾もクルーズ脱出作戦」(2月17日、韓国語版)はダイヤモンド・プリンセス号の外国人を下船させるため、各国が航空機を派遣する状況を「日本が赤恥」との見出しで報じたのです。

 中央日報の「韓国政府、日本政府に『新型肺炎の診断試薬の開発情報を提供する』」(2月18日、日本語版)は以下のように「韓国が上、日本が下」を強調しました。

・韓国では新型肺炎に感染したかどうかを6時間内に確認できる迅速診断試薬が開発されて今月から民間の医療機関に配布されたが、日本にはまだ迅速診断試薬がないことが分かった。

 日本でも6時間で診断できますから、この記事は間違っています。事実には関係なく「韓国が上で日本が下」と断じて喝采を叫ぶのが韓国メディアなのです。

 こうした上から目線の空気の中、2月18日には与党「共に民主党」の鄭春淑(チョン・チュンスク)議員が国会で「日本も新型肺炎の市中感染が始まっている。中国同様に汚染地域に指定すべきだ」と主張しました。

 朝鮮日報の「与党議員、『日本も新型肺炎の汚染地域に指定すべき』」(2月19日、韓国語版)が報じました。この記事は姜京和(カン・ギョンファ)外交部長官の「中国から要請があれば、医療陣の派遣を積極的に検討する」との国会答弁も伝えています。

「先進国である韓国と、遅れた日本や中国」という図式を、韓国人は国を挙げて楽しんでいたのです。


■中国人の入国を全て止めよ


――それが2月19日に暗転した。

鈴置:その通りです。韓国人は、それまでそっくりかえって日本を見下していただけに、「無能・無策」の文在寅政権への怒りも膨らみます。

 2月20日午後、感染者の合計が104人になったことを報じた朝鮮日報の記事「武漢肺炎の(午後の)新規患者22人追加…全部で104人」(2月20日、韓国語版)が象徴的でした。

「日本のクルーズ船を除けば、韓国は中国に次いでもっとも多くの感染者が発生した国になった」と「日本に負けた」ことを強調したのです。

 感染者が広範囲に広がった国同士で「数」で序列を付けてもあまり意味はない。きちんと検査すればするほど、感染者数は増える側面があるからです。

 しかし、保守系紙の同紙はこれをテコに、政権批判に乗り出しました。2月20日の社説「広がるコロナ、中国感染源の流入放置を説明して欲しい」のポイントが以下です。

・世界各国が中国からの訪問を禁止した。だが、我々は中国の顔色を見ながら相変わらず傍観している。1日2万人だった中国人の訪問客は減ったとはいえ、1日数千人のレベルだ。
・民間専門家に続き、政府の防疫責任者までもが中国という感染源の流入遮断の必要性を口にする。ところが政府は「湖北省以外の地域からの入国の禁止も検討する」と言い続けるだけだ。なぜ、中国という感染源の流入遮断をしないのか、政府は説明したことがない。
・2月19日、出入国を担当する法務部の秋美愛長官が「我が政府の措置に対し、中国側が格別に感謝している」と述べた。国民が病に罹る危険を覚悟の上で中国人の入国を防がず、中国からの感謝の言葉を貰ったと誇る。これが政府の認識なのか。

 なお、記事中の「民間専門家」とは大韓医師協会のことです。2月18日に会見したチェ・デチップ会長は「湖北省以外にも1万人の感染者がいる中国からの入国をすべて禁止すべきだ」と要求しました。


■習近平訪韓を守りたい


――なぜ、韓国政府は中国人全員の入国を拒否しないのでしょうか。

鈴置:日本がしないからです。湖北省からの外国人の入国禁止も、武漢への救援機派遣も、日本が実行するのを見てから韓国は実施する。

 日本よりも先に立って、中国の怒りを買うのが怖いのです。日本は浙江省にも枠を広げましたが、まだ、中国全土に広げていない。当然、韓国も全土には広げられないのです。

 なお、中国全土からの入国を禁止しているのは米国、シンガポール、豪州、ニュージーランド、フィリピン、台湾、ベトナム、モンゴル、ロシア、北朝鮮などです。

――日本より先に「中国全土からの入国禁止」を実行すれば、「日本よりも上」になれませんか?

鈴置:国内的には拍手喝采されるかもしれませんが、そんなことをしたら中国から激しくイジメられるのは確実です。文在寅政権は習近平主席の3月訪韓を強く希望しています。日本よりも「前」に出れば、少なくとも習近平訪韓はなくなるでしょう。

 日本とは異なり、韓国では保守も左派も皆、中国主席の訪韓は大歓迎。4月15日の総選挙を控え、文在寅政権にとっては数少ない票を稼げるチャンスであり、これを失うわけにはいかないのです。もちろん朝鮮日報もそれは分かっていて、あえて「政府は説明せよ」と迫っているのですが。

 野党第一党、未来統合党の黄教安(ファン・ギョアン)代表は2月19日、「中国全域に滞在した外国人の入国禁止」を政府に求めました。ここで一気に文在寅政権を揺すぶる作戦です。

 もし今後、韓国で感染者や死亡者が増え続ければ、文在寅政権は「国民よりも中国を大事にする」と強い非難にさらされるでしょう。


■「肺炎で一気逆転」狙う保守


 保守が4月の総選挙で負ければ、検事や裁判官を集中的に捜査する左派政権の「ゲシュタポ機関」が誕生し、窮地に追い込まれるのは目に見えていました(「文在寅政権が韓国の三権分立を崩壊させた日 『高官不正捜査庁』はゲシュタポか」参照)。

 そして選挙法の改革により、保守は総選挙で惨敗するとの見通しが高まっていた(「独裁へ突き進む文在寅 青瓦台の不正を捜査中の検事を“大虐殺”」参照)。

 ところが思いがけない新型肺炎の流行。4月の総選挙で、保守が勝つ可能性が出てきました。文在寅政権が新型肺炎でハンドリングを誤れば、弾劾に追い込まれることもあり得ます。韓国はムードが支配する国です。国の進路は「気分」で決まるのです。

 新型肺炎が政権を揺らす、という構図は韓国だけではありません。「震源地」の中国の習近平政権こそが最大の窮地に立っています。

 中国共産党は「我々の苦境に付けこむ米国」を強調、愛国心の高揚で非難の矛先をそらす作戦です。しかし中国共産党の情報統制こそが、発表ベースで2233人もの死者を出す(2月21日段階)という惨事を引き起こした事実は隠しようがない。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権も新型肺炎の蔓延を防ぐために「鎖国」を実施しました。ただでさえ苦しい経済をさらに圧迫するのは間違いありません(「新型肺炎で中国、南北朝鮮が連鎖倒産に追い込まれる? 米国は“カメの論理”で舌なめずり」参照)。


■東アジアの政治地図を塗り替える


 日本の安倍晋三政権も安泰ではありません。「肺炎」以前から、習近平主席の国賓訪問には、自身の支持層である保守から強い批判が出ていました。

 ウイグルや香港での人権弾圧の総元締めであり、日本の尖閣列島に触手を伸ばす中国共産党。そのトップの習近平主席と天皇陛下のツーショットが世界に流れれば、日本がそれらを認めたと世界に発信することになるからです。

 そこに新型肺炎。韓国での政権批判と同様に「習近平訪日を実現するために、中国全土からの訪問を拒否しないということか」「国民より中国が大事か」との安倍批判が日本でも語られ始めています。

 後世の歴史家は「新型肺炎が東アジアの政治地図をがらりと描き変えた」と書くことになるのかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年2月21日 掲載

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