韓国の不買運動1年、日本企業の支援なしに不買は成立しないという皮肉

■矢面に立たされたアサヒビールとユニクロ


 韓国で日本製品不買運動がはじまってちょうど1年。日産やオリンパスカメラ、GUなどが韓国事業から撤退する一方、任天堂の家庭用ゲーム機やゲームソフトが伸びるなど、日本ブランドの明暗が分かれている。その背景には、韓国独自のカルチャーが影響し、不買ひとつとっても、日本の企業の支援なしには成立しないという皮肉が見え隠れする。現地在住の広告プランナー・佐々木和義氏の論考。

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 Nintendo Switchは中国で新型コロナウイルスが拡大した2月に生産が停止して供給が滞ったが、2020年第1四半期の韓国内販売数は前年同時期と比べて30.4%増え、「あつまれ どうぶつの森」などゲームソフトも57.4%増加した。大気汚染の深刻化で外出が難しくなったところに新型コロナウイルスが追い討ちをかけたのだ。

 アサヒビールは売上が20分に1に落ち込んだ。アサヒビールは2018年第4四半期に458億8400万ウォン(1ウォン=0.09円)を売上げて韓国ビール市場で3位に浮上したが、2019年の第4四半期は22億6600万ウォンにとどまり、ロッテのクラウド、青島、ハイネケン、ベルギー・ステラアルトワなどに引き離された。

 韓国ユニクロも不買運動の矢面に立たされている。
 不買運動家がユニクロ店舗前に陣取り、入店客を監視した。消費者は利用を避け、ユニクロ店舗の売上がマイナス70%に落ち込んだ。減少幅は無印良品の58.7%減やABCマートの19.1%減よりはるかに大きかった。
 韓国ユニクロは、不買運動がはじまった直後に3店舗を閉鎖。いずれも賃貸契約の満了に伴う閉店だが、韓国のマスコミや消費者は不買の成果と狂喜した。
 一方、不買運動の開始から3か月が経過した10月半ば、各店のレジに行列ができた。韓国進出15周年を迎えた大規模な割引イベントを行い、さらに翌11月にはヒートテックの無料配布を実施したのだ。

 ABCマートは、不買運動がはじまった直後に落ち込んだが、徐々に回復して、19年度の売上はわずかながらも前年を上回った。ユニクロや無印良品は、自社製日本ブランドを販売するが、ABCマートはナイキやホーキンスといった日本以外のブランドも販売しており、日本企業という意識が薄い消費者が少なくないのだろう。

■代替品があるか否か


 韓国の不買運動は、以前にもあった。戦後50年の節目である1995年と「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書が検定に合格した2001年、島根県が「竹島の日」を制定した05年に一部の市民団体が不買運動を提唱したが、いずれも不発に終わった。

 李明博元大統領の竹島上陸を機に日韓関係が悪化し、朴槿恵前大統領が告げ口外交を展開した2013年にも市民団体は不買を提起したが、1日で終わっている。

 韓国の不買運動は代替品が影響する。2013年の不買は消費者がそっぽを向いた。アサヒビールより味が劣る韓国ビールをなぜ飲むのかと反論したのだ。一方、今回は状況が変わっている。青島やハイネケンのほか、さまざまなビールが市場に出回り、日本ビールを飲まなくても代替品はたくさんある。

 韓国ユニクロはヒートテックが売上を牽引する。
 韓国首都圏の冬は氷点下10度以下まで冷え込むからだ。2010年頃から中高生の間で、寒さ対策としてアメリカブランドのノースフェイスが流行した。ノースフェイスを着ていない生徒はいじめに遭い、ノースフェイス欲しさに盗みで捕まる中高生すら現れた。寒さ対策の主役が高価なノースフェイスから安価で誰もが手に入れることができるユニクロのヒートテックに変わると、いじめはなくなった。ヒートテックは、韓国の冬になくてはならないアイテムになったのだ。

 不買運動がはじまった暑い盛りの7月には、ユニクロの代替となる商品はたくさんあったが、ヒートテックを代替する品はない。冬仕度がはじまる10月になり、消費者が戻りはじめた。しかし、2019年から20年は暖冬で韓国ブランドでも対応できた。極寒だったら売上げはさらに戻っていただろう。

 クルマ業界も光と陰がはっきりとしている。韓国日産は不買と新型コロナのダブルパンチで先行きが見えなくなって撤退に追い込まれたが、トヨタのレクサスは客足が戻っている。
 2017年5月に就任した文在寅大統領は、環境対策車の普及を公約に掲げている。米テスラが上陸し、各メーカーは電気自動車を投入したが、充電インフラに不安を感じる人々は、ハイブリッド車を選択した。ハイブリッド車はトヨタとホンダ以外に選択肢はない。

■不買で売上を伸ばした日本企業


 日本食も明暗がくっきり分かれている。日本料理店は客足が落ち、スーパーから日本の食材が姿を消した。日本食材を輸入する某大手商社では、消費期限が切れて廃棄処分を余儀なくされた食品が15億ウォンに達している。

「不買運動に参加する」と答えた消費者は最大70%に達している。したがって日本食を好む人たちが、飲食店に出入りする姿を見られることを懸念したのは無理からぬことだろう。

 ソウル西部の江西区で、不買運動が盛り上がっているのにもかかわらず、売上を伸ばした店がある。店主とすべてのパートは日本人で、日本の家庭料理や惣菜を提供する。同店は、不買運動がはじまる少し前に出前代行サービスと契約していた。

 店内での食事は店に出入りする姿が人目につくが、出前代行サービスを利用すると第三者が出前メニューを知ることはできない。注文主は人目を気にせず、日本食を楽しむことができるのである。

 不買運動で日本ブランドを販売する企業がダメージを受けた一方、売上がプラスとなった企業もある。
 ソウル市中区庁は「NO JAPAN」旗を1100枚発注し、韓国中に「ボイコットジャパン」や「NO JAPAN」と印刷された横断幕やポスター、ステッカーが氾濫したが、ソウルの中区で旗に印刷できる印刷機は日本製しかなく、ポスターやステッカーを印刷する機械もほとんどが日本製で、日本企業が印刷原料を供給している。

 日本企業の支援なくして、不買運動はできないのである。

佐々木和義(ささき・かずよし)
広告プランナー。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、住宅・不動産広告等のプランナー兼コピーライターを務めた。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い駐在員として2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、広告制作会社PLUXの設立に参画し現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月5日 掲載

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