文在寅大統領に「靴を投げたおじさん」単独インタビュー…

■「靴投射」「靴烈士」と呼ばれて


 7月16日午後3時過ぎ、ソウル永登浦区の国会議事堂本館前。文大統領は国会で開院演説を終えた後、与野党の代表と歓談し、議事堂を出るところだった。それを待ち受けていたのが、他ならぬ、家出青少年を支援する市民団体「肯定の力」のチョン・チャンオク代表。彼は、自分の黒い靴を脱ぎ、文大統領に向かって投げた――。このほど、当のチョン代表が単独インタビューに応じ、「文大統領に靴を投げた理由」について率直に語る。

 ***

 靴は文大統領に当たることはなく、代表は文大統領に、「共産主義者・文在寅」と叫んだ。国会職員と大統領府の警護員らは代表をすぐに制止したが、代表は「共産主義者・文在寅を自由な大韓民国からすぐに追い出さなければならない」「偽の平和主義者偽善者・文在寅」などと叫び続ける。代表は直後に一旦拘束され、公務執行妨害、建造物侵入、侮辱罪の容疑で逮捕状が出された(19日に令状が棄却され、釈放)。

 図らずも、韓国国家元首に関するセキュリティの甘さを露呈した恰好だ。これが靴でなく凶器だったなら……。

 保守支持層は代表を「靴投射」「靴烈士」と呼んで彼の行動を評価するが、大統領の擁護派は当然、彼を「靴テロリスト」と批判。いかにして、彼が「靴投げおじさん」となるに至ったのか。以下の一問一答を通じて見ていくことにしたい。

――まずは、自己紹介をお願いします。

 1963年生まれで満57歳。京畿道安山で家出青少年支援市民団体「肯定の力」を運営しています。自費を投じて家出青少年たちの才能を発掘して教育する。私は男の子、妻は女の子の担当です。ダンスや音楽などに関心を示す青少年が多く、彼らを積極的に支援しています。

 過去、韓国で「セウォル号事件」が発生した後、被害者を追悼する平和コンサートを開きました。しかし、事件が特定の政治勢力に利用されてしまったので、そういった活動からは手を引くことになりました。

■平和統一を望む一国家の元首としてふさわしいのか


 また、昨年8月に設立された北朝鮮人権団体「南北共に国民代表」の共同代表を務め、脱北者らと北朝鮮の人権改善運動を行っています。最近は「北朝鮮人権平和コンサート」を光化門、江南、安山中央の各駅で企画、中国国境地帯における脱北女性の人身売買と搾取問題を伝えています。

――文大統領に靴を投げることにした過程は?

 元々、彼にではなく、普段からその行動に憤っていた国会議員らに靴を投げに行ったんです。しかし、コロナ禍ゆえに国会内への進入が難しかった。そうこうしているうちに、文大統領がやってきまして……。全く計画的なものではなく、衝動的に靴を投げることになりました。

 連行の過程で、警察とボディーガードの4人に口と鼻の周辺を手で塞がれ、首の後ろを強く押さえられ、現在、肩と腕のほうにかなりの痛みを感じます。単に「靴を投げた」という理由だけで、裁判所に拘束令状が請求されたことに強い遺憾を表したい。また、逮捕当時、私服警察が私に「暴行罪が適用される」と言いました。自由民主主義国家で大統領に抗議したことがなぜ暴行罪になるのか聞きたい。長い間、人権運動をしてきましたが、このようなケースは初めてで、軍事独裁時代よりもひどい人権弾圧を受けている。

――衝動的とはいえ、文在寅大統領に対し「偽の平和主義者偽善者」などと、口を極めて罵っています。普段からそのようにお考えになっていたのでは?

 文政権は実質的な効果をあげるどころか、南北共同連絡事務所爆破につながって事実上失敗することになった「南北対話」に執着してきました。その結果、脱北者を抑圧し、北の人権問題に沈黙してきたのです。韓国政府は、北朝鮮に向けてビラを送った脱北者団体の捜査を警察に依頼し、団体法人設立許可の取り消し手続きに入りました。

 さらに、北朝鮮のミサイルによる挑発に対して何度も知らないフリを決め込み、最近は親北主義者らで大統領府の外交安保ラインを固め、北の独裁政権の好みに合わせるばかり。これらは明白な表現の自由抑圧であり、脱北者への弾圧に他なりません。

 昨年、残酷極まりない脱北母子餓死事件や脱北青年強制送還事件が起こりました。脱北者の包容をやめるという傲慢な考えにしか映りません。これが、自由民主主義に基づいて平和統一を望む一国家の元首としてふさわしい公明正大な行動なのでしょうか。

■脱北女性の人身売買問題はスルー


――なるほど、普段から大統領への不満を持て余していたということですね。文政権になって日韓関係は悪化の一途をたどっています。また、大統領による親日勢力の清算などには様々な論争がありました。

 文大統領は就任以来、抗日独立運動を称えて親日派を粛清しなければならないと主張してきました。文大統領は自分を支持する人々を抗日に、支持しない者を親日として、ふるいにかけたのです。衝撃的なのは、昨年の「3・1節(独立運動記念日)100周年記念式典」で、「あまりにも長く延ばしてきた親日残滓の清算については反省し、独立運動は高く評価されなければならない」と公に宣布したことです。

 植民地支配から2世紀近く経ち、韓国は日本と国交を正常化し、経済、文化的に正常な交流を続けています。北朝鮮の金日成もまず親日派を清算し、これを独裁体制構築の一里塚としました。これを振り返ると、文政権が推進する親日勢力の清算は結局、北朝鮮のような独裁体制を目指していると見て何ら不自然ではないでしょう。

――脱北女性の人身売買などの性搾取問題に反対し、人権運動を展開中だと聞いています。これを無視してただ慰安婦被害者問題にだけ執着する文政権に対して評価するなら…。

 2017年5月に文政権は発足し、朴槿恵政権時代に締結された2015年の「慰安婦合意」を事実上廃棄しました。一方、今年6月8日、いわゆる「慰安婦被害者後援金を巡る議論」が起こると、「慰安婦運動の大義は堅固に守られなければならない」と直接、事態収拾に乗り出すことまでしたのです。

 文政権が疎かにした結果、脱北者は逼迫した状態に置かれています。特に女性たちは、中朝国境地帯でブローカーに人身売買され、サイバー性犯罪に動員されているのが実情。

 各種海外報告書などを総合すると、9歳の幼い少女から20代初めの女性がわずか数十万ウォンから数百万ウォンで売られ、サイバー性犯罪、強制結婚、売春などをさせられています。

 慰安婦事件よりももっと深刻な脱北女性の人身売買などには口をつぐみ、反日を扇動して慰安婦問題には口を挟み続ける文政権には、憤りしかありません。

 告白を受けて……。大統領への靴投げは計画通り、確信犯だったように聞こえる。

張惠媛(チャン・ヒェウォン)
建国大学広報大学院でジャーナリズムの修士号を取得、漢陽大学政治外交学科大学院で国際政治を専攻。現在フリー記者として活動中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月21日 掲載

関連記事(外部サイト)