コロナ感染報道のカゲで…金与正、女帝へのカウントダウン、建国以来の人事敢行

北朝鮮で建国以来最大となる大規模人事 金正恩氏から金与正氏に権力譲渡されたか

記事まとめ

  • 金正恩氏が北の玉座から消えて100日が経ったが、大規模人事が敢行されたという
  • 党政治局委員、候補委員、検事委員会委員など、少将以上の88人が新たに交代
  • 正恩氏が関与していないことは明らかで、金与正氏が実質的トップに立った証拠とも

コロナ感染報道のカゲで…金与正、女帝へのカウントダウン、建国以来の人事敢行

 金正恩は7月25日、労働党中央委員会政治局非常拡大会議を緊急招集。新型コロナウイルス感染症と疑われる脱北者が、開城(ケソン)を通じて軍事境界線を越えて北へ入ったことに関し、国家非常防疫体系を「最大非常体制」に転換することにしたという。もっとも、これを真に受けるわけにはいかない。金正恩が北の玉座から消えて100日が経ち、時折報じられるニュースにも画像の加工などが施されていることが分析の結果、明らかとなっている。加えてこの間、北では建国以来最大となる大規模人事が敢行されていた。北で博士号を取得した、北ウォッチャーの第一人者によるコンフィデンシャル解説。

 北ではこれまで「コロナ感染はゼロ」と対外的に表明してきました。それが急転直下、感染疑いの脱北者が見つかり、最大規模の隔離を行っていると言います。そういった“変節”と金正恩の“不在”とは無縁ではありません。

 金正恩の動静を伝える公開情報に奇妙なパターンが現れ始めてから、すでに100日が経過しました。

 この3カ月を超える雲隠れの間に、ピョンヤンで非常に不可思議な出来事が起こっています。

 具体的には、大々的な側近の入れ替え人事が行われたこと。対象となった高位級幹部の数は、なんと125人に及びます。これほどの大規模な人事は北朝鮮建国以来、前代未聞のことです。

 金正恩の対外活動はほとんどないに等しいレベルにまで減少し、北朝鮮自体、諸外国との対話を一切拒否しています。そんな状況で人事異動がなぜ必要なのでしょうか。

 新たに入れ替えられたのは党政治局委員、候補委員、検事委員会委員、党中央委員会副委員長、委員、そして軍将官にまで及びます。

■米国と対決のため全面的に人事を行った直後に…


 金正恩政権では、2008年に軍将官の大きな交代人事を行ったのがこれまでの最高記録でしたが、その時でさえ35人ほどでした。しかし、今回は少将以上の88人が新たに交代しています。

 北朝鮮にも人事にルールがあります。いつでも更迭・任命できるのは独裁者の裁量ですが、それでも4月15日の太陽節(キム・イルソンの誕生日)や2月16日光明星節(キム・ジョンイル誕生日)などの国家記念日に合わせるか、もしくは事案が急を要する場合には、内部的に人事措置を行います。

 4月11日に実施されたのは17人の異動。これは4月15日に合わせたものだとしても、88人だった5月23日、20人の中央党高位級幹部を入れ替えた6月7日には、いかなる特別なきっかけもないのです。

 その一方で、2月29日の人事の場合は、金日成高級党学校をはじめとする幹部養成機関から巨額の賄賂を受け取り、学生を大学に裏口入学させたイ・マンゴンとパク・テドクの不正事件が起きたすぐ後でした。この一件はスピードが求められたわけで、慣例やルールにとらわれることなく行われたと言えるでしょう。

 しかしながら、この3カ月間の高位級幹部の入れ替えはただ事ではありません。ここまで急いて側近を全面的に交代させたのは誰だったのでしょうか。

 金正恩が関与していないことは明らかです。金正恩は昨年12月28〜31日まで行われた党中央委員会第7期5次全体会議で、今年はアメリカとの対決を準備し、適材適所で自分を補佐する幹部を揃えるべく、全面的に人事を行いました。

 ところが、数カ月も経たないうちに、また、アメリカとの対決が特段発生していない中で、これだけの人間を交代させる理由がありません。金正恩に反発する大きな反体制組織を摘発し、関係者を全員処罰した、ある意味で非常事態でなければ考えられないことです。

■金正恩から金与正に権力が譲渡されたから


 金正恩以外でこれほどの大胆人事が行えるのは、金与正・朝鮮労働党第1副部長しか考えられません。北朝鮮で金正恩に次ぐナンバー2です。

 最近では、政策決定や人事までを含めた中央党の決済ラインが金与正に集中しています。数カ月前に金正恩が行った人事を覆し、自身の側近を配置させたのは、金正恩を超えて北朝鮮の実質的なトップに立っている証拠です。

 彼女がなぜ、これほどまで思い通りの権力を行使できるのでしょうか。

 可能性はただひとつです。一時的であることの可能性は低く恐らく恒久的に、金正恩から金与正に権力が譲渡されたからです。

 金正恩に深刻な健康不安がなく、健康回復が予測でき、その期間だけ治療を行うために表舞台から姿を消しているのならば、金与正がこれほどまで大規模な入れ替え人事を行うことはできません。

 裏返せば、金正恩の健康は短期間で回復するのは難しいほど深刻だということです。ここ最近の北朝鮮のおかしな人事変更、統治形態を注視すれば、おのずと秘中の秘が明らかになるでしょう。

金興光(キム・フンガン)北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月26日 掲載

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