金正恩がダマされた…外国スパイ機関が仕掛けたリゾート詐欺でドル金庫は空に

■いかにして工作に巻き込まれたのか


 M資金とか怪しい詐欺案件はいつの時代も消えることはなく、知識も分別もある経営者や著名人があっさりダマされ、ニュースになることはよくあった。もっとも、ダマされたのが金正恩第一書記だとしたらどうだろう。外国人実業家と組んで国際温泉リゾート計画を始めようとしたものの、当の実業家が外国の情報機関の人間だったという。要するにスパイにいいようにやられた挙句、違法行為でシコシコ貯めこんだ虎の子のドル資金が底をつきそうな状況のようで……。

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 今日は、北朝鮮が国際観光温泉リゾート開発のために莫大な資金を投入したものの、情報機関の工作にハメられ、カネをドブに捨てることになった話をします。

 陽徳(ヤンドク)の国際温泉リゾート事業は、もともと、北朝鮮が外貨稼ぎの一環として行っている「美人局」の女性が端緒になったといわれています。喜び組に所属する「キム某」という女性が接待対象の外国人実業家から、金正恩の興味を引きそうな温泉観光リゾート計画の提案を受け、そのことを上層部に報告したのです。

 その上層部は「中央党9局」という部署。「国際温泉マニアグループ会長」といういかにも怪しげな肩書きを名乗る外国人実業家は、「北朝鮮の平安南道という郡にある最高泉質の温泉地に国際的な基準を満たす温泉リゾートを作れば、自分たちが温泉好きの富裕層を呼び込む」と提案。中央党9局は件の実業家に会い、プランの実現性と収益構造を多角的に検討し、彼の身元確認まで済ませたとのことです。

 事業提案は、9局の管理組織である中央党を経て、最終的に金正恩に報告されました。金正恩はかねてリゾート開発としては「元山カルマ観光特区」に集中投資してきたのですが、結果は芳しくなく、虎の子である手持ちの米ドルも底をつこうとしていました。

■総額2億ドル、今年1月オープンも外国人はゼロで…調査結果を聞いた金正恩は


 追加投資に対して消極的であった金正恩を側近たちは「必ず大ヒットする」と根気強く説得。崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員会委員長までもが強く主張したため、しぶしぶゴーサインを出しました。

 とはいえ、あまりにも巨額の資金が必要なため、下手をすれば金正恩の外貨金庫は完全に干上がってしまう危険性もあります。国際基準を満たすために投じた額は2億ドル近かったそうですから。

 最終的に国際温泉リゾートの建設地を陽徳郡の石湯(ソクタン)温泉に定めました。近隣の元山カルマ観光特区と連携すれば、大きなシナジー効果を生むという算段があったのでしょう。2019年12月7日、金の卵を産むはずという野望の下、陽徳国際温泉リゾートを竣工しました。

 しかしながら、不幸にもそれは金正恩にとって金の卵を産むガチョウではなかったようです。国際基準を満たす温泉リゾートを建設したものの、海外からの観光客を誘致すると豪語していた外国人実業家からは突然連絡が途絶え、彼らは行方をくらませてしまいました。

 本来なら2019年12月から、毎月数百人規模でまずは海外の温泉マニアを招待してアピールすることになっていたそうです。連絡が途絶えた国外の実業家を捜す一方で、リゾート施設を遊ばせておくわけにもいかず、国内のテレビで宣伝すると共に、半強制的に利用客を集め始めました。

 結局、2020年1月10日、国際温泉リゾートはオープンしましたが、1日に数百人が来るはずだった外国人観光客は、ただの一人もいません。異常事態を把握した金正恩は、中央党と中央検察所に指示を出して合同調査団を組み、海外パートナーであった外国人実業家に対する徹底した調査を行いました。

 そして、調査報告を聞いた金正恩は怒り狂ったそうです。彼らは国外の実業家を装った情報機関メンバーであり、金正恩の外貨金庫の米ドルを無駄に使わせて空にするのが目的であったことが明らかになりました。

■大掛かりな詐欺に遭った金正恩の反応は?


 北朝鮮の統治者である自分が、他国の情報機関に翻弄されたという事実に彼の腸は煮えくり返ったことでしょう。当然、彼にリゾート開発を進言した側近らの立場も悪くなりました。

 中央検察所は、中央党9局に所属する女性工作員「キム某」を2週間以上に亘って調査したと発表しました。彼女だけでなく、少しでもプロジェクトに関わりがあった者はすべて当局に拘束されたとのことです。

 合同調査団は、調査過程で、陽徳温泉リゾートの建設において金正恩の革命資金(と言っても要するに違法行為で作った金庫の米ドル)が適正に使われたかも調査しました。その中で、スキー場などの施設だけでなく、広範囲に亘って水増し価格が適用され、工事が行われていたことが発覚しました。

 加えて、建設指揮部の幹部と建設部隊の将校らが巨額の金を着服した事実も明らかになっています。金正恩の革命資金の着服は罪状をさらに重くします。主導した5人は、家族も含めみな政治犯収容所に入れられました。党の革命資金に目をつけ、横領した者たちの運命がどうなるのか、見せしめにしたということです。

 2月29日には党政治局会議を開き、李万建(イ・マンゴン)と朴泰善(パク・テソン)の両副委員長らは不正と腐敗の罪名で解任・更迭、崔竜海・最高人民会議常任委員会委員長には厳重警告を与えるなど、今回はかなり大規模な粛清であったといいえます。

 調査は現在も進行中ですが、今後どれだけ多くの側近たちが粛清対象になるかはわかりません。ひとつ確かなのは、外貨への執着と貪欲さを放棄しない限り、金正恩は今後も自ら災いを招くことになるということでしょう。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月8日 掲載

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