韓国「徴兵制」まもなく70周年 軍と兵役は最も不正が深刻だとされる理由
2020年10月11日 05時58分 デイリー新潮

入隊式
■「韓国は先進国と言う人がいるが、軍隊は人権蹂躙でしかない」
韓国は国家が個人の自由に干渉することが多く、世界でも数少ない独特な状況にいまだにおかれている。なかでも軍隊は、韓国で徴兵制が始まって以来、解決しなければならない課題が多い分野である。近年、募兵に関してさまざまな議論が出されているが、軍人の処遇改善が遅れていることに変わりはない。
韓国では、光化門や江南駅などの人が多い繁華街で「K9自走砲やK1戦車を運転できる人は手を上げてください」と叫ぶと、少なくとも20人以上が手を上げるという話が冗談みたいに語られる。
銃を撃った経験を問う質問は子供だましみたいなものだ。
韓国社会で、軍隊は男性にとって特別な意味を持ち、また、敏感なテーマなのだ。
筆者は26か月、陸軍に勤務した。
下士以上の副士官と将校は職業軍人で、今回、取り上げるのは二等兵から兵長までの徴兵による軍人である。
いまは服務期間が大幅に短縮され、陸軍は18か月となった。
韓国の徴兵制は1951年に始まり、陸軍、海軍、海兵隊、空軍、常勤予備役、義務警察、義務消防、海洋義務警察など多様で、服務期間は所属する軍によって18か月から21か月となっている。
服務期間後の8年間は予備役に、また満40歳まで民防衛に参加することが定められており、兵役は満18歳から始まり、終わるのは満40歳である。
韓国は先進国と言う人がいるが、軍隊は人権蹂躙でしかない。
最も血気盛んな10代末から20代前半に入隊し、社会のどん底に落ちるといっても過言ではない。
義務という名の下、韓国の健常な平均男性は集団生活をしながら、少なからぬ時間を国家のために費やさなければならない。
■服務期間中に負傷し、個人が治療費を負担しなければならないケースも
一番の問題はそれに伴う補償や処遇が非常に小さいことである。
国家は国民の義務を掲げて若者に時間を割くよう要求するが、軍隊を終えても保証など得られるものはほとんどない。
さらに、服務期間中に負傷し、個人が治療費を負担しなければならないケースすら珍しくない。
最低賃金に及ばない給与と劣悪な環境、自由が剥奪された状態で1年以上を過ごす軍隊は決して良いとはいえない。
いまはかなり改善されたが、2020年時点の兵長の月給は54万ウォン(1ウォン=0.09円)水準で、二等兵は40万ウォン程度しかない。
筆者が服務した当時(1998年から2000年頃)、兵長の月給は1万3000ウォン程だった。
兵役を終えると公務員試験を受ける際などに得られた軍加算点制度は2001年に廃止され、軍隊は何のメリットもない「男性にとってのお荷物」に転落した。
一時は「軍隊に行ってこそ分別がつく」「兵役済み優遇」などといわれたが、いまや何の意味もない言葉である。
韓国では軍隊はとても敏感なテーマとなっている。
政府の高位職に就く際、軍隊問題が影響することがあり、子息や親戚の軍隊問題にあたふたするケースは珍しくない。
最近では、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の息子が軍服務期間中、休暇に関する特恵を利用した疑惑が浮上し、有名芸能人の軍服務問題も常に韓国社会を騒がせている。
高位層の息子の軍服務はいつも話題になる。必要なときに作動しない監視カメラの如く、タイミングを選んで病気になる人も多い。
■いまだ韓国に入国できずにいる人気歌手
また、秋美愛氏の息子の軍服務特恵疑惑と合せて、BTSの兵役特例(免除)も世間を賑わせている。
前例は2002年ワールド杯代表選手の兵役特例だ。
法令によるスポーツ関係者が兵役特例を受ける要件は、五輪銅メダル以上、アジア大会金メダル以上の獲得で、ワールド杯は該当しないが、金大中元大統領が特例を認めて公平性を失った。
また兵役特例を目的とする行動も多くなっている。
人気歌手のユ・スンジュンは「必ず軍隊に行く」とインタビューで何度も答えた後、米国籍を取得し、兵役問題で大きな話題を集めた。
ユ・スンジュンは02年に入国禁止を受けて以来、いまだ韓国に入国できずにいる。
芸能人の兵役不正は他にも多い。
虚偽の診断書を提出する例や、また人気歌手だったMCモンは、奥歯をすべて抜いて兵役逃れを試みたことが発覚した。
06年、KBSと聯合ニュースが行なった調査で、資産規模200兆ウォン以上の7大財閥家は兵役免除率が33%と、一般国民の6・4%の5倍を超えていたことがわかった。
なかでもサムスン家の免除率は73%にのぼったが、調査当時の該当者は、現在、グループ企業を率いる立場にある。
義務化されている兵役と軍隊問題が韓国社会で敏感な話題となっているゆえんでもある。
■韓国の軍隊は国を守る以外に若い男たちの青春を消費する所
韓国人の間で、軍隊と兵役は最も不正が深刻な分野と認識されている。
一般人と高位者層、財閥の兵役免除率がはっきりと分かれ、それによる大小の事件が多いのだ。
大韓民国憲法には「国民の4大義務」として納税、国防、勤労、教育が明示されているが、このなかで国防の義務は男性にだけ該当する点も常に問題点として指摘されている。
男性のみが対象の国防義務にフェミニストや女性団体の感情的な主張が反映されることもある。
来年、韓国は徴兵制70周年を迎える。
70年の時間はさまざまな変化をもたらしたが、軍隊も変わったのか。
大部分の韓国人が「そうではない」と答えるだろう。
軍隊の話は男性が集まる酒席で外すことができないテーマだが、愉快な内容はあまりない。
誰がどのように免除を受け、誰がどのような方法で良い所に配置されたという話は至るところで耳にする。
日本と異なり、韓国の軍隊は国を守る以外に若い男たちの青春を消費する所でもある。
最近は、軍隊内部の事件や事故、不正は大きく減ったとはいえ、依然として韓国において軍隊と兵役は社会的に重要な問題を投げかける存在だ。
軍隊と兵役は韓国人が責任を負わなければならない義務であり、最も血気盛んな時期に国家を守るために強制して徴集される若者たちの苦労に、国家は最小限の感謝と尊敬を示さなければならないだろう。
ソウルトンボ
ソウル在住の韓国人ライター
週刊新潮WEB取材班編集
2020年10月11日 掲載