ついにヒトラーと言われ始めた文在寅 内部対立激化で「文禄・慶長」が再現

文在寅大統領をヒトラーと見なす記事を韓国の保守系紙が掲載 驚く声が上がる

記事まとめ

  • 韓国の保守系紙が、文在寅大統領をヒトラーと見なす記事を載せたという
  • ヒトラーと文在寅氏を重ねて描いており、写真も"ヒトラーと握手する独の神学者"を使用
  • 中央日報が文在寅政権と闘う姿勢を明確に打ち出したことに、驚く声が上がっている

ついにヒトラーと言われ始めた文在寅 内部対立激化で「文禄・慶長」が再現

ついにヒトラーと言われ始めた文在寅 内部対立激化で「文禄・慶長」が再現

チョン・ヨンギ氏の記事で使われていたヒトラーの写真(1934年撮影)

 韓国の保守系紙が文在寅(ムン・ジェイン)大統領をヒトラー扱いし始めた。泥沼に陥ったこの国の左右対立を、韓国観察者の鈴置高史氏が読む。


■「無法時代」を告げた総長への懲戒


鈴置:驚きました。文在寅大統領をヒトラーと見なす記事が韓国の保守系紙に載りました。大統領側が報復に出るかもしれません。載せた中央日報は政権と全面対決する覚悟を固めたのでしょう。

 筆者は同社コラムニストのチョン・ヨンギ氏。政治部長、編集局長を歴任した韓国を代表する記者の1人です。

 12月16日早朝、法務部の懲戒委員会は尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長への停職2か月の懲戒処分を決め、大統領も直ちにそれを認めました。翌17日、尹錫悦総長は懲戒処分の執行停止申請と、処分の取り消し訴訟を起こしました。

 問題の記事「<チョン・ヨンギのパースペクティヴ>尹錫悦への迫害に加勢…『宗教が権力に仕えてはいけない』」(12月17日、韓国語版)はこの事件を論じたものです。第1段落のポイントを訳します。

・昨日の法務部による尹錫悦検事総長の懲戒は、無法時代の開幕を告げるものだ。
・「共に民主党」政権の人々は尹錫悦を切って捨てたうえ、監獄に送ることまで可能にする高位公職者犯罪捜査処(公捜処)改正案も通過させたと祝杯を上げているようだ。さて、本当にそうなるのか。
・権力が無法時代を創り出せば、その被害は権力こそが被る。最後に悲惨な横死を遂げるのは支配者だ。まず、民心が離れる。その抵抗により力を使い尽くす。
・国内の分裂と憎悪が、敵に対する時以上に激しくなる。外国から侵略されても壬辰倭乱(文禄・慶長の役)の時のように助けてくれる国民が出てこない。

 チョン・ヨンギ氏は「無法時代の開幕」と断じました。懲戒委員会の決定は法理上からも手続き上からも無理筋と、韓国の保守は主張します。そもそも法務部長官が検事総長を懲戒委員会にかけること自体が検察の中立性を損なうと彼らは強調しています。


■ヒトラーと握手する神学者


――見出しの「宗教」とは?

鈴置:このくだりの後に「宗教」が出てきます。それがこの記事の個性的なところです。第2段落は旧約聖書の引用です。

・戦争をしたくてしかたない王に気に入られようと、400人もの偽預言者が「進軍なさい。勝利は王さまのものです。神もその城を王に手渡すでしょう」と告げた。
・戦争に反対したのはたった1人の真の預言者だけで、怒った王により牢につながれてしまった。結局、王は戦いに敗れ、自身も戦死した。

 チョン・ヨンギ氏は韓国でも同じことが起きた、と嘆きます。文在寅政権が、その中枢への捜査をやめない尹錫悦総長を排除しようと検察改革に乗り出した。すると、韓国のカトリックの司祭らが一斉に検察改革を叫んだからです。

 チョン・ヨンギ氏の筆はナチス時代のドイツに及びます。ヒトラーが政権を握ると、3年前まで全体主義的なナチ党への入党を信者に禁じていたドイツのカトリック教会は180度、態度を変え、禁止令を撤回したうえ「正当な権威への服従」を呼びかけたと言うのです。

 ヒトラーに忠誠を誓ったドイツのカトリックと、文在寅大統領にゴマをする韓国のカトリック――。ヒトラーと文在寅氏を重ねて描いたのです。写真も「ヒトラーと握手するドイツの神学者」を使っています。


■ナチス型の全体主義と通底


 さらに、文在寅政権の民主主義破壊はヒトラーの全体主義と通底する、とも指摘しました。宗教者の言葉を借りてですが。以下です。

・カトリックとプロテスタントの人々が行動を共にする。文在寅政権になって始まった民主主義の破壊現象が、ヒトラーのドイツ型全体主義やチャベスとマドゥロのベネズエラ型動員社会主義の要素を一部に持っていると見る何人かの信者により、連帯が始まった。人権と法治、個人の自由と三権分立など、民主主義の基本的な価値を守ろうとの精神を共有する。
・12月10日にgoogleのリンクを通じ「検察改革に名を借りて権力の侍女に転落した偽りの宗教人を糾弾する」声明書の草案が回覧されるや否や、3日間で1485人が実名と所属教会を明らかにして署名に参加するという爆発力を見せた。


■民主化を主導した韓国紙


――チョン・ヨンギ氏は宗教者への批判を隠れ蓑に「文在寅=ヒトラー」と訴えたのですね。

鈴置:「隠れ蓑」とまでは言い切れません。韓国では日本とは比べものにならないほどキリスト教の勢力が強く、宗教の弊害を説く人も多い。

 チョン・ヨンギ氏は見出し通り「宗教は権力にゴマをするな」とも主張したかったのだと思います。ただ、「文在寅=ヒトラー」と指摘したのも事実です。

これは政権を相当に怒らせる記事です。韓国紙の政府批判は厳しいけれど、大統領をヒトラーと決め付けることはまずない。

 私が驚いたのは、中央日報が文在寅政権と闘う姿勢を明確に打ち出したことです。韓国は1987年に民主化したことになっています。

ただ、その後も政権は様々な経路を通じ、メディアに圧力をかけてきました。この記事も中央日報社が覚悟を固めて載せたと思います。

 1987年の民主化運動の最後のひと押しとなったのは、警察による大学生の拷問死事件を中央日報と東亜日報がすっぱ抜いたことです。これにより国民の怒りは頂点に達し、政府も民主化に向け譲歩を迫られました。

 当時の全斗煥(チョン・ドファン)政権は現在とは比べものにならないほどの強権を振るっていました。両社とも潰されることを覚悟しての特ダネでした。


■文在寅の危険性をただ1人指摘


 その頃の韓国紙の記者には「我が国はこのままではだめになる」との痛切な思いがあった。その思いと権力と向き合う気合いを傍で見て、自然と頭が下がったものです。

 当時の韓国記者が今の、ネットでの読者数を稼ぐために政府から配られるネタを適当に書き散らす記者を見たら、どう思うのだろうかと時々、考えます。

 チョン・ヨンギ氏は文在寅氏の危険さをいち早く指摘した記者です。2017年の大統領選挙戦の最中、「米国が北朝鮮を先制攻撃する際、どう対応するか」と聞かれた文在寅氏は、北朝鮮にそれを知らせる、と答えました。

 この発言を批判的に報じた韓国メディアがほぼ、皆無だったことには驚かされました。その中で、チョン・ヨンギ氏だけが「米国にとって韓国は戦争の機密を敵国に渡す国になる」と指摘しました(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。


■政府系紙も「中立性毀損」に言及


――今の韓国も「このままではいけない」のですか?

鈴置:チョン・ヨンギ氏が記事の冒頭で書いたように「無法国家に転落した」のです。検事総長への懲戒処分は「無法」と批判されても弁解できません。

 秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官は11月24日、メディアとの癒着や政界への転身希望表明などを理由に、尹錫悦総長に職務停止処分を下したうえ、同氏への懲戒を請求すると発表しました。これに対し尹錫悦総長は裁判所に職務停止処分の執行停止を申請しました。
 
 法務部の監査委員会も裁判所も職務停止処分を認めませんでした。前者は手続き上の瑕疵、後者は「尹錫悦総長の勝訴の場合にも、職務停止による損害を回復できない」との理由からです。その後、法務部の懲戒委員会が2か月の停職という懲戒処分を下したのです。

 政府系紙、ハンギョレは社説「初の検察総長懲戒、大統領が率直な説明を」(12月17日、日本語版)で、今回の懲戒委員会の停職処分を「検察に対する民主的統制」と評価しました。

 それでも「検察の中立性の毀損という一部の懸念に大統領は答えよ」と書かざるを得ませんでした。政府系紙とはいえ、「法治の破壊」との批判を無視できなかったのです。

「無法」国家になれば、ただでさえ激しい左右の対立に歯止めが効かなくなります。デイリー新潮の「『公捜処』という秘密兵器で身を守る文在寅 法治破壊の韓国は李朝以来の党争に」でも指摘したように、指導層の内部抗争で滅んだ李朝の再現です。


■握りつぶされるコップ


――チョン・ヨンギ氏の警告は韓国人の耳に届くでしょうか?

鈴置:届かないと思います。世論調査機関、リアルメーターが12月16日、今回の懲戒に関する評価を聞きました。「重すぎる」と答えた人が49・8%、「軽すぎる」が34・0%、「適切だ」が6・9%でした。

 「軽すぎる」と「適切」を足すと40・9%。「重すぎる」の49・8%とさほど変わらない。左派の人々には「民衆を弾圧してきた検察のトップ」への懲罰は痛快な出来事と映っているのです。

 保守系紙が「法治が崩壊する」と警鐘を鳴らしても、左派の耳には「保守の悲鳴」としか聞こえない。そこでチョン・ヨンギ氏は先に引用したように、政権が支持を失い国民が離反すれば外国の侵略に耐えられなくなる、との論理で説得を試みたと思われます。

 「コップの中の嵐」をやっていると、外の大きな手でコップごと握りつぶされるぞ、との警告です。左右対立で周りが見えなくなっている韓国人の目を覚まそうとしたのでしょう。

 韓国は今、国際的に孤立しました(「蚊帳の外から文在寅が菅首相に揉み手 バイデン登場で“不実外交”のツケを払うはめに」参照)。

 そのうえ、内輪もめに明け暮れれば、周辺国から手を突っ込まれ、国の自主性を保てなくなります。


■王宮を略奪・放火した朝鮮の民


――記事は「文禄・慶長の役」に言及しました。

鈴置:ええ、チョン・ヨンギ氏は「文禄・慶長の役の時のように政権は国民に見捨てられるぞ」と述べました。それ以上は言及していませんが、以下の史実を念頭に置いて語っていると思います。

・日本軍の侵攻当初、朝鮮の普通の人々はそれを見守るだけだった。それどころか王が逃げ出した王宮を略奪、放火するなど日ごろのうっぷんを晴らした。派閥争いに血道をあげ、民の安寧を顧みない指導層に多くの国民が愛想を尽かしていたからだ。

――なるほど!当時と似てきましたね。でも今回は、日本が攻めて行くわけでもない。

鈴置:軍事的に攻める時代ではありませんが、外交的には今が「攻め時」なのです。例えば、韓国政府が駐日大使に内定した姜昌一(カン・チャンイル)氏の問題。

 産経新聞は社説「韓国次期駐日大使 改善にふさわしい人物か」(12月12日)で「『日王』と天皇陛下を格下げして呼ぶ人物は日韓関係の改善に寄与しない」と主張しました。

 日本政府が姜昌一氏の駐日大使就任にアグレマン(同意)を出さなくても、韓国政府は反撃しにくい状況です。韓国の保守系紙もこの人事に疑問を呈することで、政権批判に拍車をかけているからです。(「韓国は『アグレマン』前に駐日大使を発表した 『北朝鮮一点買い』で延命図る文在寅」参照)。

 それに2019年、米政府も駐米大使に内定した文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官へのアグレマンを拒否しています。理由は明かしていませんが、文正仁氏の反米的な姿勢を嫌ったと見られています。韓国の孤立を物語る事件でした。


■ベネズエラにも似てきた


――では、日本はアグレマンを出さない?

鈴置:日本はカンが鈍い国になりましたから、この「チャンス」を見逃す可能性が高い。でも、中国や米国は韓国の内紛につけ込んで自分の勢力を拡大しようとするはずです。

 韓国との同盟に重きを置かないトランプ(Donald Trump)政権から一転、バイデン(Joe Biden)次期政権は同盟国重視の姿勢に転換します。韓国への「介入」が本格化するのは間違いありません。

 激しい左右対立で混乱するベネズエラには今、米中両国が介入しています。チョン・ヨンギ氏が記事の中で、文在寅大統領をヒトラーに加え、チャベス氏らベネズエラの左翼政権のリーダーに例えているのが何やら象徴的なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月21日 掲載

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