韓国の空港にはヒエラルキーがある? <下川裕治のどこへと訊かれて>

韓国の空港にはヒエラルキーがある? <下川裕治のどこへと訊かれて>

旅客ターミナル。ここを利用する限り快適な空港だ

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第11回は韓国の仁川国際空港から。

*  *  *
 自国の航空会社を優遇する……これはしかたないことかもしれない。その国の人たちの利用頻度が高いという理由もある。しかしあまりに露骨に設計されると、ときに不愉快さを覚える。

 ソウルの仁川国際空港である。

 この空港の搭乗ターミナルは、旅客ターミナルとコンコースと呼ばれる搭乗棟に分かれている。ふたつのターミナルは、スターラインという地下を走る電車で結ばれていて、上から見ると、コンコースが出島のような形になる。その構造が悪いわけではない。

 旅客ターミナルを利用するのは、圧倒的に大韓航空とアシアナ航空だ。ほかの国の航空会社は、だいたいコンコースを利用する。しかし出入国審査は、旅客ターミナルに集中している。大韓航空とアシアナ航空以外の飛行機に乗ると、電車に乗って移動しなくてはならないのだ。

 これだけ露骨に、自国の航空会社を優遇する空港も珍しい。それはある種の愛国心かとも思っていたが、そうでもない。

 あるとき、韓国のLCCであるチェジュ航空に乗った。チェックインをすませると、職員からこういわれた。

「搭乗口までは40分から50分かかりますから、早めに向かってください」
「40分から50分?」

 一瞬、腰が引けた。早朝だった。睡眠時間も少なく、体のなかには、昨夜、無理やり飲まされたソジュという韓国の焼酎がたっぷりと分解されずに残っていた。

「ここから1時間近くも歩くのか……」

 なんだか登山をしているような気分になった。搭乗口に着いてわかったのだが、チェジュ航空は、コンコースの隅っこが割り当てられているのだ。近くの搭乗口を利用しているのは、同じくLCCばかりだった。

「ここまでやるか……」

 こういう他社への冷遇を目の当たりにすると、自国を優遇するというより、大韓航空とアシアナ航空至上主義にも映る。いや、空港建設を支えたのはこの2社ということなのか。

 一度、チェンマイに住む日本人の老人と一緒にソウル経由で日本に帰国したことがあった。老人は脳梗塞を患い、車いすでの移動だった。利用したのは大韓航空だ。チェンマイからの飛行機が仁川国際空港に着く。当然、旅客ターミナルだ。空港職員が用意してくれた車いすに老人が乗り、僕は彼の荷物を手に乗り換えた。旅客ターミナルには、一般の人が利用できない、車いす専用乗り換えエレベーターや通路が用意されていた。ものの10分もかからずに、乗り換えることができてしまった。

「この空港は便利だね」

 車いすに乗った老人が口を開く。

「そ、そうですね」

 以前、コンコースの隅まで延々と歩いた身にしたら、素直にはうなずけなかった。

 搭乗口で待っていると、コンコースに駐機しているチェジュ航空が見えた。

「大韓航空とアシアナ航空の乗客以外は乗客にあらず」

 そこまではいわないが……。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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